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広木隆の実践的な株式投資戦略

【ストラテジーレポート】危機は去ったのか?

リリーフ・ラリーの域を超える

広木隆,ストラテジーレポート,日経平均
(写真=Pavel Ignatov/Shutterstock.com)

昨日270円高と大幅反発した日経平均は今日も230円高と続伸、この2日間でちょうど500円戻した。こういう局面では、しばしば「所詮、買い戻しの域を出ない」とのコメントが散見されるが、今日の上げは単なる買い戻しの範囲を超えている。相場の潮目が変わりつつあると思う。

9日の北朝鮮・建国記念日を警戒して相当なヘッジがかかることは想像に難くなかった。先週末、相場が急激なリスクオフに傾いたのは自然な流れだった(ハリケーン「イルマ」もそれに一役買った)。北朝鮮情勢が何事もなく週末を通過した安心感から、昨日はそのヘッジの買い戻しで上げたが、それでもなお国連安保理での制裁決議の行方を巡って不透明感があったためすべてが買い戻されたわけではなかったのだろう。東証1部の売買代金が2兆円に届かなかったのがその証である。

本日の寄り付き前に国連安保理で北朝鮮への制裁決議が全会一致で採択されたことが伝わった。米国は当初、北朝鮮への原油の全面禁輸や金正恩の資産凍結などを盛り込んだ決議案を示していたが、原油や石油精製品の輸出に上限を設ける案に変更、米国が譲歩した格好だ。これで北朝鮮が過度な反発姿勢を見せなければ、米朝関係の緊張はいったん緩和する。中国・ロシアの反対があってこそ制裁が軽いものとなった。北朝鮮も中・ロに配慮すれば拳を振り上げてみせるわけにはいかないはずだ。市場はそう読んだのだろう。しばらく北朝鮮が静観を保てば、市場は落ち着きを取り戻すだろう。今回、北朝鮮情勢が緊迫したそもそもの発端であるグアム沖へのミサイル発射示唆があった8月9日の大幅安(257円安)を埋めて、日経平均は再度2万円を挟む保ち合い水準に回帰すると思われる。

今週のマーケット展望」では、相当慎重なスタンスを示した。昨日のオンラインセミナーでも参加者の方から「スタンスの変更はないか?」と問われて、まだ危機は去らず大底が入るのは先であると述べたが、目先の下値不安が薄らいだのは事実だろう。昨日のセミナーでの発言を撤回する。「マーケット展望」での見通しも変更し、上記の通り、「2万円を挟む保ち合い水準に回帰」を当面のメインシナリオとしたい。

米国金利上昇の兆し

では危機は去ったのか?昨日の相場上昇の背景を某メディアでは「地政学リスクの後退により」と解説していた。重箱の隅をつつくようなことだが、地政学リスクとは、「ある特定の地域が抱える政治的・軍事的な緊張の高まりが、地理的な位置関係により、その特定地域の経済、もしくは世界経済全体の先行きを不透明にするリスクのこと」だから、そう簡単に変化するものではない。無論、北朝鮮を巡る地政学リスクも依然として「後退した」と言えるようなレベルではない。北朝鮮は核ミサイル配備の方針を放棄しないだろうし、米国はそれを止めさせる術をもたない。米国は、北の核ミサイルが米国本土に照準を合わせることを指をくわえて見ているだけなのか。北朝鮮にとっても制裁が当初の米国案より軽減されたとはいえ、ありがたいものでないのは確かだから、いつまた報復に動くかわからない。北朝鮮を巡る情勢は、のどに刺さった魚の刺がいつまでも抜けないような気持ち悪さが続くと覚悟したほうがいい。

そのうえで、大きな状況の変化がある。米国の債務上限問題が(問題先送りとはいえ)いったん解消したことである。暫定予算と債務上限凍結の一体法案が議会で通った。トランプ大統領が民主党の案を丸のみしたからだ。これについては共和党指導部は怒り心頭だろう。

共和党指導部は来年の中間選挙後まで長期の債務上限引き上げを狙っていた。きわめて正当な案である。本来、それを中心に議論すべきだ。中間選挙後までの長期の引き上げは2015年の決定にならったものであろう。2015年も秋に今年3月まで債務上限の効力を停止する法案で合意した。その前の2013年秋から2014年初頭にかけて債務上限と暫定予算の先送りを繰り返し、政治と市場の混乱を招いた教訓を活かした決定だった。共和党指導部が2015年の決定に倣うのは当然であったろう。中間選挙前に債務上限問題でこじれるのは避けたいからである。

それが政治家のまっとうな発想だがトランプ大統領は政治家でなくビジネスマンだということだ。政治的に正しい選択肢よりも目先の利益を優先し、ディールをまとめるためには時には敵とも組む。それが民主党案丸のみの債務上限先送り合意である。

トランプ大統領が熟考したとは思えないが、結果的にこの選択が日本株相場には好材料をもたらしたと思う。まず、今月のFOMCでバランスシート縮小が決定できる。財務上限問題があったときは、果たしてここで決められるかという不安があった。加えて、国債の需給が緩む。これまでは債務上限の効力があったため国債発行が抑制されていたが、債務上限が引き上げられたため発行ペースが増す。少なくとも期限の12月8日前まではそうなる。いや、むしろ駆け込み発行が増えるかもしれない。

いずれにせよ米国金利の上昇は、ドル高を通じて日本の外需株や金融株に好材料だ。そして、外需や金融といったこれまで上値の重かった業種が買われれば日本株全体の浮揚力になる。いまはまだ兆し程度であるが米国金利の上昇が本格的に始まるか、要注目である。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト

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