日本の厚生年金保険料率は、国が定める上限の18.3%に達している。この保険料率は世界各国と比べて高いのか。アメリカとイギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンの欧米5ヵ国の保険制度を確認しながら、日本の年金制度を改めて見つめ直す(為替レートおよび各国の年金データは2018年末月時点)。

高村 浩子
高村 浩子
国家資格キャリアコンサルタント/ファイナンシャルプランナー(日本FP協会認定AFP)
生損保、証券、銀行などの金融機関勤務を経て独立。敬遠されがちなお金の話を広い世代に向けて発信しています。マネープラン、キャリアプラン、ソーシャルプランを融合したライフデザインで100年時代を自分らしく生きる!を提唱中

日本の年金制度は2階建て、厚生年金保険は18.3%で労使折半

厚生年金,国際比較
(画像=PIXTA)

最初に日本の年金制度をおさらいする。日本の年金制度は、日本に住む全ての居住者が対象となる国民年金(基礎年金)と、企業などに勤める会社員などが加入する厚生年金保険の2階建ての構造を基本としている。

厚生年金保険料率は18.3%で保険料の負担は労使で折半する。この保険料率は2004年の13.93%から段階的に引き上げられてきており、2017年9月には18.30%になった。この18.30%は国で定めた上限の保険料率で、今後はこの最も高い保険料率に固定されることになっている。

国民年金保険料は1カ月あたり1万6,340円(2018年度)となっている。国民年金も年々金額が段階的に引き上げられている。例えば2008年度は1カ月あたり1万4,410円で2018年度と比べると1,930円高い。一方で2017年度から2018年度にかけては150円ほど引き下げられた。

日本の年金制度では受給のために必要な加入期間は10年で、国民年金は65歳から、厚生年金保険は男性が62歳から、女性が60歳から受け取ることができる。日本政府は厚生年金保険の支給開始年齢を65歳まで引き上げる予定。男性は2025年度までに、女性は2030年度までに変更される見込みとなっている。

アメリカの年金制度は1階建て、基本保険料率は12.4%で労使折半

最初に日本の年金制度をおさらいする。日本の年金制度は、すべての居住者が対象となる国民年金(基礎年金)と、企業などに勤める会社員・公務員などが加入する厚生年金保険の2階建ての構造を基本としている。

厚生年金保険料率は18.3%で、保険料の負担は労使で折半する。保険料率は2004年の13.93%から段階的に引き上げられてきており、17年9月には18.30%になった。この18.30%は国が定めた上限の保険料率で、今後はこの保険料率に固定されることになっている。

一方、国民年金保険料は1ヵ月当たり1万6540円(20年度)となっている。国民年金も年々金額が段階的に引き上げられている。例えば08年度は1ヵ月当たり1万4410円で20年度と比べると2130円高い。一方で17年度から18年度にかけては150円ほど引き下げられた。

日本の年金制度では、受給のために必要な加入期間は10年で、国民年金は65歳から、厚生年金保険も改定により65歳からとなっている。スムーズな移行措置として「特別支給の老齢厚生年金」が19年時点では男性が63歳から、女性が61歳から受け取ることができる。しかしその移行措置も男性は25年度までに、女性は30年度までに終了し、それ以降は65歳で統一される。

日本の厚生年金の保険料率の推移

17年9月から、厚生年金保険料率は18.30%で固定されたが、それまでに保険料率はどのような推移をたどったのであろうか。

04年の年金制度改正により、厚生年金保険料率は当時の13.58%から毎年0.354%引き上げられ、17年の18.30%で固定すると明記された。それにより20年現在も保険料率は18.30%となっており、労使折半であることから個人の負担率は9.15%である。

それまで5年ごとに給付と負担を見直し、将来にわたって均衡するようはかっていた制度を100年視点での年金制度の安定に向けて実施した改定である。

当時は急速な「少子高齢化」が懸念されており、将来を見据えたうえでの大きな改定をすることで、100年続く「持続可能」で「安心」の年金制度を目指したのである。

ちなみに、制度改正前の1996年の保険料率は第一種(男性会社員)で17.35%である。5年ごとの見直しに比べると緩やかな引上げだったようにも見える制度改正だが、100年視点での持続的で安心な制度となっているかは引続き検証を続ける必要があるだろう。

