会社員が給料から天引きされているものの中に「厚生年金保険料」があります。実際に支払っているものの、国民年金とどう違うのか、どんな仕組みなのか知らないという人も多いのではないでしょうか。しかし、厚生年金は将来の生活費にもなるとても大切なものです。今回は、厚生年金の基本と、知らないと損する年金の制度をご紹介していきます。

国民年金と厚生年金の違い

厚生年金,国民年金
(画像=Yusei/Shutterstock.com)

国民年金とは

現在の日本の年金制度では、20歳以上60歳未満の人全員が年金制度に加入することとなっている。対象となる全ての国民が年金に加入するが、自営業者、会社員・公務員、専業主婦等、対象者によって加入する年金制度は異なっている。

対象者毎に異なる年金制度ではあるが、全ての人に共通しているのは国民年金という制度だ。国民年金は全ての年金の土台になる制度であり、基礎年金とも呼ばれる。主に自営業者が加入しているというイメージを持たれる方も多いが、実際には自営業者だけでなく、会社員・公務員、専業主婦等も含め20歳以上60歳未満の全員が加入対象者であり、文字通り基礎年金として日本の年金制度の土台となっている。

厚生年金とは

厚生年金は残念ながら自営業者や専業主婦等は加入することができないが、会社員や公務員は原則として全員が加入している制度だ。

個人の所得によって保険料はそれぞれ違ってくるが、厚生年金の保険料は勤め先と加入者とが折半して支払う。つまり月々の保険料の半分は加入者が支払うが、残りの半分は勤め先が支払ってくれるのだ。

厚生年金の対象となるのは厚生年金保険の適用を受ける会社に勤務するすべての人だ。そのため世のサラリーマンの多くはこの厚生年金に加入することになる。

なお厚生年金に加入すると自動的に国民年金にも入ることになるため、厚生年金に入っていながら国民年金には入っていない、という状況は起こり得ない。

厚生年金と厚生年金基金の違い

厚生年金基金とは

厚生年金基金は、前述の国民年金と厚生年金とは明らかに違う特徴がある。それは厚生年金基金が公的年金の制度ではなく私的年金の部類である企業年金の制度であるということだ。

公的機関によって管理・運用がなされる国民年金や厚生年金と違い、厚生年金基金は企業が基金を設立し管理・運用を行っている。私的年金制度にも関わらず、厚生年金基金では国が管理する厚生年金の一部を代行し、さらには企業独自の給付を上乗せして支給するといった特徴がある。

厚生年金の場合は会社員や公務員などは原則として全員が加入対象となる。

一方厚生年金基金の場合は、会社員でも勤め先の企業が厚生年金基金に加入しているかどうかで加入の可否が決まる。勤め先企業が加入していない場合には、残念ながら厚生年金基金に加入することができず、厚生年金への加入となる。

厚生年金基金の代わりになる確定拠出年金

企業年金連合会が発表している2017年12月5日時点での厚生年金基金の数は、わずか49基金となっている。過去には数多くの企業が厚生年金基金を設立していたが、現在ではわずかな数しか残っていない。今後もさらに基金の廃止が続くことが予想されている。年金の3階部分という貴重な制度だっただけに残念だ。

しかし厚生年金基金が廃止に向かう中、その代りとして注目を集めている制度がある。それが確定拠出年金という制度だ。この制度は厚生年金基金と同じく年金の3階部分に相当する年金制度だ。ただ、厚生年金基金と大きく異なるのは、自分で運用の方針を決めるという点だ。

月々の掛け金に対して、どのような金融商品で運用するのかは全て加入者の意思に任せられる。そのため、月々の負担額は確定させることが出来るが、運用成績次第で将来の給付金額は人によって変わってくる。

日本の年金制度は「3階建て」

厚生年金保険と国民年金との関係は時にややこしく捉えられがちであるが、家の例で示すとわかりやすい。家は3階建てで、1階部分が公的年金たる国民年金、2階部分が同じく公的年金の厚生年金保険、3階部分が私的保険に相当する。

基本的に自営業者や学生といった立場の人は1階しか利用できず、厚生年金保険加入者である会社員や公務員といった人は1階も2階も利用できる。例えば厚生年金基金など、任意加入の保険に加入している人は3階を利用していることなる。

厚生年金保険の支払い

厚生年金の保険料はいくら?

厚生年金保険の保険料は毎月の給与にかかる保険料額と賞与にかかる保険料額を合計した金額になる。具体的には、前者は標準報酬月額に保険料率を掛けた額、後者は標準賞与額に保険料率を掛けた額だ。

保険料率は、2017年9月以降は基本18.3%である。保険料は企業側と従業員側で折半するため、従業員が払う保険料の割合は9.15%となる。つまり毎月の給与と賞与それぞれに9.15%を掛け両者を足した金額が、従業員が支払う保険料額になる。

産休や育休の期間は支払いが免除される

厚生年金保険料は、産前産後休業や育児休業の期間中はその支払いが免除される。産前産後休業期間とは一般的に産前42日、産後56日のうち、妊娠もしくは出産のために労務に従事しなかった期間とされる。育児休業期間は満3歳未満の子どもを養育するための育児休業及び育児休業に準じる期間だ。

どちらにおいても休業している間に免除の申出をする必要がある。被保険者がした申出は事業主によって日本年金機構に提出され、問題なければその休業期間中は事業主と被保険者ともに保険料の支払いが免除される。免除期間中も被保険者資格に変更はない。

将来もらえる年金額は?

