個人金融資産(17年12月末): 17年9月末比では35兆円増
2017年12月末の個人金融資産残高は、前年比70兆円増(3.9%増)の1880兆円となった(1)。残高はこれまでの最高であった昨年9月末の1845兆円を大幅に上回り、3四半期連続で過去最高を更新した。年間で資金の純流入が29兆円あったうえ、大幅な株価上昇によって、時価変動(2)の影響がプラス41兆円(うち株式等がプラス36兆円、投資信託がプラス8兆円)発生し、資産残高が大きく押し上げられた。投資信託の残高も過去最高の109兆円に達している。
四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(昨年9月末)比で35兆円の増加となった。例年10-12月期は一般的な賞与支給月を含むことからフローで流入超過となる傾向が強く、今回も16兆円の流入超過となった。さらに、市場では世界的な景気拡大などを受けて株価が大きく上昇(9月末20356円→12月末22764円)したため、時価変動の影響がプラス19兆円(うち株式等がプラス16兆円、投資信託が4兆円)発生し、資産残高の増加に寄与した(図表1~4)。
なお、家計の金融資産は、既述のとおり10-12期に35兆円増加したが、この間の金融負債は2兆円の増加に留まったため、金融資産から負債を控除した純資産残高は33兆円増の1560兆円となった。こちらも9月末を上回り、過去最高を更新している(図表5)。
ちなみに、その後の1-3月期については、一般的な賞与支給月を含まないことから、例年フローで数兆円の流出超過となる傾向がある。さらに、株価が今のところ12月末から大幅に下落、円も上昇(外貨が下落)しているため、時価変動の影響が20兆円弱マイナスに寄与していると推測される。従って、現時点の個人金融資産残高は1850兆円余りに減少していると考えられる。
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(1)2017年7-9月期の数値は確報化に伴って改定されている。
(2)統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。
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内訳の詳細:「貯蓄から投資へ」の流れは未だ部分的・限定的
10-12月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を見ると、例年同様、季節要因(賞与受け取り等)によって現預金が流入超過(積み増し)となった。流入規模も例年並みであり、その大半が流動性預金(普通預金など)に回っていること、引き出しに制限があるにもかかわらず預金金利がほぼゼロになっている定期性預金からの資金流出が続いていることも従来から変わりない。
リスク性資産に関しては、株高に伴う利益確定売りや年末を控えた節税売りにより、株式等が2.5兆円の流出超過となった一方、投資信託は1.1兆円の流入超過となった。それぞれ、流出入の規模は例年同期と大差ない状況。その他リスク性資産では、対外証券投資(0.4兆円の流入超過)、外貨預金(0.04兆円の流入超過)への小幅な資金流入が見られる。
以上のとおり、リスク性資産への投資はまちまちであり、増勢が強まっているとはいえない。引き続き、一定の元本保証がある流動性預金に資金が滞留しており、「貯蓄から投資へ」の流れは未だ部分的・限定的に留まっている。
なお、株と投資信託に外貨預金や対外証券投資などを加えたリスク性資産の残高は353兆円と9月末から18兆円増加し、その個人金融資産に占める割合は18.78%と2007年6月末(18.81%)以来の高水準となった。ただし、株価上昇等による保有資産の時価上昇が残高押し上げに寄与した面が大きい。時価上昇によって金融資産に占めるリスク性資産の割合が高まっていることも、リスクテイクをそれほど好まない家計におけるリスク性資産への投資を抑制している可能性がある。
その他証券では、国債が4四半期ぶりに流入超過となった点が目立つ。個人向け国債には最低金利保証(0.05%)が付いており、預金に比べた投資妙味が高まっているため、従来よりも選好されているとみられる(図表6~9)。
その他注目点: 日銀の国債保有シェアの伸びが鈍化
2017年の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると、従来同様、企業(民間非金融法人)と家計部門の資金余剰が政府(一般政府)の資金不足を補い、残りが海外にまわった形となっている(図表10)。そうした中、2016年との比較では、企業の資金余剰が2.9兆円減少した一方で、家計の資金余剰が10.8兆円も増加している。家計の資金余剰は2011年以来6年ぶりの規模となる。雇用者の増加によって雇用者報酬が伸びた割に消費が伸び悩んだことが背景にあるとみられるが詳細は不明。
12月末の民間非金融法人のバランスシートを見ると、現預金残高は257兆円と、過去最高であった9月末(259兆円)から2兆円減少した(図表11)。一方、前年比でみると13兆円増加しており、引き続き現預金残高は高い水準にある。
なお、この間の借入の増加幅は18兆円と現預金の増加幅を上回っており、借入から現預金を控除した純借入額(156兆円)も前年比で5兆円増加している。
国庫短期証券を含む国債の12月末残高は1092兆円で、9月末から5兆円増加した。その保有状況を見ると(図表12)、これまで減少を続けてきた預金取扱機関(銀行など)の保有高が底入れ(183兆円、9月末比0.2兆円増)し、保有シェアもほぼ横ばいとなった(9月末16.81%→12月末16.75%)。国債買入れを継続している日銀の保有高は引き続き増加(449兆円、9月末比4兆円増)し、シェアも41.1%(9月末は40.9%)へと上昇した。ただし、日銀は一昨年秋以降、国庫短期証券の残高を落としているうえ長期国債の買入れペースも縮小しているため、増加ペースは大きく鈍化している。
なお、海外部門の国債保有高は122兆円と9月末から3兆円増加し、シェアも11.2%(9月末は11.0%)とやや上昇した。海外勢はドル調達コストの関係で有利な条件で円を入手できる状況が続いており、超低金利にもかかわらず国債への資金流入傾向が続いている。
最後に、国内銀行の10-12月期の資金フローを確認すると(図表13)、近年同期と同様、現預金と貸出の流入超過(積み増し)がみられるが、国債(国庫短期証券を含む)が流出超過(取り崩し)から流入超過(積み増し)へと転換した。国債(長期国債)は引き続き流出超過が続いたものの、国庫短期証券(短期国債)の流入超過が拡大したためである。
なお、対外証券投資は引き続き2.8兆円の流出超過(取り崩し)となった。一昨年10-12月以降、累計で17兆円もの流出超過となっている。米大統領選後に米国債価格が急落し、保有国債に損失が発生したことなどを受けて、地銀などで外債投資を手控える姿勢が続いているほか、ドル調達コストの高止まりが投資の抑制要因になっているとみられる。
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上野剛志(うえのつよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト
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