●7/20のECB理事会を前に、ユーロ圏の金融政策の"出口"の時期が注目されている。マクロ的には、成長率、インフレ率ともに足元はやや弱めだが概ね堅調に推移、格差も縮小傾向にある。

●金融政策のボトルネックだった銀行システムリスクは、先月、最も深刻なイタリアで最弱3行の処理が決まったことで後退。しかし、追加処理が必要となり、政府の財政を圧迫する可能性は残る。

●加えて9/24にドイツ議会選、10/1にスペイン・カタルーニャの独立を問う国民投票等も控える。ECBの緩和縮小は9月開始でも、緩やかなペースになると予想する。ユーロの頭は徐々に重くなるだろう。

欧州のマクロ環境:ポイントは域内国の格差縮小

7月20日のECB理事会を前に、ユーロ圏の金融政策の動向が注目されている。既に4月から、資産購入プログラムの月次債券購入額を600億ユーロに縮小している(これ以前は800億ユーロ)が、更に、いつ、どの程度まで縮小・または停止されるかという思惑でユーロは堅調に推移している(図表1)。

欧州経済では、GDP、インフレ率、センチメント指数等いずれも堅調に推移している(図表2~4)。改善のスピードはやや鈍化しているが、それより大事な点は、「格差の縮小」である。金融を引き締めに転換する上で最大のボトルネックであったギリシャ、イタリア等の脆弱国のマクロ環境の回復で、ECBは金融政策を転換し易くなっている。

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資産購入プログラムの縮小は、恐らく9月7日の理事会で決定される可能性が高いだろう。マクロデータ的には昨年末か年初でも政策転換は可能だったと思われる。しかし、オランダ、フランスの選挙やイタリアの銀行処理がペンディングだったため、金融引き締めに舵を切るのは難しかった。ところが選挙も無事通過し、先月、以下の通り、イタリアの脆弱3行の資本増強が決定したことでECBは圧倒的に身軽になった。

イタリアの銀行改革:ECB的にはひとまず安心できる内容だが、追加処理は必至

今回資本注入が決まったのは、イタリア第4位のモンテパスキと、2つの地方銀行バンカ・ポポラーレ・ディ・ビチェンツァとベネト・バンカの2行の地銀である。これで、昨年末以降4行の官民の再建策が取られた形になる(図表5)。今回の公的資金と民間増資額の合計は最大354億ユーロ=4.6兆円に上る。

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但し、これだけでは処理は終わらない可能性が高い。イタリア全土の不良債権比率は14.8%、概算で約2,300億ユーロに上り、他国とは大きな乖離がある(図表6)。担保や引当金でカバーされている割合は50.6%となっているので、1,150億ユーロの不良債権が無担保・未引当で残っている計算になる。これに対して、昨年来の再建関連の追加資金は354億ユーロにすぎない。

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また、仮に現在の不良債権比率を、ウニクレディトの2019年の目標である8.4% まで引き下げるには、イタリア全土で、あと980億ユーロ、12.7兆円の不良債権処理が必要となる。更に、欧州平均の4.8%まで低下させるには1,530億ユーロ、19.8兆円の処理が必要だ。

例えば不良債権買取ファンドなどに売却を進めた場合、市場での売却価格は2割から4割程度とみられる。引当金がどの程度計上されているかは不明だが、追加で数兆円の損失が発生する可能性が高いだろう。

更に、来年には中小金融機関の検査がECBで予定されており、不良債権の増加が懸念される。また、中期的には、イタリア固有のファミリービジネスの多さなど、解決しにくい問題で処理に時間がかかる可能性もある。

イタリアの財政問題、総選挙のリスクもくすぶる

このように、イタリアの不良債権問題解消にはもう少し資金が必要とみられる。しかし、政府の余力は限定的である。

イタリアの政府債務のGDP比率は150%と、ユーロ圏他国を大幅に上回る(図表7)。財政収支赤字もGDP比2.4%と高止まりしている。このため、今年の10月までに歳出170億ユーロの政府収支改善策を議会で可決しなければならない。

一方、来年5月までに行われる総選挙に向け、増税は最小限にとどめて財政を改善する必要がある。6月にはナショナル・フラッグのアリタリア航空も、何度目かの窮地に追い込まれた。こちらについては、今のところ政府は介入しないと報じられているが、いずれにしても、銀行だけに予算を注ぎ込むわけにはいかない。このため、たとえ金融システムの健全化のために必要であっても、公的資金の大盤振る舞いはしにくい。

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ECBは9月には政策転換へ。但し、引き締めは緩やかなスピードで

欧州では、9/24にはドイツの議会選挙、10/1にはスペイン・カタルーニャ州の独立を問う国民投票も予定されている。更に、来年5月までにイタリアの総選挙も控えている。一時のポピュリズム志向は若干鳴りを潜めたが、もし急速に金融を引き締め出遅れ国の景気が冷え込んでしまったら、再び国民感情が反ユーロに傾きかねない。

このため、金融政策の転換は緩やかに進められると思われる。9月時点では、まず月次の資産購入規模を600億ユーロから400億ユーロ程度に圧縮しつつ、様子を見ると思われる。現在マイナス0.4%となっている中央銀行預金金利は据え置き、市場の様子や企業や個人のセンチメントの変化をみると思われる。その上で、もし悪影響が出ないことが確認できれば、12月以降に利上げ、というシナリオと考える。

このようなシナリオの場合、現在のユーロ上昇の勢いは鈍化する可能性が高いだろう。今週のECB理事会の声明やドラギ総裁の会見、月次のインフレ率や銀行の動向に注目したい。

大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券 チーフ・アナリスト

【関連リンク マネックス証券より】
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