厚生年金保険料は総報酬額をもとに算出される。その報酬額をある程度の範囲に分けて適切に計算できるよう調整しているものを「等級」と呼ぶ。等級を通して保険料決定までの流れを見ていけば、その仕組みをより簡単に把握できるだろう。

木村正人
木村正人
ファイナンシャル・プランナー CFP® FP1-オフイス21代表 ライフプラン&マネーに関するコンサルタント 2003年10月1日創業。夢(プランの提案)の実現へ専門家パートナーと共に17年近く「相談・サポート」をしている。金融・財務などの法人のコンサルテイングも行う。日経セミナー・パナソニックなどでの講演の他。金融機関での研修の他、原稿(執筆・監修)など多数。FM「和歌山・湯浅マザーシップ・守口ハナコ・貝塚」 TV和歌山「経済マガジン」などにゲスト出演。

厚生年金保険料における等級

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(画像=PIXTA)

・標準報酬月額と標準賞与額がベース

厚生年金保険料は標準報酬月額と標準賞与額をもとに決められている。基本給に残業手当や定期代金などを含めた給与額から一定の金額に読み直して算出したのが標準報酬月額で、同じくボーナスなどをもとに算出したのが標準賞与額である。

・共通の保険料率で折半

標準報酬月額と標準賞与額それぞれに共通の保険料率18.3%を掛け、足したものを1年分の厚生年金保険料としている。会社側と折半するため、被保険者である会社員側が支払うのは半額分、保険料率にして9.15%分となる。

・保険料額表に見る等級の役割

標準報酬月額と標準賞与額のうち、保険料額において大きな比重を占めるのは基本的に標準報酬月額の保険料である。その標準報酬月額の保険料計算にあたっては厚生年金保険料額表を参照するとよい。

厚生年金保険料額表とは標準報酬月額、報酬月額(月々給与)の範囲、保険料額(全額および折半分=被保険者負担分)を一覧にして示した表のことである。等級という番号によって一定の幅で区分されており、各等級はそれぞれ設定された特定の標準報酬月額とそれに対応する報酬月額の範囲、保険料額を1つの行で示している。

・すぐに保険料額が分かる仕組み

報酬月額と標準報酬月額、保険料額は等級によって1つの階層にまとめられているため、報酬月額が分かっていれば標準報酬月額と保険料額もすぐに分かる仕組みだ。ただし、ある程度の幅をもって区分される報酬月額と、その報酬月額の1区分ごとに特定の金額が設定される標準報酬月額がずれている場合も多い。

・具体例で見る標準報酬月額と給与額のずれ

報酬月額が25万円の場合、標準報酬月額は26万円になる。報酬月額が23万円以上25万円未満の場合は16等級に定められた標準報酬月額24万円になる。ただし、25万円に達すると、17等級の報酬月額範囲(25万円以上27万円未満)に該当し、標準報酬月額は26万円となる。

例えば、報酬月額が残業などを抑えてしのいだ26万円でも、少し多く残業して26万5000円となった場合でも、標準報酬月額はどちら26万円である。このように固定された標準報酬月額と実際の給与額との間には多少のずれが生じることもある。

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等級の範囲

・等級UPと保険料の関係

2017年9月以降分の厚生年金保険料額表は1等級から31等級に分けられていた。後ほど紹介するが、2020年9月以降、32等級が追加される。等級の番号が大きくなるにしたがって、報酬月額は高くなる。それに伴って標準報酬月額も高くなり、必然的に保険料も上昇するので注意が必要だ。労使ともに負担が増加するからである。

・等級の下限と上限の意味

20年9月以降分は等級が追加され、1等級と32等級がそれぞれ下限と上限となった。最も低い1等級は報酬月額が9万3000円未満に該当し、その標準報酬月額は8万8000円になる。

新しく追加された最も大きい32等級は63万5000円以上の報酬月額に対応しており、標準報酬月額は65万円となる。つまり、給与額が63万5000円以上であれば、標準報酬月額は等しく65万円となることを意味する。

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等級の違いが及ぼす影響

・例題で等級1つの差を比較

等級が1つ違った場合、実際1年間の厚生年金保険料にはどれくらいの差が生まれるのだろうか。報酬月額34万円の場合と36万円の場合を比較してみよう(この計算に標準賞与額分の保険料などは含めない)。

報酬月額34万円の場合、21等級(33万円以上35万円未満)に該当するため、標準報酬月額は34万円となる。また、報酬月額が36万円だと、22等級(35万円以上37万円未満)に該当するため、標準報酬月額は36万円となる。

各金額に、18.3%の半分である9.15%を掛けると、標準報酬月額34万円の場合は3万1110円、標準報酬月額36万円の場合は3万2940円となる。1年分だと、前者は37万3320円、後者は39万5280円となる。保険料の支払額には月に1830円、1年で2万1960円の違いが生まれることが分かるだろう。

