日本の転職者採用の場では、履歴書や職務経歴書に基づき「前の職場でどんな仕事をやってきたのか」「前の会社を辞めた理由は何か」などへの回答をはじめとするコミュニケーションが重視される半面、前職で獲得したスキルへの評価は軽視されがちです。

応募者から語られることもあくまで「自己申告」でしかなく、結果的に双方にとってミスマッチとなることがよくあります。こうした状況を改善するために「評価データのポータビリティ」という考えが提言されています。

ポータビリティが求められる背景

EVALUATION
(写真=garagestock/Shutterstock.com)

日本で長らく当たり前だった、企業の終身雇用制が崩壊して久しくなりました。低賃金で長時間労働をさせる「ブラック企業」が社会問題化する一方、フレックスタイム制やテレワークなど働き方を柔軟化するトレンドも顕在化しています。「ひとつの会社を定年まで勤め上げることの美徳」はすでに風化している傾向にあり、転職への心理的ハードルは下がっています。

現状、転職者の採用過程は、履歴書と職務経歴書をもとにした質疑応答がメインという選考方法が一般的です。新卒と違い、転職者は前の職場でどんなスキルやキャリアを獲得したのかが大きなポイントとなります。にもかかわらず、そのスキルやキャリアを客観的に証明するものが何一つないのです。

転職先の業種が少しでも違うと、前職で血のにじむような努力で獲得したスキルや、残した実績がどれくらい意義深いものであるのかが理解されにくいのです。一方、職務経歴書の記載内容や、転職者の説明が誇張されていた場合、採用する側は完全に信用するか、逆にあまり重要視しないということになってしまいます。

転職者にとっては、転職活動の期間が長くなるほど収入が途絶えますし、次に正社員になれる可能性が小さくなってしまいます。このため、採用を出してくれた企業の内情を十分に把握することなく駆け込んでしまうことも多いでしょう。結果、双方にとってミスマッチとなるケースが多くなっています。

評価データのポータビリティとは

このような不幸な状況を減らすために提言されているのが「評価データのポータビリティ」です。各企業が人事評価制度の規程に即して行った評価のデータを、社員が転職時に持ち運べるようにすることです。転職先として検討している企業に応募する際、履歴書や職務経歴書の提出が行われますが、それに加えて評価データを添付し、提出するようなイメージが近いでしょう。

もちろん、このデータに信頼性を持たせるためには、企業間で横断的に利用できる、業界共通の評価基準が構築されていることが前提となります。社会全体に浸透させ「インフラ化」させるには、労働基準法を改正して、評価規程を盛り込んだ就業規則の届け出を義務化させる措置が必要になるかもしれません。

前職での評価データを、客観的で普遍的なものとして転職活動に活用できる仕組みを作れば、人材のマッチングは飛躍的に高まるのではないでしょうか。また、自身の評価データがこのように活用される可能性を頭に入れ、より戦略的にキャリア設計を図っていく助けともなるでしょう。

直ちに転職する必要性を感じていないとしても、こうした仕組みがあれば自身の働き方を定期的に、外の目でチェックすることの助けになるかも知れません。

制度導入のメリットは

企業の側から見ても、制度導入に伴うメリットはあります。例えば、蓄積した評価データに基づき、求める人材の評価項目や、評価結果ごとの待遇をあらかじめ示しておけば、採用も効率化されるでしょう。

いわば大学受験において、センター試験で一定の得点がないと「足切り」となるようなものと考えてもいいでしょう。明らかにミスマッチとなってしまう応募者に、時間を割くこともありません。

今後、各企業でこのような制度を構築し改善させていく動きは、今以上に活発化することでしょう。そのような企業は中途採用市場において「ホワイト企業」とアピールすることができ、自社の一層優秀な人材の獲得に貢献することは間違いありません。(提供: あしたの人事online

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