厚生年金加入者が受け取れる3つの年金

年金の給付は基本的に老齢年金、障害年金、遺族年金の3パターンで行われ、それぞれ基礎年金と厚生年金の2種類がある。

老齢年金は、要件を満たした人が一定の年齢を迎えた時に支給される年金だ。障害年金は病気や怪我のため障害を負った人が一定の要件を満たしたとき支給される年金である。遺族年金は、保険加入者や年金受給者が死亡した時一定の要件を満たしていれば遺族に支給される年金となっている。

主に基礎年金は国民年金加入者、厚生年金は厚生年金保険加入者に対する給付だ。ただ厚生年金保険加入者は国民年金加入者でもあるため、要件を満たせば基礎年金に上乗せする形で厚生年金も共に受け取れる。

厚生年金の平均受給額は国民年金の約2.7倍

ここからは、多くの人が気になる「老齢年金」の受給額について、統計データからの平均値と、自分の年収をもとにした計算方法をご紹介します。

厚生年金の受給額は所得に応じて個人差がありますが、厚生労働省が発表している「平成28年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2016年の厚生年金の月額平均は14万7,927円となっています。

一方、国民年金の月額の平均受給額は5万5,464円です。こうして比較すると、厚生年金が、いかにありがたい制度であるかが分かりますね。

自分が受け取れる年金額の計算方法

実際に受け取る年金額を計算してみましょう。以下は簡単に手計算で年金額を算出できる計算式です。おおよその金額ですがイメージをつかむには十分です。

国民年金(老齢基礎年金)
受取年金額(年)=2万円×加入年数
※受け取るのに必要な加入資格期間は10年以上必要

厚生年金(老齢厚生年金)
受取年金額(年)=加入中の平均年収×0.55%×加入年数
※受け取るのに必要な加入資格期間は1ヵ月以上必要(ただし、国民年金の受給資格を満たしていること)

年収350万円の場合の受取額シミュレーション

国民年金(老齢基礎年金)
受け取る年金額(年)=2万円 ✕ 加入年数(40年)=80万円

厚生年金に20歳から60歳まで40年加入となるので、国民年金にも40年加入することになり、満額80万円(年間)を受給することになります。

厚生年金(老齢厚生年金)
受け取る年金額(年)=加入中の平均年収(350万円) ✕ 0.55% ✕ 加入年数(40年)=77万円

年収350万円で40年間働く場合には、年間77万円を厚生年金として受給することになります。老齢基礎年金と合わせて1年間に受け取る年金額は157万円です。

2017年簡易生命表によると女性の平均寿命は87.26歳ですので、65歳から88歳までの23年間年金を受け取ると計算すると総額3,611万円となります。

知らないと損する?活用したい制度

受取金額が最大約42%アップ「繰り下げ制度」

厚生年金の受給時期は原則65歳からですが、実は、希望すれば66歳以降に受給時期を繰り下げることも可能です。繰り下げ受給をすることにはメリットがあり、支給の開始時期を1ヵ月遅らせるごとに0.7%ずつ増額していきます。

仮に70歳に繰り下げた場合は、通常より約42%も年金を多く受け取ることができるのです。このように「繰り下げ制度」を使うと、かなり高い増額率になるため、魅力的な制度となっています。

60歳から65歳までもらえる「特別支給の老齢厚生年金」

1985年(昭和60年)、わが国で年金制度の大きな改革がありました。それまで国民年金・厚生年金・共済年金などバラバラだった年金が一つにまとまり、新たな年金制度(基礎年金制度)が生まれたのです。

国民年金は、年金の加入期間に応じて年金額が決まる定額制でした。厚生年金も共済年金も1階部分に定額制を採用し、すべての年金が1階部分が定額制である「基礎年金」で統一されました。

このとき、厚生年金保険の支給年齢が60歳から65歳に引き上げられました。そして、支給が開始される年齢を段階的に、スムーズに移行するために設けられた制度が「特別支給の老齢厚生年金」なのです。

ちなみに、「特別支給の老齢厚生年金」を受けられる人は下記の通りとなります。 ・男性は昭和36年4月1日以前の生まれの人
・女性は昭和41年4月1日以前の生まれの人
・老齢基礎年金の受給資格(10年以上)を有すること
・厚生年金保険に1年以上加入していた人
・60歳以上であること

上記に該当する人は、「特別支給の老齢厚生年金」を受け取ることができます。たとえば、現在は専業主婦でも上記の条件を満たしていれば受け取ることができるのです(以前会社員で働いていて厚生年金に加入していたケース等)。

「特別支給の老齢厚生年金」は繰下受給はもちろん、繰上受給もできません。

「特別支給の老齢厚生年金」は必ず請求をしてください。あなたの大切なお金は、あなた自身で守るしかないのです。

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将来の資金を自分で備える気持ちも大切

厚生年金の仕組みを理解しておくことは、将来自分が年金をもらう立場になった時に必ず役に立つはずです。

少子高齢化が進む中、「もしかしたら、将来自分は年金がもらえないのかも……」と不安に思ったことがある人もいるのではないでしょうか。現実的には年金が全くもらえなくなる可能性はかなり低いと言われていますが、減額や支給開始年齢の引き上げは十分考えられるでしょう。しかし一方で、確定拠出年金など新しい制度も出てきています。自分に必要な備えをしっかりと見極めて、将来のために今からできることを始めていきたいものですね。

文・fuelle編集部/fuelle

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