また、国民年金(基礎年金)についても同様に改定が行われた。毎年280円引上げられ、1万6900円で固定するというものであった。こちらに関しては、名目賃金の変動に応じて毎年改定されるため当初予定していた金額とのズレがあり、20年度は1万6540円となっている。

アメリカの年金制度は1階建て、基本保険料率は12.4%で労使折半

アメリカの年金制度は1階建てで、国民年金と厚生年金の2階建てである日本とは仕組みが異なる。アメリカで導入されている年金は「老齢・遺族・障害保険」(OASDI)と呼ばれ、学生や主婦などの働いていない人は対象外で、民間企業に勤める会社員やパートで働いている労働者、公務員、年間所得400ドル(約4万5000円)以上の自営業者などが対象となる。

保険料は12.4%で、日本の厚生年金保険料の18.3%と比較すると日本のほうが高いことが分かる。アメリカも日本も保険料は労使折半となる。日本では厚生年金に加入することで自動的に国民年金(基礎年金)にも加入することになる。月額賃金が18万円を下回る人にとっては、国民年金保険料よりも安い自己負担額で基礎年金と厚生年金が受給できるということだ。

アメリカの支給開始年齢は66歳。アメリカ政府は支給開始年齢を27年までに67歳まで引き上げる計画を発表している。つまり今よりも高い年齢から年金の支給が始まるということだ。受給できる月額を計算するには、まず生涯給与の中で給与の高かった35年分の平均を算出する。それが「平均所得月額」として受給月額を計算するベースになる。

受給月額の計算式は、平均賃金月額の885ドル(約10万円)までの分の90%、平均賃金月額の885ドル(約10万円)から5336ドル(約60万3000円)までの分の32%、平均賃金月額の5336ドル(約60万3000円)以上の分の15%を足した額となる。

またアメリカでは年金の支給が始まったあと、本人の受給額の半分が原則62歳以上の被扶養配偶者や18歳未満の子どもに支給される仕組みが導入されている。

アメリカで社会保障法が制定されたのは1935年で、その2年後に老齢・遺族・障害保険制度がスタートした。50年に非農業自営業者などへの強制適用、54年に自営農業者などへの強制適用が行われ、適用範囲が拡大された。83年には保険料率が5.4%から5.7%に引き上げられ、支給開始年齢の段階的な引き上げも決定された。保険料率が現在の12.4%となったのは93年だ。

イギリスの年金制度は1階建て、基本保険料は25.8%で事業主負担率が高い

イギリスもアメリカと同様に年金制度は1階建てで、国民年金と厚生年金の2階建ての日本とは異なる仕組みとなっている。イギリスの年金制度は「国家年金」と呼ばれる。企業に勤めるサラリーマンやパートで働く人、公務員、自営業者が適用対象となる。

保険料率は、1週間の収入が116ポンド(約1万7000円)から162ポンド(約2万4000円)の部分は0%で、162ポンド(約2万4000円)から892ポンド(約13万1000円)の部分には25.8%(労12.0%・使13.8%)、週892ポンド以上(約13万1,000円)の部分には15.8%(労2.0%・使13.8%)が掛けられる。

この保険料には雇用保険料なども含まれているが、162ポンドから892ポンドの25.8%と日本の厚生年金18.3%を比べると、イギリスのほうが高いことが分かる。

支給開始年齢は65歳7ヵ月だ。2046年までには68歳まで引き上げられる予定で、支給開始が現在よりも高い年齢からとなる。最低加入期間は10年。18年度の年金の受給金額は単身の場合は満額で週164.35ポンド(約2万4000円)。満額を受け取るために必要な納付期間は35年となっている。

イギリスで国民保険制度が始まったのは1948年。95年に女性の支給開始年齢が引き上げられ、2007年には受給資格期間の撤廃と支給開始年齢の引き上げが同時に行われた。その後も年金受給年齢の引き上げを前倒しするなどの政策が実行されている。

ドイツの年金制度は1階建て、基本保険料率は18.7%で労使折半

ドイツの年金制度は、職業ごとに異なる枠組みで運用されている。農業経営者には「農業者老齢保障」、弁護士や医師などの場合は「自営業者相互扶助制度」、企業に勤める会社員や公務員、一部の自営業者などの場合は「一般年金保険」といった具合で、ほかにも「鉱山労働者年金保険」や「官吏恩給制度」といった枠組みも存在している。

