いわゆる厚生年金保険と厚生年金基金との違いをご存知だろうか。どちらも同じ「厚生」という言葉が使われていることから、混同している人もいるかもしれない。厚生年金保険と厚生年金基金は全くの別モノなので、この記事では違いを明らかにしていく。

・厚生年金保険は公的年金

厚生年金保険とは公的年金(Public Pensions)の一つである。公的年金とは、財政援助や税制優遇など社会保障の恩恵を受ける反面、加入者が保険料(事業主との折半)を負担する義務のある年金制度である。

・厚生年金基金は私的年金

これに対して、厚生年金基金は私的年金(Private Pensions)と呼ばれるカテゴリーに分類される年金である。私的年金とは、公的年金のような法律に定める義務はなく、企業年金や個人年金のように任意で加入可能な年金制度のことだ。

注意したいのは、一応任意となってはいるが、事業主(会社)が厚生年金基金に加入している場合、この会社に雇用されている労働者も強制的に厚生年金基金にも加入することになる。

厚生年金基金とは

〔厚生年金保険の概要〕

・3種類の公的な年金制度

厚生年金保険の適用事業所(強制・任意を含む)に雇用されている会社員のほか、公務員や教職員が被保険者となる公的な年金制度のことだ。いわゆる「社会保険」の一つとして親しまれており、国の社会保障制度の一役を担っている。また、厚生年金保険には「老齢厚生年金・障害厚生年金・遺族厚生年金」の3種類の年金がある。

・何歳からもらえる?

一般的な厚生年金保険には65歳以上で支給される老齢厚生年金(報酬比例部分同様の計算方法)と60歳~65歳未満に支給される特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分と定額部分)がある。ほかにも一定の条件はあるが、加給年金(公的年金の扶養手当的なもの)などが受給できる方法もある。

・何歳まで加入できる?

厚生年金保険の適用事業所には強制もしくは任意の適用事業所があるが、雇用されている70歳未満の人が被保険者となれる。70歳に到達した場合は、資格喪失処理が日本年金機構にて完結されるため、届出などの心配はいらない。ただし、老齢年金を受けられる期間が不足する場合は、事業所を受け持つ年金事務所に申し出ることで、70歳を超えても高齢任意加入被保険者として不足する加入期間満了まで加入が可能である。

〔国民年金との違い〕

・1階と2階建ての比較?

国民年金も同じく社会保険の一つである。その中でも老齢基礎年金が一般的だが、ほかにも障害基礎年金・遺族基礎年金があり、国民皆年金制度の中で制度の基礎となる1階部分を担っている。この年金は日本国内に居住する20歳以上60歳未満のすべての人に加入が義務づけられている。

一方、2階部分となる厚生年金保険は前述(厚生年金保険の概要)のとおり、対象がしぼられている。その2階部分が1階部分に上乗せられて支給されるところが国民年金との大きな違いだ。

・1階の資格期間と2階の加入期間?

物価スライド(前年の物価変動)に応じて年金額が変わるという点では厚生年金保険と違いはない。違うのは、もう一つの気になる点だ。

国民年金が受給可能な資格期間(保険料納付期間が原則10年以上)を満たす場合、例えば老齢厚生年金を受給するケースでは老齢基礎年金の受給資格がある人で、厚生年金保険への加入期間が1ヵ月(65歳未満の受給は被保険者期間が1年)だけでもあればもらえる点である。

厚生年金基金とは

・基金の目的とその意味

最初にそもそも「基金」とはどういう意味なのか、原点に立ち返って見てみよう。

基金とは、特定の目的のために、積み立てなどにより準備された原資となる資金のことを指す。厚生年金基金とは企業(事業主)が従業員の老後のために基金を設立して、「老後の生活の安定を図る」ことを目的としている。それゆえに、今までは一般的に「企業年金」と呼ばれていた。

・基金は3階部分の一つ

この基金の立ち位置はどこなのか。国民皆年金制度を3階建てとイメージしてみよう。最初に国民年金は、基礎年金と呼ばれ「1階部分」と表現されている。次に厚生年金保険は、そこに上乗せする「2階部分」といわれる年金を指す。最後に企業年金(厚生年金基金もその一つ)は、さらにその上の「3階部分」に立っているのである。

・基金の役割と魅力?

この基金には国の厚生年金保険の一部(報酬比例部分の中でも物価スライド分と賃金再評価分を除く部分)を国に代行して支給するという役割がある。掛金の収納から掛金に上乗せ分を含めて運用するなど、厚生年金基金制度の運営全般を行う。事務処理は大変だが、一番の魅力は、基金独自のプラスアルファ部分を上乗せしての給付が可能なことであり、多くの企業が導入していた制度だ。

・基金の設立と3つの形態?

厚生年金基金(特別法人)を設立する場合、事業主は規約を作るだけでも被保険者の半数以上の同意が必要であり、さらに厚生労働大臣の認可を得る必要がある。その基金設立形態には3つあるので紹介しよう。

〔単独設立型〕
文字どおり大企業が1社単独で国の認可を受けて設立できるもの。常時1000人以上の被保険者を雇用する大企業が対象。

〔連合設立型〕
大手企業を中心に関連する企業がグループで設立できるもの。全体で常時1000人以上の被保険者を雇用する企業グループが対象。

〔総合設立型〕
同種同業の企業群で設立が可能なため、中小企業が集まって設立ができるもの。同一業界で合算して常時5000人以上の被保険者を雇用するいわゆる共同基金。

厚生年金保険との違い

・基金への加入義務?

