病気やけがなどで障害状態となった場合に受け取ることのできる公的制度として「障害年金」があります。自分とは無関係と考えている方が多く、詳細については意外と知られていないのが現状です。しかしながら、障害状態になる可能性は誰にでもあります。いざという時に生活の支えとなる障害年金について、基本的な概要を知るとともに、受給するための要件や注意点について解説します。

目次

  1. 老齢年金だけじゃない!公的年金制度のおさらい
  2. 障害年金とは?国民年金の「障害基礎年金」と厚生年金の「障害厚生年金」がある
    1. 障害基礎年金とは
    2. 障害厚生年金とは
    3. 障害基礎年金(国民年金)の特徴:障害等級1級・2級が対象
    4. 障害厚生年金(厚生年金)の特徴:障害等級1級・2級・3級が対象
    5. 障害手当金(一時金)(厚生年金)の特徴
  3. 障害年金の受給要件:どんな人が受け取れる?
    1. 受給要件
  4. 障害年金の支給額:いくら受け取れる? 具体例も紹介
  5. あわせて確認しておきたい「年金生活者支援給付金」
  6. 障害年金の認定にあたっての注意点
    1. 障害年金の認定にあたっての注意点1:「障害者手帳の等級」と「障害年金の等級」は連動していない
    2. 障害年金の認定にあたっての注意点2:「認定基準」をクリアするために書類準備を怠らないこと
    3. 障害年金の認定にあたっての注意点3:働いていると年金がもらえないことも
    4. 障害年金の認定にあたっての注意点4:支給開始後も提出必要な書類の提出は忘れずに
  7. まとめ:安定した毎日を送るために情報収集を

老齢年金だけじゃない!公的年金制度のおさらい

障害年金,キホン
(画像=norman01/stock.adobe.com)

私たちが受け取ることのできる年金は、受給要件によって大きく3種類にわかれます。高齢になってから受け取る年金は、このうち「老齢年金」にあたります。ほかに「障害年金」「遺族年金」があります。

一方でよく耳にする「国民年金」や「厚生年金」とは、私たちが加入する公的年金制度のことです。20歳から60歳のすべての国民を加入義務とする国民年金(基礎年金)を1階部分とし、会社員や公務員などの第2号被保険者は、その上乗せ(2階部分)として厚生年金に加入しています。

加入する年金制度により各年金の受給要件や税制面での相違点はありますが、年金制度のしくみは変わりません。

障害年金とは?国民年金の「障害基礎年金」と厚生年金の「障害厚生年金」がある

この記事では耳馴染みのある老齢年金ではなく、「障害年金」に着目していきます。まず、障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があります。

障害基礎年金とは

障害の原因となった病気やけがで、はじめて医療機関を受診した日(初診日)において国民年金に加入していた被保険者に支給される年金をいいます。

障害厚生年金とは

障害の原因となった病気やけがで初めて医療機関を受診した日(初診日)において厚生年金に加入していた被保険者に支給される年金です。「障害基礎年金」の受給要件も満たす場合は、両方が支給されます。

また両方に共通する特徴としては、障害の程度により支給額が異なること、加入者が初診日から1年6ヵ月を経過した日に一定の障害状態であった時に支給されること、受取った年金は非課税であることなどが挙げられます。

障害年金の対象となる病気やケガは、手足の障害などの外部障害のほか、精神障害やがん、糖尿病などの内部障害も対象になります。主なものは以下のとおりです。

・外部障害:眼、聴覚、肢体(手足など)の障害など
・精神障害:統合失調症、うつ病、認知障害、てんかん、知的障害、発達障害など
・内部障害:呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、糖尿病、がんなど

障害年金が支給される「障害の程度」については、「国民年金法施行令」および「厚生年金保険法施行令」により (1~3級)が定められています。各等級のイメージをつかむには次の表が参考になるでしょう。

▽国民年金法施行令および厚生年金保険法施行令による障害の程度

等級など内容
1級他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできない。
2級必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができない。
3級傷病が治らないで、日常生活には、ほとんど支障はないが労働については制限がある。
障害手当金
(一時金)
傷病が治ったもので、労働が制限を受けるか、労働に制限を加えることを必要とする。

※著者作成

また、等級による支給の範囲や支給額において、障害基礎年金と障害厚生年金に異なる点がいくつかあります。障害手当金(一時金)とあわせて、それぞれの特徴についてみてみましょう。

障害基礎年金(国民年金)の特徴:障害等級1級・2級が対象

障害の原因となった病気やけがの初診日に国民年金の被保険者(60歳以上65歳未満の被保険者であった方を含む)が、初診日から1年6ヵ月経過したときを障害認定日とし、その時点で、障害等級1級もしくは2級のいずれかの状態である場合に支給されます。

20歳未満の場合は、20歳に達した日において障害の状態にあれば20歳に達した時点で申請を行い、支給されます。

障害厚生年金(厚生年金)の特徴:障害等級1級・2級・3級が対象

障害の原因となった病気やけがの初診日に厚生年金の被保険者が、障害認定日において、または、それ以後65歳になるまでの間に申請した時点で、障害等級1級、2級、3級のいずれかの状態である場合に支給されます。