この中から一般年金保険の保険料を日本の厚生年金と比べてみると、ドイツの保険料は18.6%(労使折半)で、日本の厚生年金の18.3%(労使折半)よりやや高い。ちなみに労働者の月収が月450ユーロ(約5万9000円)以下のケースでは労使の負担割合が折半ではなくなる。この場合は労3.6%、使15.0%の割合となる。

支給開始年齢は65歳ヵ月で、2029年までには現在より高い67歳からの支給になる見込み。最低加入期間は5年間。ドイツの一般年金保険の老齢年金額の算定式は、ほかの国と比較すると複雑だ。個人報酬と年金種別、年金現在価値の比率なども受給額に影響してくる。

ドイツで年金保険制度が発足した歴史をひも解くと1891年まで遡り、当初は「労働者年金保険制度」としてスタートした。この制度とは別に1913年には「職員年金保険制度」がスタートし、その後、57年、72年、92年、2001年と年金改革が進められてきた。現在の年金制度が発足したのは05年で、それまで導入されていた2つの年金保険が統合されたが、その後も14年、17年と年金改革が実施されている。

フランスの年金制度は1階建て、基本保険料率は17.75%で事業主負担率が高い

フランスの年金制度も1階建てで、厚生年金と国民年金を組み合わせた日本の制度とは根本的に異なる。職業ごとに異なる年金制度があり、学生や主婦などは適用対象にはならないが、任意で加入することも可能となっている。企業勤めのサラリーマンやパート労働者などの場合は「一般制度」と呼ばれる年金制度が適用される。

この一般制度の保険料率は17.75%で、労7.30%、使10.45%の割合で負担する。日本の厚生年金は労使で9.15%ずつなので、労は日本のほうが高い形となり、使はフランスのほうが高いということになる。最低加入期間は設けられていない。支給開始年齢は満額拠出期間を満たす場合は62歳、満たさない場合は66歳(62歳からの繰下げ受給も可能)で、先進国の中でも高いとは言えない国の一つだ。

受け取れる年金受給の年額の計算式は、平均所得年額と給付率と拠出期間を掛けたものを満額拠出期間で割った金額となる。育児や介護が必要な場合は金額が加算される仕組みも導入されている。

フランスで一般制度が始まったのは1945年だ。その後の49年には商工業自営業者や職人など向けの「自営業者年金制度」がスタートし、52年には農業経営者向けの年金制度も開始された。83年に支給開始年齢が65歳から60歳に引き下げられたが、2010年の改革では60歳から現在の62歳に引き上げられた。

スウェーデンの年金制度は並列型、基本保険料率は17.21%で事業主負担率が高い

スウェーデンでは、計3年以上(スウェーデンでの居住1年を含む)EU諸国などに住んでいる人を対象に、2018年度は単身者で最大8076クローネ(約9万7000円)を受け取ることができる「保証年金制度」が導入されている。この保証年金制度と「所得比例年金制度」の2つの年金制度が併用され、所得比例年金が一定額を超えると保証年金が支給されなくなる。

日本は厚生年金と国民年金の2階建てだが、スウェーデンの場合はこのように所得が高い水準に達すると制度が移行する形で運用されているので、1階建てであると言える。

年金保険料は17.21%で、労7.00%、使10.21%の割合となる。日本の厚生年金の労使それぞれ9.15%と比べると、労は日本のほうが高い形になり、使はスウェーデンのほうが高いということになる。

保証年金は65歳以上から支給が開始され、所得比例年金は61歳以降に受給者がいつから受給を開始するかを決めて受け取り始める。保証年金にも所得比例年金にも最低加入期間は設けられていない。保証年金は単身者の場合、計40年以上(スウェーデンでの居住1年を含む)EU諸国などに住んでいると満額支給を受けることが可能だ。

スウェーデンでは1913年に年金保険法が制定された。48年に基礎年金制度、60年に付加年金制度がスタートしたあと、99年の年金改革法で所得に応じた年金制度と保証年金制度という形で年金制度が継続する形をとった。

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