IT(情報技術)の進歩やAI(人工知能)の登場に加え、規制緩和が進み、日本経済の現状は高度成長期とは大きく変化しています。あらゆる業界から参入が可能となり、ますます競争が激しくなってきています。現状維持できればベターで、継続的な成長を図れないと生き残れない厳しい環境なのです。

そこで、新たな収益アップを目指してマーケットを広げ、競争力の高いスキルをM&Aという「事業承継」で獲得しようとする企業が増えています。日々のニュースでM&Aを上場企業が経営戦略に掲げ、身近な企業の合併や買収というニュースに触れるたびに、今や企業の成長には欠かせないことが分かります。中小企業もM&Aを積極的に活用する時代です。買手企業がM&Aで目指す成長や価値の向上を探ってみます。

企業の成長には様々な手法

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(写真=Digital Storm/Shutterstock.com)

企業の成長と言えども、手法はさまざまです。従来はマーケットや規模拡大を目的に、同業他社をM&A(買収や合併)する人事承継が一般的でした。上場企業が、地方の中小企業を買収するというケースも珍しくはありません。

IT、AIなどの普及や現在の経済環境に伴い、本来の業務とはかけ離れた事業に乗り出し、相乗効果が期待される新規事業の立ち上げ、将来性が見込めるノウハウや技術を導入するなど、成長の手段は実に多彩になってきています。

上場企業で見られる敵対的買収とは異なり、中小企業のM&Aは友好的買収が通常です。買手企業が描く理想や目的を的確に把握しておくと、M&Aの成功率は高まります。

買手企業の買収目的とは

● 商圏の拡大
首都圏が拠点の企業が関西や中部地方の同業他社を買収や合併するケースのように、商圏や業務エリアの拡大で用いられます。

● 規模の拡大
金融機関や石油業界で活発に行われた再編で、大手数社に集約される場合でよくあります。主として、同業他社の買収を含んだ規模拡大が目的となっています。

● 商品やサービスの拡充
これも金融業界で行われましたが、大手銀行がブラックなイメージが強かった消費者金融を買収したケースです。双方にメリットがあり、自社商品やサービスのラインナップ拡大を目的に、銀行業の新たな参入手段として利用されました。

● 新たな事業や技術を獲得
大手スーパーがコンビニエンス・ストアのチェーンに乗り出したように、既存の事業と関連する新事業や、関連性のない新たな領域で事業を立ち上げるために使われるケースがあります。

● 垂直統合
自動車業界が自ら部品メーカーへ進出するようなケースで、企業がM&Aで自社商品の開発から、生産、販売まで一手に行うケースです。コスト管理が徹底できるだけでなく、業務の範囲を拡張できるメリットがあります。

買手企業の動機や思惑とは

買手企業はM&Aという事業や人事承継に際し、売手社長に買収の動機を語るものです。そこで双方が納得するからM&Aは成立し、買収に伴う買手と売手の利益が一致するのです。

M&Aでは買手企業の狙いがどういう動機かを的確に把握し、双方の思惑が一致すれば成功する可能性は高まります。買手側の動機や思惑は、概ね次の通りです。

● 売上アップ
商品やサービスはもちろん、シェアの拡大や企業ブランドの向上に加え、販売ノウハウの増加などで、売上のアップを目指します。

● コスト削減
仕入れに始まり、製造、販売、物流など、企業の研究開発や総務、経理、人事など間接部門のコスト削減を図ります。

● 経営や財務の安定化
自社に無い商品の取り扱いや事業の多角化で経営面での安定化を目指します。規模が拡大すると、財政面でも安定します。

M&Aという事業承継で買手企業の本音とは

一般的に、買手企業の思惑は、企業経営者に共通するほぼ普遍的なものです。立場が逆でも、売手社長にも思惑はあります。通常、買手企業側の本音は、概ね次の通りです。

・ できれば安く買収する
・ リスクは避ける
・ 独自の交渉を望む
・ 交渉は自社ペースで進める
・ 買収後は自社で意思決定をする

このような買手側の本音が常に念頭にあれば、交渉で信頼関係を築きながら、双方の落しどころを探り、着地点が見つかるものです。M&Aでは、買手と売手の要望をできるだけ満たし、公平に利害を調整すれば、時間が経過しても継続的に社会に受け入れられ、公共の利益に配慮した普遍的な合意となるでしょう。(提供:あしたの人事online


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