3級の場合は、障害基礎年金が1級および2級に限られることから障害厚生年金のみ支給となります。

障害手当金(一時金)(厚生年金)の特徴

厚生年金の被保険者であり障害厚生年金を受けるよりも軽い障害の状態である場合には、一時金が支給されます。初診日および障害認定日の定義は、障害基礎年金と障害厚生年金いずれも同様です。

・初診日:障害年金を請求するきっかけとなった病気やけがで医療機関を受診した日
・障害認定日:障害の程度を定める日。原則は初診日から1年6ヵ月を経過した日、1年6ヵ月以内にその傷病が治った場合(症状が固定と診断された場合)は、その日

障害年金の受給要件:どんな人が受け取れる?

障害年金を受給できるのは、公的年金に加入し、一定の保険料納付要件を満たし、かつ、障害の状態などの要件を満たしている方です。以下に受給要件を詳しく解説します。

受給要件

(1)初診日に被保険者であること
初診日において、国民年金または厚生年金保険の被保険者であるか、または国民年金の被保険者であった人で、60歳以上65歳未満の国内居住者であることが要件となります。

(2)保険料の納付要件を満たしていること
初診日の前日において、次のいずれかを満たす必要があります。

・初診日の属する月の前々月までの公的年金の加入期間の3分の2以上の期間について、保険料が納付または免除されていること
・初診日において65歳未満であり、初診日の属する月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと

(3)障害認定日に一定の障害の状態であること
なお障害基礎年金では、20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、納付要件はありません。

障害年金の支給額:いくら受け取れる? 具体例も紹介

障害基礎年金は、等級による受給額が受け取れます。一方の障害厚生年金については、これまでの加入期間と報酬額により報酬比例部分の年金額から決定します。

▽障害状態による障害年金額(2020年度)

1級2級3級障害手当金
障害厚生年金報酬比例年金額×1.25
+配偶者加給年金額
報酬比例年金額
+配偶者加給年金額
報酬比例年金額
(最低保障 58万6,300円)
一時金
報酬比例年金額×2
(最低保障 117万2,600円)
障害基礎年金97万7,125円
(78万1,700円×1.25)
+子の加算
78万1,700円
+子の加算

※著者作成

障害基礎年金で受け取ることのできる子の加算額は、2人めまで1人につき22万4,900円、3人めから7万5,000円です。このとき、子は、18歳到達年度の末日を迎えていない子、あるいは20歳未満で障害等級1、2級の子であることが条件となります。

障害厚生年金の報酬比例部分の年金額は、老齢厚生年金の算式と同じですので、「ねんきん定期便」を確認するとよいでしょう。ただし、受給資格期間(納付期間)が300ヵ月に満たない場合は300ヵ月で計算します。計算式詳細は、以下のとおりです。平成15年4月より前と以降とでは、厚生年金保険料の算出方法が変わったことで少々複雑です。

▽報酬比例部分の年金額
〔A〕+〔B〕
A:平均標準報酬月額×(7.125/1,000)×平成15年3月までの被保険者期間の月数
B:平均標準報酬額×(5.481/1,000)×平成15年4月以降の被保険者期間の月数
※Bは賞与を含めた平均月収。

以上から受取ることのできる障害厚生年金の金額は、障害等級によって次のとおりになります。

・1級:報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加給年金額(22万4900円)
・2級:報酬比例の年金額+配偶者の加給年金額(22万4900円)
・3級:報酬比例の年金額(最低保障額 58万6300円)

このとき、配偶者の加給年金額とは、被保険者によって生計を維持されている65歳未満の配偶者がいる場合に加算される金額です。

以下、2つのモデルケースから受給できる障害年金の試算してみました。実際の受給金額のイメージとして参考にしてください。

▽ケース1: 【障害基礎年金の受給】個人事業主Aさん(40歳)の場合
・家族:配偶者(会社員)、子2人(10歳、8歳)
・初診日:2019年1月(交通事故により病院搬送)
・認定日:2019年2月(両下肢に重度の障害、症状固定との判断で障害1級決定)
申請してから決定まで3ヵ月程度かかりますが、遡って認定され、翌月分から年金支給されます。
・納付要件:未納期間なし

→2019年3月分より障害基礎年金を受給
・2020年の障害年金額:以下(1)と(2)の合計146万6,925円(年額)
(1)障害基礎年金1級:78万1,700円×1.25=97万7,125円
(2)子の加算:24万4,900円×2=48万9,800円
・受給期間:障害状態に該当しなくなるまで、もしくは亡くなるまで

▽ケース2:【障害基礎年金+障害厚生年金の受給】会社員Bさん(40歳)の場合
・家族:配偶者(会社員)、子2人(10歳、8歳)
・初診日、認定日はAさんと同じ
障害により退職したBさんは、初診日において厚生年金加入者であったため、障害基礎年金とあわせて障害厚生年金を受給することができます。
・納付要件:未納期間なし

