厚生年金と国民年金基金はともに年金制度だ。対象者は違うが、国民年金(老齢基礎年金)の上乗せ部分として年金を支給し、人の老後生活をの所得保障する点では変わりない。ただ受給額などにおいては多少の差異がある。その差異について、ときに混同されがちな他年金制度とあわせて比較する。

菅野陽平
株式会社ZUUM-A取締役。日本最大級の金融webメディア「ZUU online」副編集長。経営者向けメディア「THE OWNER」編集長。幼少期より学習院で育ち、学習院大学卒業後、新卒で野村證券に入社。リテール営業に従事後、株式会社ZUU入社。メディアを通して「富裕層の資産管理方法」や「富裕層になるための資産形成方法」を発信している。自身も有価証券や不動産を保有する個人投資家でもある。プライベートバンカー資格(日本証券アナリスト協会 認定)、ファイナンシャルプランナー資格(日本FP協会 認定)保有。

年金制度全体から見たときの各年金

(画像=PIXTA)

年金制度における厚生年金と国民年金基金の違いや特徴は、国民年金と厚生年金基金を含めた上で俯瞰すると分かりやすい。名称は似ているがそれぞれ異なる年金制度であり、一定の対象者を支援するために設けられている。

まず年金制度においてその根幹となるのは国民年金だ。国民年金は、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満のすべての人が加入するもので、年金制度の基礎部分となっている。厚生年金と国民年金基金は別々の対象者に向けた国民年金の上乗せ部分としての年金、厚生年金基金は厚生年金のさらなる上乗せ部分にあたる年金である。

建物に例えれば、国民年金は1階部分、厚生年金と国民年金基金は2階部分に相当する。厚生年金基金は厚生年金の一部分の上に乗っているような状態だ。上階の被保険者は同時に下階の被保険者でもある。

年金保険である以上どれもが前もってお金を払い、ある程度それに応じた額の年金を将来受け取るという仕組みは共通している。ただ対象者と、対象者があらかじめ支払う金額、そして受け取れる給付の種類、金額は異なる。

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厚生年金、国民年金 それぞれの対象者は?

厚生年金の対象となるのは厚生年金保険の適用を受ける会社に勤務するすべての人だ。そのため世のサラリーマンの多くはこの厚生年金に加入することになる。

厚生年金基金も同様に、基金に加入する事業所で働く人を保証の対象とする。だが厚生年金に比べるとその範囲は狭く、厚生年金基金の加入事業所は厚生年金加入事業所の一部にすぎない。

一方で国民年金の対象者は日本国内に住む20歳以上60歳未満の人と、年金制度において最も幅が広い。そこには厚生年金の被保険者なども含まれ、「第1号被保険者」「第2号被保険者」「第3号被保険者」と3種類あり、保険料の納め方が異なってくる。

もし会社員など厚生年金被保険者であれば第2号、一定の要件を満たす第2号の配偶者は第3号、それ以外の自営業者やフリーターなどは第1号の被保険者とされる。このうち第1号被保険者が国民年金基金の対象となる。

なお厚生年金に加入すると自動的に国民年金にも入ることになるため、厚生年金に入っていながら国民年金には入っていない、という状況は起こり得ない。また厚生年金は適用事業所で働く人なら強制加入となるが、国民年金基金の加入は任意である。

年金の被保険者が支払うお金

年金の被保険者が支払うお金は国民年金と厚生年金では保険料、国民年金基金と厚生年金基金では掛金と呼ばれる。その金額は各年金によって違い、厚生年金は報酬の一定割合分、厚生年金基金はゼロ、国民年金は定額となっている。国民年金基金は一定の限度額までの範囲で、加入者が金額を決められる。

厚生年金は被保険者の標準報酬月額によって保険料額が変わる。基本的には毎年9月に、4月から6月の標準月額基に18.3%の保険料率を掛けた額になる。厚生年金の保険料は事業主と被保険者が半分ずつ負担するため、被保険者の実際の負担分はおおむね平均給与額の9.15%分だ。

保険料率は基本的に変動せず、給与額が高ければそれだけ高い保険料を支払うことになる。ただ上限とされる金額はあるため、際限なく保険料が高くなることはない。

厚生年金基金の掛金の扱いは他の年金と異なり、事業主のみが負担するという点でやや特殊だ。厚生年金基金に加入していると、被保険者は通常の厚生年金に入っているのと同じ状態で、事業主の負担だけが増える。そのため、被保険者の負担はゼロとなる。この事業主の負担分が、基金独自の上乗せ部分として給付される。

国民年金の保険料額は定額で、年度ごとに改定される。厚生年金とは異なり、被保険者が受け取っている報酬の高低によらず保険料額は一律に同じで、2018年度は月額1万6340円である。

他方、国民年金基金の月額掛金は選択した給付の型と口数、そして加入者の年齢、性別による。加入者は将来の受給額を見込んで自身に最適な型と口数を選び、それに応じた掛金を支払う。だが厚生年金と同様にこちらも上限は決まっている。

ちなみに厚生年金の被保険者は同時に国民年金の被保険者でもあるが、別途国民年金保険料の支払いを求められることはない。これは厚生年金の保険料には国民年金の保険料分が含まれているためだ。しかし国民年金基金の加入者は、基金の掛金とは別に国民年金保険料を支払う必要がある。

