厚生年金とは、どのようなものなのか正確に理解しているだろうか。厚生年金は給与から天引きされていることは知っている人も多いだろう。しかし、保険料を支払うことで、どのようなメリットがあるのか説明できる人は少ない。この記事では、厚生年金の加入要件のほか、メリットやデメリットを解説していく。
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厚生年金とは
厚生年金とは、国民年金と同様「公的年金」の一つである。公務員などが加入する共済年金を入れて、これら3つが公的年金と呼ばれている。
それ以外の企業年金や個人年金などは「私的年金」と呼ばれ、区別されている。公的年金は加入義務のある年金制度で、国民年金は日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する。
一方、厚生年金も加入義務はあるが、それは「会社員や公務員等」が加入する義務を負うものである。つまり、全国民ではなく厚生年金に加入する要件を満たしている人の加入が義務付けられているということである。厚生年金の加入義務がある人は、同時に国民年金にも加入していることとなる。
社会保険と聞くと、健康保険を連想する人も多いかもしれないが、厚生年金も社会保険の一つである。毎月の給与から、所得に応じた保険料が天引きされる。
厚生年金に加入できる人とは?
厚生年金は要件を満たしている人の加入が義務付けられていると述べたが、実際の加入要件とはどのようなものであるかを確認しておこう。
●勤務先が厚生年金適用事業所である
まず、勤務先が社会保険の加入義務のある事業所かどうかという基準があり、これを「適用事業所」という。適用事業所となるのは、「株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合も含む)」と「常に5人以上の従業員が勤務している個人の事業所」だ。これらは「強制適用事業所」と呼ばれ、社会保険の加入が義務付けられている。
これらに当てはまらないとしても、一定の要件を満たせば「任意適用事業所」となり、厚生年金に加入することが可能である。
つまり、会社に勤める会社員であれば、通常はこれらに該当するため、加入条件を満たしていることになる。
●非正規雇用でも加入できる
厚生年金の適用事業所に勤務していれば、非正規であっても雇用保険に加入できるのか?答えは「イエス!」である。
厚生年金適用事業所に勤務している70歳未満の人であれば、国籍や性別、年金の需給の有無、身分(雇われ方)に関係なく雇用保険の被保険者になれるからだ。
しかしアルバイトやパートを含めた非正規雇用の場合、次に示す5つの要件があるので確認しておこう。
1.週の所定労働時間が20時間以上ある
2.雇用期間が1年以上見込まれている
3.賃金の月額が8万8000円以上である
4.学生でない
5.従業員501人以上の事業所である
ただし、2021年の年金制度改正法により、2の要件に関しては撤廃(2ヵ月超の適用)、5の要件に関しては2022年には101人規模、2024年には51人規模への適用拡大が予定されている。
●公務員も2015年から厚生年金加入対象者に
会社員は厚生年金、公務員は共済年金と制度が分かれており、保険料率や要件などに違いがあった。しかし2015年の年金制度改正により、それらが統合され厚生年金に統一された。
会社員であっても公務員であっても同じ保険料を負担し、同じ給付を受けるという年金制度の公平性と少子・高齢化に備えた年金制度の安定性を踏まえた改革の一環である。
このため公務員も厚生年金に加入すると同時に国民年金にも加入し、2つの年金制度の適用を受けているということになる。しかし事務処理や健康保険に該当する部分に関しては現在も共済組合が実施しており、組合員となって手続きをすることについては従前のとおりだ。
厚生年金に加入するメリット
年金制度の改正などにより、今後加入の適用範囲が広がっていけば、今まで配偶者の扶養として勤務時間や収入を調整していた人も厚生年金加入者になることが考えられる。保険料負担という支出面だけを見ると厄介なものと思う人もいるかもしれない。しかし、厚生年金に加入するメリットはかなり大きいということを忘れてはいけない。