→2019年3月分より障害年金(障害基礎年金+障害厚生年金)を受給
・2020年の障害年金額:以下(1)と(2)の合計218万6,306円(年額)
(1)障害基礎年金1級+子(2人)の加算:146万6,925円  (2)障害厚生年金1級報酬比例部分の年金額:57万5,505円×1.25=71万9,381円
・受給期間:障害状態に該当しなくなるまで、もしくは亡くなるまで

あわせて確認しておきたい「年金生活者支援給付金」

2019年10月1日より消費税引上げによる生活支援として「年金生活者支援給付金」が支給されるようになりました。所得要件を満たした場合に限られますが、障害年金は非課税収入のため所得に含まれませんから、対象となる可能性は高いでしょう。扶養親族の数に応じた増額もあります。なお、受給には障害年金の請求と同時に「認定請求」を行う必要があります。

すでに障害年金を受給しており支給要件を満たしている場合には、日本年金機構から必要書類が送付されていますので確認しましょう。

障害年金の認定にあたっての注意点

もしものときの強い味方となってくれる障害年金。しかし、受給にあたっては気をつけるべき注意点がいくつかあります。

障害年金の認定にあたっての注意点1:「障害者手帳の等級」と「障害年金の等級」は連動していない

障害者手帳は、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種の手帳を総称したものです。医療費や装具費用などの助成や税金の軽減措置、公共機関の割引などが受けられる地方公共団体が発行する公的サービスです。

身体障害者手帳は原則1級から6級(7級は複数障害)あり、障害年金とは異なります。こうした誤解の生みやすさや難解さから、障害年金の受給が認められる3級ではない、など自分の等級を誤解して、障害年金の申請を諦めてしまうケースもみられます。障害者手帳と障害年金の等級の違いには注意が必要です。

障害年金の認定にあたっての注意点2:「認定基準」をクリアするために書類準備を怠らないこと

たとえば、精神障害における「障害の状態」は多様なため、判断、認定が難しいといわれています。厚生労働省のガイドラインをもとに原因、症状、治療、経過、日常生活の状況などから総合的に認定されます。

【参考】精神の障害に係る等級判定ガイドライン(平成28年)(PDF)

障害年金の審査は、書類審査です。そのため、病歴や就労状況、経緯などを正確に記入することがポイントで、現在の症状に加えて認定基準をクリアできる診断書が必要です。日常生活における辛さや家族のサポート状況など伝えきれずに不適格とならぬよう書類を準備する必要があります。

将来にわたる収入となりうるため、有料で社会保険労務士など専門家に依頼することも選択肢のひとつです。

障害年金の認定にあたっての注意点3:働いていると年金がもらえないことも

前提条件として、日常生活や就労に影響なく働いている場合には障害年金は支給されません。

ただし、その場合は症状が軽いとみなされるからであって、収入があることが障害認定を妨げているわけではありません。働きながら障害年金も受け取りたい場合には、家族の送迎で通勤している、在宅での仕事である、勤務先での配慮があることなどをきちんと医師に伝え、診断書に記載してもらうようにしましょう。

障害年金の認定にあたっての注意点4:支給開始後も提出必要な書類の提出は忘れずに

障害年金は支給決定後、障害状態が変わる、もしくは亡くなるまで継続します。障害状態を確認するために、障害状態確認届(更新時)や現況届(毎年)の提出が必要です。医師の診断書が必要な場合もあります。怠った場合には失権の可能性もありますので、期限を確認したうえで確実に提出しましょう。

まとめ:安定した毎日を送るために情報収集を

人生において不慮の事故に遭わないとは言い切れません。最近では精神疾患も増えています。だれもが障害状態になる可能性はあります。生きにくい時代ともいわれますが、そのようななかで、いかに自分らしく生きるか、という点でさまざまな情報を知っておきたいものです。

国民の生活の安定が損なわれた場合に一定水準の保障を国や自治体が行うのが社会保障制度です。障害状態となった場合には、障害年金を受給することで安定した毎日を送ることができます。

ただし、障害年金を受け取るためには、「請求手続き」が必要です。個々の事情による複雑なしくみなので、まずは年金事務所へ相談することをおすすめします。

知らないことで損しないためには、情報収集のアンテナを張ることがポイントです。なお、公的年金だけに頼らない、民間保険の備えでより豊かに生きるという選択肢も有効です。老後資金の目標額を生活費だけでなく、予備資金としてアップさせるという選択肢もあります。

元気ないまだからこそ、「できること」も考えておきたいものです(提供:JPRIME

執筆:大竹麻佐子
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での勤務を経て独立。相談・執筆・講師活動を展開。ひとりでも多くの人に、お金と向き合うことで、より豊かに自分らしく生きてほしい。ファイナンシャルプランナー(CFP🄬)ほか、相続診断士、整理収納アドバイザーとして、知識だけでない、さまざまな観点からのアドバイスとサポートが好評。2児の母。
ゆめプランニング URL:https://fp-yumeplan.com/


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