国の年金制度はよく「〇階建て」などと表現される。今では確定拠出年金に加入する人も増えているが、国が本来整備している年金制度の基本的なことを知らないまま、色んな備えをしている人も少なくないのではないだろうか?
そこで今回はサラリーマンなどの被用者が加入している「厚生年金」の基本を学びながら、ありがちな「勘違いや誤解」を解説したいと思う。
目次
誤解1 厚生年金の保険料は払っているが国民年金の保険料は払ってない
国民誰もが20歳になると加入するのが国民年金である。高校や大学などを卒業後どこかの企業に就職すると、なかば強制的に加入することになるのが「厚生年金制度」だ。
ここで勘違いしやすいのは「自分は厚生年金の保険料は支払っているが、国民年金の保険料は支払っていないのでは」ということである。
なぜならば「会社は厚生年金保険料を支払っている」と説明されるが、国民年金の件には触れられないからだ。
ここで「老後にどういう形で年金を受給できるか」を考えることで誤解に陥ることはなくなるだろう。
被用者は二階建て年金の構造になっており、ベーシックな部分が「老齢基礎年金」で、被用者として別にかけていたのが「老齢厚生年金」となっているのだ。
つまりこの二つの老齢年金を受け取れるように、現役時代には二つ分の保険料を納めるということになっている。
ややこしいのは保険料を支払う時は「国民年金と厚生年金」という制度で説明されて、年金を受け取る時は「老齢基礎年金と老齢厚生年金」という制度で説明される点である。
ここはシンプルに「老齢基礎年金の原資となる保険料と、老齢厚生年金の原資となる保険料の両方を納めているのが被用者」であると理解してほしい。
その考え方で保険料の支払い方をもう一度考えると、自営業者と被用者で違うのが、被用者の場合は保険料を一度にまとめて支払い、それが二つの年金制度に分かれて納められているという点だ。
【参考記事】日本年金機構 「保険料負担のしくみ」
そして、実際にはこの二つの制度の保険料負担をしているものの、保険給付を分けて考えなくてはいけない場面もあるので、これから説明するような厚生年金に関するちょっとした誤解が生まれているのである。
【合わせて読みたい「老後・年金」シリーズ】
・働くほど損をする。現在の年金制度とは
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誤解2 すぐに会社勤めを辞めたから、厚生年金の保険料がもったいない
例えばあなたは22歳で会社に就職したが、都合により2ヵ月で退職し、その後は自分で個人事業主として働いているとする。この場合、あなたが老後に受け取れる年金の種類は何になるだろうか?
このケースでは支払った保険料分に相当する厚生年金が受け取ることができるのである。
老齢厚生年金の支給要件の中の一つに「厚生年金保険の被保険者期間が1ヵ月以上あること」という規定がある。
つまり例のケースのようなパターンで就職していた場合は、この要件に該当すると考えられ、年金受け取り可能と解釈できるのだ。
もちろん、この老齢厚生年金の年金額で満足な収入となるとは言いがたいが、自分が支払った保険料がまるまる捨て金にはならない仕組みとなっていることは覚えておこう。
ただし、注意点がいくつかある。
一つは「短期間の保険期間であっても、それがきちんと記録されている」ということがある。事業者が保険料をきちんと支払い、その事実が年金機構のデータとして残っていることが条件というわけだ。
このことは「年金定期便」でも確認できるし、定期便で確認できない場合は、お近くの年金事務所に問い合わせることで自分の加入記録を確かめることができるので、該当しそうな人は一度ご確認されることをお勧めする。
そしてさらに大事な注意点は「老齢厚生年金の支給要件は、老齢基礎年金が受給できることという規定がある」ということである。
これを先ほどの例で説明すると「2ヵ月会社勤めをした後は、国民年金の保険料を未納にしてしまっている」という場合は、老齢基礎年金はもちろん老齢厚生年金も受け取れない可能性があるということである。
現在の老齢基礎年金の支給要件は、10年年金と呼ばれているように「保険料納付機関と保険料免除期間の合計が10年」となっている。
つまり老齢基礎年金は10年間の保険料納付期間があると受け取れるので、その条件をクリアしていると、1ヵ月以上の厚生年金加入期間に相当する老齢厚生年金も支給されると考えてよい。
このことからもお分かりいただけると思うが、ご自分の老後資金を確実に準備するには、厚生年金がかかっている状態にできるだけ長くしておくことと、そして被用者でなくなってからも国民年金の保険料を「未納」の状態にはしないこと、が重要であると思う。このことも頭の片隅には置いていて欲しい。
【参考】日本年金機構 「老齢年金の支給」
【無料eBookプレゼント】知っている人だけがトクをする「iDeCo大全」
誤解3 万一の際の所得補償の機能もあるし、家族手当のような機能もある
「夫に万一のことがあったら、子どもが18歳までの期間は、遺族年金が支払われる」――。今ではもはや常識となっているこの「遺族の生活資金を補填する機能が年金制度にはある」という規定だが、もう少し詳しくみてみよう。
