富裕層はグローバルに運用を展開している。為替が円高に振れた場合でも合理的に為替差損を活用する方法がある。

円高の為替差損の対処法とは?

確定申告,富裕層
(画像=Vacancylizm/Shutterstock.com)

円高で為替差損を含んでいる場合に、その為替差損にあたる部分を「損益通算」できる可能性がある。外国株式等(海外ETFや外国株式等)に投資をしている場合だ。仮定として、米国市場の海外ETFの円高対処の事例を考えてみる。(数量はわかりやすさを優先し「株」という表現とする)

2017年1月 USDJPY(TTS)=114.81、プライス40ドル、2178株

購入時の日本円ベース(円評価)は114.81×40×2178=約10,002,247円
購入時の円換算の金額は、「購入時のTTS為替×ドル建て金額」である。

2018年2月 USDJPY=106.52、プライス40ドル、2178株

売却時の日本円ベース(円評価)は106.52×40×2178=約9,280,022円
売却時の円評価の金額は、 売却時のTTB為替 ×ドル建て金額である。
日本円ベースでは、「譲渡損失:722,225円」となる。   ドル建ての投資をベースにしている富裕層はこの実現損失については寛容だ。理由は、このケースではドル建ての金額が変化していないからである。ドル建て金額は 40ドル×2178株と変化していない。ドル建ての評価で何ら損失が出ているわけではないのだ。

そして、この為替差損「722,225円」は、他の上場株式の配当や譲渡益と損益通算の対象になる。日本上場株との損益通算も可能だ。為替差損を「株式等の譲渡損失」として計上することが可能と考えられるのだ。

配当に課税されていた20.315%(2018年2月現在)の源泉徴収部分との損益通算で結果的に税金のメリットを享受できる可能性がある。そして、株式の売買手数料はかかってしまうものの、翌営業日以後にプライス40ドル、2178株を買い戻すと、ドルベースのポートフォリオの変化はほぼ、無いのだ。(為替の変動リスク、価格の変動リスク、タイミングによる配当落ちリスクを除く)

外貨預金の為替差損は証券と損益通算不可

勘違いして欲しくないのは、外貨預金では別の計算方法になるということだ。外貨預金の税金は利息部分について20.315%(2018年2月現在)の源泉徴収となる。為替差益については「雑所得」として総合課税となることから、所得税だけで40%超の負担をしている富裕層にとっては「雑所得」の為替差益計上は負担が大きいと考えられる。そして為替差損が発生した場合は、「他の雑所得」としか損益通算ができない。証券関連の利益と損益通算ができないのだ。

一般口座の取得価格に注意

取引金融機関を変更して株式等を移管した投資家は、売買時の譲渡損益が正しいのかをきちんとチェックする必要がある。移管される前の正しい取得価格がわからないため、取得価格をゼロ、売買時の譲渡益は売買時の時価となっている場合が考えられるからだ。そのデータの通りに申告してしまうと、本来払う必要のない余分な譲渡益に対する税金を支払ってしまうことになるのだ。

税理士・会計士にも専門性があり、不得手な部分もあると考えるのが普通だ。新たに外国株式取引を開始した時点では、税理士・会計士にとっても今までに経験のない外国株式等の処理であるので、内容をしっかりと確認してもらう必要があるだろう。

なお、特定口座で購入した海外ETF等であっても、「株式併合」のイベントが発生した場合は要注意だ。例えば4000株を今後1000株扱いにする、「4:1」の株式併合では、特定口座で購入した明細が一般口座に移されてしまっている場合もある。すると簿価が消滅してしまっている場合もあり、損益の管理には十分な注意を払う必要がある。

GPIFの40%は外国株+外国債券、リターンは3.92%

日本の投資家には内向き志向があると感じる。日本の債券と日本株にしか投資をしていない場合もあるようだ。しかし、我々が社会保険料として納めた年金積立金を、GPIF (Government Pension Investment Fund 年金積立金管理運用独立行政法人) という日本の年金基金が運用している。

そしてそのGPIFが運用している、実に約40%は「外国株+外国債券」が占めている。 リスクを取った運用の結果、GPIFの2016(平成28)年度のリターンは5.86%であった。2016年度はとても好調であったが、いつもこの様に推移するとは限らない。2018年2月の為替の円高、株価の調整の前ではあるが、2017年9月から12月の第3四半期でもGPIFのリターンは3.92%であった。

世界の投資家はグローバル運用

ホームカントリー・バイアスという言葉がある。日本人であれば、「日本びいき」で日本株だと何となく安心感があり、海外投資に対して慎重になることである。

円にこだわって、コストのかかっている「為替ヘッジ」を使ってむりやり円建てにする投資はOK、という判断をしている場合があるのだが、コスト高の運用となるリスクをはらんでいるのではないだろうか。世界の株式時価総額に対する日本の株式シェアは9%弱だ。例えば、世界的な著名投資家ウォーレン・バフェットが日本株と日本債券しか持っていないということがあるだろうか?

投資家は金融を使いこなすチカラ、知識を充実し、富裕層やプロが資産運用に採用しているグローバルな視点からの運用方法、為替の対処法を参考にして欲しいと思う。

(本件は一般的な税務の考え方を示したものであり、具体的な税金の事柄につきましては税理士、会計士等税務専門家にご確認下さい。個別の税務に対する質問や相談には法令遵守の立場から回答を控えさせていただきます)

安東隆司(あんどう・りゅうじ)
RIA JAPANおカネ学株式会社代表取締役。CFP®ファイナンシャル・プランナー、元プライベート・バンカー。日米欧の銀行・証券・信託銀行に26年勤務後、独立。お客様サイドに立った助言を実践するためには高い手数料は弊害と考え、証券関連の手数料を受け取らない内閣総理大臣登録の「投資助言業」を経営。著書に『個人型確定拠出年金iDeCo プロの運用教えてあげる!』等がある。