等級が1つ違えば、標準報酬月額は数千円から数万円ほど違ってくるのである。等級が上がるにつれて、等級間の差額はやや広がる傾向にあると言えよう。

1等級の標準報酬月額は8万8000円、2等級だと9万8000円、3等級10万4000円、4等級11万円というように、一桁の等級だとその間の差異は6000円から1万円未満となる。

・保険料額表で見る等級間の差

ただし、厚生年金保険料額表では全等級の中間あたりからは差がより広がってくる。14等級から15等級に上がると20万円から22万円になり、2万円の差が生じている。23等級38万円から24等級41万円になれば差は3万円となり、もう少し大きくなっていることが見えてくる。

1つの等級が対応している報酬月額の幅も、標準報酬月額と同じように等級が上がるにつれてやや広がる傾向にあるわけだ。保険料もそれに対応して等級間の差額が少しずつ広がっていくことを理解しておこう。

2020年9月分から標準報酬月額等級の上限引き上げ

・「第32級:65万 円」が1等級追加

2020年10月納付分(9月分保険料)より実施されるもので、標準報酬月額が63万5000円以上の場合、「第32級:65万円」の取り扱いとなる(保険料は全額で11万8950円)。これに伴い「第31級:62万円」は標準報酬月額60万5000円以上63万5000円となる(保険料は同11万3460円)。

なお、20年9月中旬以降に日本年金機構より「標準報酬改定通知書」で通知されるので、事業主による特段の手続きは不要だ。

・標準報酬月額等級の上限が「第32級」になったら、労使の負担はどうなる?

結論から言うと、労使ともに痛み分けとなるだろう。「第32級」に該当する被保険者がいる場合、労使折半によりともに負担が増えることに違いはない。

該当する被保険者1人当たりの増加する保険料は、「(65万円―62万円)×18.3%=5490円」となり、これを労使で折半することになる。

報酬月額と標準報酬月額の決め方

厚生年金保険料を計算する際は、等級と標準報酬月額の確認が必要と言える。等級、標準報酬月額の前に、もとになる報酬月額の算出方法を知ることも重要である。

・報酬月額の算出方法

報酬月額となるのは「原則4月、5月、6月」の3ヵ月間に受け取った報酬総額を平均した金額である。いずれの月においても給与計算の対象となる日数、支払い基礎日数が17日以上あることが基本的な条件となる(17日未満の月は除かれる)。

3ヵ月間の報酬には、基本給に加え各種手当も含まれる。残業手当、通勤手当、役付手当、住宅手当、家族手当などがその一例である。それらの手当などを含んだ税引き前の給与3ヵ月分の平均額が報酬月額となり、同時に標準報酬月額の判断材料になる。

・決め手は定時決定が通常!

標準報酬月額は基本的に毎年1回、定時決定という方法で決められる。これは7月1日時点において、事業主に使用されている全被保険者の標準報酬月額を、事業主が届け出た算定基礎届による4月から6月の給与をもとに報酬月額を計算したうえで導き出す方法である。同年9月から翌年8月まで、その標準報酬月額が保険料算出の基礎となる。

仮に4月、5月、6月の報酬がそれぞれ36万円、37万円、38万円だった場合、平均額は37万円となる。37万円は23等級、報酬月額37万円以上39万5000円未満の範囲に含まれるため、標準報酬月額はその範囲に設定された38万円となる。これに被保険者である労働者負担分の保険料率9.15%を掛け、月額で3万4770円、1年分で41万7240円が標準報酬月額に基づく保険料となることが分かる。

特定適用事業所に勤務する短時間労働者、契約社員や準社員、パートタイマー、アルバイトなどの場合は、主に支払基礎日数の面で正規社員とは条件が異なる。4月、5月、6月のどの月の支払基礎日数も11日以上であれば、定時決定で算定されることになる。

もし給与額が突然変わったら

標準報酬月額は定時決定にて通常決まり、9月から1年間は原則変わることはない。そのため会社の繁忙期などが1年の保険料額に大きく影響する場合がある。4月から6月の給与算定の対象となる時期に通常より多く働き給与額が高くなると、同年9月から1年間の保険料がより高くなってしまうことになる。このような事態はもちろん、4月から6月以外の月にも起こり得ることであり、注意が必要である。

・随時改定が行われる条件

給与額が大きく変動しても、一度決まった標準報酬月額は変わらないのだろうか。実際には一定の条件を満たせば翌年の定時決定を待たずに改定される。この改定を随時改定と呼んでいる。随時改定が行われるのは主に3つの条件をすべて満たした場合である。

1つ目の条件は、昇給または降給等による「固定的賃金の変動」があった場合だ。固定的賃金とは支給額や支給率が決まっている賃金のことだ。例えばベースとなる基本給、日給、時間給、請負給などのほか、通勤手当、家族手当、住宅手当、役付手当などの固定的手当などが該当する。ほかにも日給から月給への変更といった給与体系の変更時も当てはまる。

2つ目の条件は、変動があった月からの3ヵ月間に支給された報酬の平均月額により算出された標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じる場合である。この報酬には残業手当などの、状況によって変化する非固定的賃金を含むからだ。

