公的年金財政の見通しの作成(財政検証)は、少なくとも5年に1度は行うことになっている。前回は2014年であり、次回は2019年までに実施する必要がある。前回の財政検証を受けて2016年に制度改正が行われたが、審議会(社会保障審議会年金部会)で検討された項目の一部しか法案に盛り込まれず、いくつかの課題が残された。

次期公的年金改革
(画像=PIXTA)

残された課題のうち企業と関連が強いのは、短時間労働者(パート労働者)への厚生年金の適用拡大である。これに関しては、これまで2度の改正が行われている。2012年の改正を受けて、正社員501人以上の企業で週20時間以上勤務する短時間労働者の一部(賃金等の要件あり)を対象にした拡大が、2016年10月に実施された。また昨年の改正を受けて、正社員500人以下でも労使が合意すれば、企業単位での任意適用が可能になっている(2017年4月から)。

短時間労働者への適用拡大はこのように進展しているが、これまでの改正には継続検討を求める附則や附帯決議が付されている。2012年の改正では、施行後3年以内にさらなる拡大を検討することが、改正法の附則に盛り込まれた。昨年の改正では、公的年金は強制適用が基本原則であり、今後の適用拡大では原則を踏まえることが、附帯決議に盛り込まれている。これらを踏まえて、次期改正でもさらなる適用拡大が検討される可能性がある。

また、昨今の税制改革議論と絡めて、所得が高い高齢者に対して基礎年金の一部(国庫負担分の一部または全部)を不支給にする案も、検討される可能性がある。

次期公的年金改革
(画像=ニッセイ基礎研究所)

このほか、国民年金が適用される期間を現在の20~59歳から20~64歳へ延長する案は、審議会(年金部会)で検討されたが法案には盛り込まれず、残された課題となっている。この案は、雇用延長等で会社員への厚生年金適用が60歳以降にも拡大している現状を踏まえ、それと足並みを揃える形で国民年金の対象も拡大する、という案である。

それと同時にこの案には、将来の基礎年金の水準が大幅に低下する問題への対処、という意味合いもある。公的年金の保険料は2017年9月から実質的に固定されており、今後は、年金財政がバランスするまで、給付水準を実質的に低下させることになっている。2014年に公表された将来見通しのうち経済状態が改善する前提では、基礎年金(1階部分)の給付削減は2043年まで続き、将来の給付水準が2014年と比べて▲29%、実質的に低下する見込みとなっている。他方、厚生年金(2階部分)は、2019年度前後まで削減が続き、給付水準が▲3~5%下がる見込みである。また、経済が低迷する前提では、年金財政がバランスするまで給付削減を続けた場合、基礎年金で▲39~45%、厚生年金で▲11~15%、給付水準が低下する見込みになっている。

次期公的年金改革
(画像=ニッセイ基礎研究所)

このように厚生年金よりも基礎年金で給付水準の実質的な低下(目減り)が大きいことは、会社員OBの中でも現役時代の給与が少ないほど、年金額全体の目減りが大きいことを意味する。現役時代の給与が少ないと厚生年金の金額が少なく、年金全体に占める基礎年金の割合が大きい。他方、目減りの程度は厚生年金より基礎年金で大きい。この2つを合わせると、現役時代の給与が少ないと年金額全体の目減りが大きくなる。つまり、逆進的な給付削減になっている。

そこで、国民年金への加入期間を現在の40年から45年へと延長し、その5年分だけ基礎年金の水準を上積みするのが、前述した国民年金の適用期間延長案の狙いである。しかし、国民年金の加入期間を延長しても、根本的な原因である基礎年金の給付削減が厚生年金よりも長引く状況は、ほとんど解決しない。国民年金の加入期間を延長した場合(経済改善ケース)の試算結果をみると、給付削減の終了年は、基礎年金が2042年、厚生年金が2021年前後と、両者のずれはほとんど解決せず、逆進的な給付削減の傾向が残っている。今後の議論に注目したい。

中嶋邦夫(なかしま くにお)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

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