厚生年金保険料と国民年金基金掛金の範囲

被保険者が負担する厚生年金の保険料と国民年金基金の掛金には上限だけでなく、実質的には下限も設定されている。

厚生年金保険料の下限と上限は、保険料の一覧表である厚生年金保険料額表の2017年9月分を参照すると、それぞれ8052円、5万6730円となっている。厚生年金保険料の計算は個々人の平均給与額を標準報酬月額という規定額に置き換えた上で行う。その標準報酬月額の最小が8万8000円、最大が62万円であり、この場合の保険料が上記の金額であるためだ。

同表によると、平均給与額が9万3000円未満であれば8万8000円が、60万5000円以上であれば62万円が標準報酬月額になる。つまり平均給与額が一定額に満たない、もしくは一定額を超えれば、保険料は変動することなく、下限と上限になる。結果として実際の保険料額は、その限度額の間で決まる。

国民年金基金の下限は男性6180円、女性7830円、上限は男女ともに6万8000円となっている。下限は、加入時年齢20歳0カ月で1口のみ、保証期間なしの終身年金を選択した場合の月額である。上限は個人型確定拠出年金にも加入しているならその合算額となる。

国民年金基金においては1口目でまず2つの給付の型(終身年金A型・B型)、終身年金の保証期間のあるかないかを選ぶ必要があり、後者のほうが掛金は低い。また基本的に年齢が若いほど金額も低くなる。上述の6180円は最も若い年齢で加入した場合の額だ。

2口目以降は、終身年金か確定年金か、保証期間があるかないか、またその長さなどが異なる複数の型の中から選ぶ。終身年金は確定年金より、保証期間が長いものは短いものより掛金が高い。掛金が増えたとしても将来の年金額をより増やしたい場合は、基本的に上限額までなら好みの型を何口でも選択できる。

1口目の掛金は6180円から2万3570円までの幅があり、2口目以降は1口1000円ほどから1万円前後となっている。その範囲で、加入時の年齢や性別によって金額が変動するのである。

このように厚生年金の保険料と国民年金基金の掛金には下限と上限があり、さらに被保険者自身の状態などによって金額は決まる。ただ厚生年金では報酬額によって半ば自動的に保険料が決まるが、国民年金基金の場合は一定範囲内でありつつも掛金の額に選択の自由がある。

給付される年金の種類と受給額

給付される年金は、どの年金制度においても老齢年金が基本だ。原則65歳に達すれば、以後生涯にわたって年金を受給できる。加えて国民年金と厚生年金には、被保険者が死亡したときに遺族に支給される遺族年金、障害の状態となったときに支給される障害基礎年金が設けられている。

そしてこの3つの給付、老齢年金、遺族年金、障害基礎年金にはそれぞれ基礎年金と厚生年金の2種類がある。基礎年金は国民年金制度の被保険者が、厚生年金は厚生年金制度の被保険者がもらえる給付だ。

国民年金の被保険者はもとより、厚生年金、国民年金基金、厚生年金基金の被保険者も同時に国民年金には加入しているので、3給付の基礎年金は大多数の人が受給できることになる。厚生年金と厚生年金基金の被保険者・加入者はさらに3給付の厚生年金が受給可能で、厚生年金基金の加入者なら独自の給付も加わる。

このような各給付の受給額は固定ではなく、さまざまな要素によって変動する。例えば老齢厚生年金の受給額を決める大きな要素は、厚生年金と厚生年金基金では標準的な報酬額と加入期間、国民年金では保険料納付済み期間、国民年金基金では給付の型と口数である。

厚生年金と国民年金基金の受給額

各年金制度の中でも、厚生年金制度と国民年金基金制度は国民年金の上乗せ部分として、被保険者・加入者の老後保証をより分厚くする重要な役割を担っている。ではその受給額はどれくらいなのだろうか。ここでは男性会社員A氏と、男性自営業者B氏の例を挙げて比較する。

A氏は国民年金第2号被保険者ならびに厚生年金の被保険者で厚生年金基金には加入していない。B氏は国民年金第1号被保険者で国民年金基金にも入り、両氏とも各年金に20歳から60歳までの40年間加入し続けた。配偶者と子はおらず、受給するのは65歳からの老齢年金のみとする。

この場合、A氏とB氏ともに国民年金から老齢基礎年金の満額、2018年度の年額だと77万9300円を受け取れる。月額に換算すると約6万4941円だ。さらにA氏には厚生年金から老齢厚生年金が、B氏には国民年金基金からの加算額が追加される。

老齢厚生年金の受給額は通常、厚生年金加入期間の平均標準報酬月額に生年月日に応じた一定の乗率と加入期間の月数を掛けて算出する。A氏の厚生年金加入期間における平均標準報酬月額、給与と賞与を含めた金額は45万円、乗率は1000分の5.481、月数は480とすると、年金額は118万3896円になる。月額では9万8658円で、基礎年金と足せば16万3599円だ。

B氏は20歳0カ月で国民年金基金に加入し、1口目で保証期間なしの終身年金、加えて同型を3口、計4口を選択した。なお国民年金基金の年金受給額は加入時の選択パターンに応じてあらすじめ細かく設定されており、何歳のときにどの型に何口目で加入したかでその金額は計算できる。

B氏のように20歳0月で保証期間なしの終身年金を1口目とした場合は、掛金は6180円で将来受給できる年金月額は2万円とされている。2口目以降も同型を選択した場合は掛金各3090円で年金月額各1万円だ。合計4口で合計は掛金1万5450円、年金月額は5万円である。したがって年金としての受給月額は、老齢基礎年金に5万円を足した額、11万4941円となる。(ZUU online編集部)

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