シンカー: 米国の企業景況感サーベイは依然として健全な成長を示唆している。そして、コアCPIは前年比2%を上回り、物価上昇にも強さが見え始めている。地政学上のリスクが原油価格を強く押し上げれば、インフレ心理が更に強くなるかもしれない。パウエルFRB議長が率いる最初の会合であった3月のFOMCでは、数人が「利上げ経路は想定よりやや加速するのが適切だ」と主張した。半数近い参加者が年4回の利上げを見込み始めている。減税効果で景気加速感が強くなり、物価上昇加速の懸念を感じれば、FRBの利上げ加速観測が一段と高まる可能性がある。利上げ加速は、景気とマーケットの心理を冷やし、米国政権には打撃となるリスクがある。そのリスクを回避するために物価上昇が加速しないことが重要であると考えれば、物価上昇を加速させかねない政策は採りづらくなるはずだ。米国政権は、貿易摩擦の緩和をめざし、論争の落とし所を探っていくことになるだろう。ドルの大きな下落も好ましくないと考え始めるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

◆英国経済(4/11): ブレグジット…「決定的瞬間」が急速に近づく

ブレグジット(英国のEU離脱)を巡る交渉では、EUの強硬な主張に英国が抵抗しながら最終的にほぼ受入れる、というパターンが繰り返されてきた。英国サイドでは、政府内のハード・ブレグジット派が想定していたレッドラインが「グレー化」する、というサプライズが再三発生した。今後はどう推移するだろうか。

英国議会では、今後数カ月のいずれかの段階で通関・貿易合意に関して、その後で秋には離脱協定(WITHDRAWAL AGREEMENT)に関して票決が実施される。これは英国(の反対派)サイドには、ブレグジットを妨げる最後の大きなチャンスとなる。こうしたハードルが成功裏にクリアされるなら、ブレグジットが「円滑に」(ショックが発生しないという意味で、「ハード」「ソフト」のいずれかを意味するものではない)進む可能性が大きくなる。

もちろん、まずは合意に達してEUサイドがそれを批准する必要もある。このため弊社も現時点では、上述のように「円滑なブレグジットの可能性が高くなる」とまでしか言えない。

◆外国債券(4/9):明るい面に目を向けて

貿易摩擦の緩和と株式市場の安定が債券利回りの上昇を支えている。足元の経済ムードは2018年初めほど楽観的ではなく、ポジティブ・サプライズの余地が増しつつある。同時に、企業景況感サーベイは米国、欧州いずれも依然として健全な成長を示唆している。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測が一段と高まり、債券市場の弱気相場に拍車がかかる可能性も出てきた。米国債の需要動向は以前ほど良好ではなくなりつつあり、そうした中で供給が増加している。加えて、4月の欧州中央銀行(ECB)にハト派の勢いを期待する価値はまったくない。このため、ユーロ金利とそのボラティリティーは底打ちの段階とみられる。

◆外国債券(4/9): 代替指標金利SOFRの前途

ニューヨーク連邦準備銀行は2018年4月3日、現地時間の午前8時ごろ、その前日に成立した米国債レポ取引に基づく担保付き翌日物資金調達金利(SOFR=SECURED OVERNIGHT FINANCING RATE)の公表を開始した。新しいレートに関する統計も日次ベースで公表される。代替参照金利委員会(ARRC)は、最終的にロンドン銀行間取引金利(LIBOR)に取って代わる指標金利として、SOFRを選択した。

インターバンク金利のLIBORと違って、SOFRは広範な米国債レポ取引に基づくオーバーナイト金利である。現在、フェデラルファンド(FF)の翌日物実効レートがオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)に利用されているように、この新しいレートもデリバティブ取引での活用が想定されている。SOFRはターム物金利ではなく、銀行の資金調達コストを反映するクレジット部分が組み込まれていないため、LIBORに慣れた投資家は新しいレートを違った角度から捉える必要がある。

シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)は、規制当局の認可を待って5月7日にSOFR先物を上場する。CMEが提供するのは、国際通貨市場(IMM)で取引されている通貨先物(3月限、6月限、9月限、12月限)にリンクした日々複利計算方式の直近20四半期の限月と、日々平均金利を用いた連続する直近7カ月の限月で、1枚の金額は前者が1年間でベーシスポイント当たり25ドル、後者が1年間で同41.67ドル。SOFR先物は既存の先物契約を補完し、利用者にネッティングの利便性を提供することになろう。

LIBORからSOFRへの移行は今後数年がかりで実現する見通しだ。この先、重要な問題となってくるのは、新規に上場されるSOFR先物の流動性が高まるかどうか、そして市場参加者がデリバティブ取引の参照金利をLIBORからSOFRに切り替えるかどうかである。この目標の達成に向けた工程表として、ARRCはSOFRへの移行計画を策定した。しかし、そのような移行が完了するまでの数年間は、両方の指標金利が併存することになるだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司