3つ目の条件は、変動月からの3ヵ月間の支払基礎日数が各月17日(特定適用事業所勤務の短時間労働者は11日)以上だということである。

原則、この3つの条件をすべて満たした場合、随時改定が行われることにな流ので注意が必要だ。

随時改定の例外

・一時帰休(レイオフ)のケース

規定の3つの条件を満たしていなくても、随時改定される場合がある。例えば企業の業績が悪化したときなどに従業員を一時的に休職させる一時帰休のため、継続して3ヵ月を超えて通常より低い休業手当が払われた場合だ(固定的賃金の変動とみなすケース)。逆に一時帰休が解消されて報酬が通常の状態まで戻った場合なども、例外として随時改定の対象になり得る。

・上限または下限に係る変更 固定的賃金の変動月から3ヵ月間の標準報酬月額が2等級以上変更されてなくても、場合によっては対象になることもある。それは等級の上限もしくは、下限に係る変更があった場合だ。つまり、昇給時であれば31等級から32等級になるときや1等級から2等級になるときである。逆に降給により、32等級から31等級に、2等級から1等級になる場合にも該当する。

・非固定的賃金の増減による影響

逆に2等級以上の変更があったとしても、次のケースは随時改定の対象にはならない。

1つは固定的賃金が上がっても、非固定的賃金(時間の増減に伴う残業手当・皆勤手当・宿日直手当等)が減ったために変動後の3ヵ月間に報酬平均額が下がり、2等級以上の差が出た場合だ。

もう1つは固定的賃金が下がっても、非固定的賃金が増え変動後の3ヵ月間の報酬平均額が上がり、2等級以上の差が生じた場合でも月額変更の対象にはならないということである。

そのほか病気やけが、家族の事情などで長期間会社を休む必要に迫られた際、休職して休職給を受けた場合には「固定的賃金の変動がある場合」とはされない。したがって随時改定の対象外とされている。

実際に随時改定の対象となるのは

・随時改定の対象になる場合の具体例をあげて解説

対象になる前の状態は報酬月額30万円、うち基本給24万円、各種手当等を6万円とし、それから昇給と残業手当等の増加により報酬が増加したケースを想定してみよう。

まず、基本給は昇給によって1万円上がり25万円になった。手当等は4万円足され10万円になり、報酬月額は合わせて35万円となった。翌月、翌々月も基本給はそのままで、手当等はそれぞれ9万円と11万円でとなった。支払基礎日数はいずれの月も20〜22日の範囲に収まっているとしよう。

変動月からの3ヵ月間における報酬総額は35万円と34万円と36万円の和で105万円となり、月数の3で割ると平均月額は35万円となる。ここから標準報酬月額は30万円から36万円へと変更される。等級としては19等級から22等級への変更である。

等級は2つ以上変動し、ほかの条件も満たしているため、この場合は随時改定の対象となったのだ。ちなみに、仮に変動月からの3ヵ月間が10月から12月だった場合、随時改定の反映は翌年の1月に行われることになる。

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人生100年時代 老後に何が必要か
「つみたてNISA」と「iDeCo」 どちらを選ぶべきか
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厚生年金保険料に関するQ&A

Q


厚生年金保険料はどうやって決まる?

厚生年金保険料は標準報酬月額と標準賞与額をもとに決められている。基本給に残業手当や定期代金などを含めた給与額から一定の金額に読み直して算出したのが標準報酬月額で、同じくボーナスなどをもとに算出したのが標準賞与額である。

厚生年金保険料は標準報酬月額と標準賞与額をもとに決められている。基本給に残業手当や定期代金などを含めた給与額から一定の金額に読み直して算出したのが標準報酬月額で、同じくボーナスなどをもとに算出したのが標準賞与額である。


Q


等級UPと保険料の関係とは?

等級の番号が大きくなるにしたがって、報酬月額は高くなる。それに伴って標準報酬月額も高くなり、必然的に保険料も上昇する。

等級の番号が大きくなるにしたがって、報酬月額は高くなる。それに伴って標準報酬月額も高くなり、必然的に保険料も上昇する。


Q


報酬月額と標準報酬月額の決め方は?

報酬月額となるのは「原則4月、5月、6月」の3ヵ月間に受け取った報酬総額を平均した金額。
標準報酬月額は基本的に毎年1回、定時決定という方法で決められる。これは7月1日時点において、事業主に使用されている全被保険者の標準報酬月額を、事業主が届け出た算定基礎届による4月から6月の給与をもとに報酬月額を計算したうえで導き出す方法。

報酬月額となるのは「原則4月、5月、6月」の3ヵ月間に受け取った報酬総額を平均した金額。
標準報酬月額は基本的に毎年1回、定時決定という方法で決められる。これは7月1日時点において、事業主に使用されている全被保険者の標準報酬月額を、事業主が届け出た算定基礎届による4月から6月の給与をもとに報酬月額を計算したうえで導き出す方法。