●保険料が事業所と折半
厚生年金の保険料は、事業所と折半となっている点が何と言っても最大のメリットであろう。つまり会社で勤務をしている期間は保険料の面で優遇されているのだ。加えて、その保険料で国民年金の納付も行われているので、老後に支給される年金額が増えることにもなる。
●年金に3つの上乗せ
厚生年金のメリットはそれだけではない。年金と聞くと老後に受け取る老齢年金をイメージする人が多いが、実はそれだけが年金ではないのだ。
老齢年金に、被保険者が亡くなった際に配偶者や子どもに対し支払われる遺族年金、被保険者が障害を負ってしまった場合に支給される障害年金の2つを合わせて年金と呼ぶ。
自営業者や扶養の範囲内で仕事をしている配偶者など国民年金のみに加入している場合は、老齢基礎年金、遺族基礎年金、障害基礎年金のみの支給となる。
しかし厚生年金に加入している場合、老齢厚生年金は基礎年金に加え厚生年金に加入していた期間の報酬に見合った額が上乗せされる。遺族厚生年金については同様の上乗せメリットに加え、支給対象者や支給期間の要件も広い。
障害厚生年金についても同様の上乗せメリットのほか、障害基礎年金の支給要件が障害1級、2級なのに対して、障害の程度が緩和される3級でも支給される。
●「傷病手当金」「出産手当金」を受給できる
厚生年金の被保険者になるということは、同時に健康保険や雇用保険といった社会保険全般にも加入することになる。扶養ではなく自身が健康保険の被保険者になることと雇用保険に加入することで得られるメリットを2つ紹介しておこう。
1つは「傷病手当金」である。業務外の病気やけがにより4日以上仕事ができず、給料が支払われなかった場合に、平均給与の3分の2の金額が健康保険から1年6ヵ月もの間支給される制度だ。
もう1つは「出産手当金」だ。出産後、仕事を休業している場合に適用される制度である。健康保険から支給される「出産手当金」は、出産のために仕事を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合、出産予定日前の42日間と出産後の56日間を対象に平均給与の3分の2が支給される。
さらに雇用保険からは「育児休業給付金」が支給される。子どもが1歳に達する前まで育児休業を取得した場合、育児休業前の平均日額の67%(育児休業開始から6ヵ月経過後は50%)が支給されるもので、男性にも適用される。
それぞれ会社から給料が支給されている場合や育児休業が延長になる場合などの細かな要件も確認しながら有意義に活用したい。
厚生年金に加入するデメリット
では、厚生年金にはデメリットはないのだろうか。
今まで扶養の範囲内で勤務していたパートの人が保険料を納めることになった場合、前述のメリットはもちろんあるが、手取り金額が減少することが考えられる。自身の将来設計を考えながら、働き方を見直す必要があるだろう。
また、厚生年金の支給額の計算方法が難解であることもデメリットと言えるかもしれない。国民年金は加入期間が支給金額に影響を与える。一方厚生年金は、期間に加え給与や賞与の金額が影響してくる。計算式も複雑であり、個人が自身の正確な支給額を算出するのは難しい。
定期的に送られてくる「ねんきん定期便」などをもとに、将来の年金額をつかんでおく必要があるだろう。
忘れがちな申請に注意
年金受給を開始する際に、絶対に忘れてはいけないものがある。それは申請だ。老齢年金に限らず、メリットとして紹介した給付に関しても自ら申請するのが基本だ。メリットを享受するためには、厚生年金を含めた社会保障制度に関する基本的な知識を得ておくことが重要である。
老齢年金に関しては支給の年齢が近づくと、日本年金機構から書類が送られてくる。記載内容が年金手帳などの記録と一致しているか、まず確認してほしい。そして必ず申請を行うことだ。
今まで長い間納めてきた保険料を無駄にしないためにも、日頃から自身の加入期間などを確認しておき、時期が来たらすぐに申請をすることを忘れないようにしよう。
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