前出の「子どもが18歳までの期間は遺族年金が支払われる」という規定は、実は「遺族基礎年金」の考え方である。
これは仕事が自営業者であるか被用者であるかどうかに関係なく、一家の大黒柱が亡くなった時、残された子どもの生活が経済的に困窮しないようにという配慮があるものと考えられる。
【参考】日本年金機構 「遺族年金」
だから「生命保険の死亡保険金を年金タイプで受取るような「収入保障保険」を活用して保険の見直しをしよう」という考え方が一般化してきたのである。
それでは国の遺族年金制度には子どものいない妻には何の経済的保障もないかというと、それは誤解である。
確かに遺族基礎年金からは妻のみへの生活費補填はないと言えるが、厚生年金の遺族年金は子どもだけに限定した給付に留まっていないのである。
【参考】日本年金機構 「遺族厚生年金」
日本年金機構のウェブサイトをご覧いただくとわかるが、遺族年金の受け取り対象者が遺族基礎年金よりも幅広いことがわかる。
つまり、厚生年金の加入者が子どもがいない世帯の夫であっても、または結婚していなくて両親と一緒に住んでいるような世帯であっても、生計維持要件や年齢要件を満たせば、遺族厚生年金は受け取ることができるのである。
これは被用者が給与に応じて支払った年金保険料が無駄にならないように配慮されている結果だと考えられる。
それを裏付けるもう一つの根拠が、遺族厚生年金の年金額は「本人が受け取る予定だった年金額の4分の3を基準としている」ということからもわかる。
また、老齢厚生年金には「加給年金・振替加算」という制度が、遺族厚生年金には「中高齢の加算」という制度があり、要件をクリアすれば、いわゆる「家族手当」のようなものを受け取ることもできる。
このように、厚生年金には、給与の応じて支払った保険料が無駄にならないように、いくつかの工夫がされているのである。
誤解4 老齢年金は繰り上げ受給するときっと損する
昨今、「老後破たん」の記事が目につくが、その破たんの根拠はこういうものだ。
- 老後生活費を変えることができず、家計収支のアンバランスから貯蓄を使い果たす
- 退職後の年金額や退職金の予想が大きく外れてしまい、貯蓄を極端に取り崩すことになる。
だからこそ、自分年金や資産運用で老後の資金を作りたいという人が増え、またなるべく長く働いて収入を得る期間を引き延ばしたいと考える人も目立ってきたのだ。
そのような空気ゆえに、公的年金の老齢年金も上手にやりくりできないだろうか、と考えるのは当然であると思う。
そこで思いつくのが「年金の受け取りを後ろに引き延ばす」つまり「繰り下げ」だ。
繰り下げて受給することで「少しでも多くもらえる」ならば、60歳~70歳あたりまでに就労収入があるならば、受け取る時期を先延ばしたいと考えるのは自然である。
この逆が年金の受給を支給開始年齢よりも先にする、つまり「繰り上げ受給」を利用するということになる。
この場合は一定金額が割り引かれるので、一年間の受け取り金額は、通常の受け取りをする場合や、繰り下げる場合に比べると、当然ながら「少なく」なる。
しかし年金の受け取りの合計年数は、繰り上げることで「多く」なるので、受け取りを先に引き延ばした場合よりも「総額が増えるかどうか」という判断は難しいと言える。
正確な比較をしたくても、年金事務所などでシミュレーションしないと分からないのだ。
また年金受給の「繰り上げ」に伴うデメリットもある。まさに世帯の経済状況を十分に考慮してから十分に納得をしたうえで、齢年金の繰り上げや繰り下げを検討することが大事だと言える。
このように、年金制度は複雑であり、社会保険労務士のような有資格者であっても、年金に関する個別の相談への説明に苦労することも多いと聞く。
一消費者にとって年金に関する「正確な」知識を手に入れるのはなかなか容易ではないとも言える。
また年金受給自体が今から数十年後であったりすることも多く、普段から意識的に情報収集をせず、「自分が年金を受け取る時になってからどうするかを考えはじめる」人も多いだろう。
しかし、国の年金制度から受け取ることになる老齢年金があなたの老後の収入の中心であることは事実でもある。
だからこそ、年金に関する基本的な知識を確実に身に着けてから、老後のライフプランをシミュレーションして欲しいと思うのである。
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石川智(いしかわ さとし)
ファイナンシャル・プランナー 終活アドバイザー
オフィス石川代表 1966年高知県生まれ。トヨタ系ディーラー、外資系保険会社の営業職を経て、2010年ファイナンシャル・プランナーとして独立起業した。一般消費者向けの相談業務だけでなく、「障害者とお金」「高齢者とお金」「終活」をテーマに広く講演活動を行っている。ライフワークとして「地域福祉とライフプランニング」に取り組んでいる。
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