元プライベートバンカーで、現在はフィンテック企業の経営者として金融情報に精通する著者が、その知識と経験を初めて公開する 『プライベートバンクは、富裕層に何を教えているのか?』 がついに発売! この連載では、同書の一部を改変して紹介していきます。
今回は、旧来からの富裕層である「地主」と、新興勢力ともいえる「不動産投資家」の実態を見ていきます。
「地主」と「不動産投資家」の大きな違い
富裕層のなかでも不動産オーナーは、先祖代々土地を受け継いできた「地主」か、自らの手で財を築いた「不動産投資家」で属性が極端に異なる点が特徴です。
◎ストックを活かし切れない地主
「かつてはこの周辺、全部うちの土地でした」が口癖の地主は、土地を切り売りしていった結果、その多くが一丁目一番地や二丁目一番地など「一番地」に住んでいることが多いのが特徴です。
高すぎる相続税によって没収に次ぐ没収を経験している彼らは、とにかく税金が大嫌い。スムーズな資産承継のために、長年付き合いのある税理士が参謀についているケースが目立ちます。
普段は自分の土地に立てたマンションや駐車場、ビルなどの賃貸収入で生計を立てているので、資産運用についてはリスクの高い運用には興味を示さず、保守的な人が多いと感じます。
プライベートバンカーとしてもどかしさを感じることが多いのがこのケースで、家賃収入などがあるとはいえ、持っている潤沢なストックをフル活用しているとは言い切れないからです。
「原資が多ければ多いほど、お金を生み出すことは簡単になる」──これが資産運用の基本です。たとえば資産1000万円の人が資産運用で1億円まで増やすのは至難の業で、奇跡的に10%の利回りをずっと続けられたとしても複利運用で25年かかります。
でも、すでに10億円持っている人が資産運用で1億円を生み出すのはそう難しくありません。10%の利回りなら1年で、3%くらいの安定した商品であっても複利で運用すれば3年で作れます。
世の中の個人投資家たちからすれば、不動産であろうとすでにストックを持っていることは最高のアドバンテージなのですが、多くの地主はそこに気づいていません(お抱え税理士が面倒な仕事を避けるために、敢えて入れ知恵をしないのかもしれませんが……)。
ちなみに私がシンガポール赴任時によく見た華僑系の富裕層は、本業で築いた資産(ストック)を使って、より高い利回りが狙える新興国の株式や高利回り債券などに投資をして資産を増やしていく手法が「常識」でした。
ユダヤ人の富裕層も同じような傾向にあります。むしろ、そういう発想を持っているから富裕層になった、ともいえるでしょうが。
「先祖代々受け継いだ土地だから安易に売れない」という気持ちはわからないわけではありません。でも結局、固定資産税を払い続けたうえに、相続のときに多額の相続税が払えずにやむなく手放すのであれば、あらかじめ一部を現金化して資産運用の選択肢を広げ、最終的に土地を守るという方法もあるはずです。
よってプライベートバンクが地主に提案することの多くは、どうしても相続絡みになってくるのですが(特に相続税を支払うキャッシュをどう確保するか)、最近、資産運用をしつつ相続対策にもなるちょうど中間的なものとして地主の注目を集めているのがフットサルコートです。
そもそも大地主が街中のいたる所に駐車場を持っているのは、上物がないためにいざというときに売りやすいからです。その点、フットサルコートに必要な上物は簡易的な事務所とネットと芝くらい。それでいて駐車場よりも利回りが高いので、建造費をたった1年で回収できるケースもあります。
また、2016年末に上場したフィル・カンパニーという会社は、駐車場の上に商業施設や住宅、オフィスを立てる「空中店舗フィル・パーク」というユニークな設計手法に特化した会社で、このつくりであれば、駐車場のオーナーは駐車場代と家賃の両方でお金が入ってくるので、より良い利回りが狙えるのです。
こうした最先端の投資手法を含め、土地活用の方法をプライベートバンクが勧めることもあるのです。
◎繰上返済を好む不動産投資家
相続型の地主と違って、不動産投資のノウハウを学びながら自力で資産を増やしてきた富裕層は、わりあい資産運用には積極的です。
ただ、ほとんどの不動産投資家は不動産専門なので、金融商品については一般人の知識レベルと変わらないケースが多いと思います。
それに彼らの最大の懸念は巨額の借り入れなので、資産運用に回すお金があったら繰上返済に回したいと思う人が多いのが実情です。「不動産以外にも分散したほうがいいですよ」というプライベートバンクの助言に耳を傾けてくれる投資家は一部に限られます。
もちろん、プライベートバンクをまったく使わないわけではありません。しかし、自分自身で投資戦略を練り、その道を極めてきた人たちなので、資産運用の提案内容にしろ、手数料などの条件交渉にしろ、かなりシビアな人たちが多いというのが印象です。