厚生年金保険では、制度の適用事業所となる会社に勤めている人は当然被保険者となり加入する義務がある。一方、厚生年金基金は事業主である会社が、厚生年金基金に加入しているかどうかで、加入する義務があるかどうかが決まってしまう。

・基金も掛金は折半

掛金は厚生年金保険と同様、加入者(厚生年金保険は被保険者)と企業(事業主)との折半となる。もちろん、企業側の負担を増やすことも可能だ。折半部分は、厚生年金保険に加えて、上乗せ部分も会社が負担してくれるので、加入者にとっては非常に大きなメリット言えるのである。

・基金加入で年金が増える?

先に説明したように、厚生年金保険が2階部分の公的な年金制度であるのに対し、厚生年金基金は私的な3階部分の年金である。それゆえに厚生年金保険の被保険者が厚生年金基金にも加入している場合には、加入していない人に比べ多額の年金を受け取ることができる。つまり、もらえる年金の額が増えるわけである。

厚生年金基金制度廃止の背景と影響

・主役の座の終焉

2014年4月1日より、改正厚生年金保険法が施行された。正式には、「公的年金制度の健全性及び信頼性確保のための厚生年金保険法の一部を改正する法律」という名称だ。この年金法の改正により、新規で基金の設立ができなくなった。つまり、厚生年金基金は主役の座を降りることになったのである。

・代行割れの現実

制度廃止を説明するには、「代行割れ」という言葉を知る必要がある。代行割れとは、年金資金の総額が給付に必要な額を割り込んでしまうことをいう。厚生年金基金は、厚生年金保険の一部を国に変わって代行(掛金の収納・年金資産の運用・年金の支給まで)していたので、「代行割れ」の影響は大きい。

・積み立て不足の表面化

要するに年金資金の運用がうまくいかず、基金運営の安全性が危ぶまれる状態となったのである。こうして、代行割れによる基金の積み立て不足が表面化し、運営する厚生年金基金を維持するためには、企業側としても年間に相当な規模の負担が必要となった。負担が膨らみ、収益を圧迫したところから解散に至る多くの基金が出てきたわけだ。

例えば、今はOBでも、昔の勤務先の厚生年金基金が解散し、その資産は企業年金連合会に移管されていたケースなどは、これが背景にある。

・代行返上と基金の解散

このような背景があり、特例解散制度により、代行割れ基金に5年以内の早期解散を促すことになったわけだ。代行割れをしていない基金に関しては、存続もしくは代行返上して基金を解散のうえ、他制度に移行することとなった。その後5年を経て、2019年4月現在で残っている基金は8基金となっている。

・基金部分のもらい方は加入者の選択

すでに厚生年金基金を受給している人は、まず「代行部分」の金額を把握することがポイントだ。基金が解散した場合でも、代行部分については国が保証することになっている。

基金存続の場合、これまでどおり受給できる。解散後に新しい制度へ移行する場合、代行部分は国から、基金部分については加入者の選択により一時金として分配されるか、新制度から支給されることとなるが、その選択による結果はもちろん自己責任である。

・基金独自の給付が減額も?

現在の加入員の代行部分については、基金が代行割れであっても国から代わって支給されることになるので、影響はないと言える。しかしながら、基金独自の給付部分については基金によって異なるが、場合によっては減額ないし0円となることもあり得るので、事前に自身の加入内容を確認しておくことをおすすめする。

厚生年金基金を一時金として受け取るメリット・デメリット

今まで厚生年金基金に加入していた人が、転職などで脱退した場合にはどうなるのだろうか。

・一時金が未支給のケース?

その場合、一時金という形で支給を受けることができる。ただし、一時金を選択した場合、加入期間が3年未満のケースでは未支給となる。一時金を選択しない場合にはそのまま企業年金連合会より、加入期間に応じた金額が年金として支給されることになるが、加入期間が3年以上10年未満であることなどが必要な要件となっている。

・将来の生活設計を見据えて

一時金を受け取る一番のメリットとしては、まとまった金額を受け取ることができる点だろう。しかしながら、一時金を受け取った場合には年金として厚生年金基金の受け取りはできなくなる。つまり、自身の貯蓄額や、将来の生活設計を見据えて自己責任で選択することになるわけだ。一時金で受け取る方法では、年金受給総額で比較すると受け取り金額が少なくなることも考えられるので、十分注意すべきだろう。

厚生年金基金における注意点

ここまで厚生年金基金についてさまざまな角度から見てきたが、最後にいくつかの注意点を紹介する。

・申請は漏れなく忘れずに

まず、公的年金と同様に厚生年金基金を受給するためには申請が必須な点だ。過去に加入していた期間を含め、受給前に自身の加入期間を必ず確認しておこう。忘れずに申請することで、初めて受給が可能になることを覚えておきたい。

・もらい方の選択は自己責任?

退職して一時金ではなく、年金受給を選択する場合にも注意が必要である。こちらの選択も自己責任だからだ。早期退職の場合などは特に、その企業が将来、自身が年金を受け取る際に倒産していないかが、何よりもポイントである。予測は難しいが、年金がもらえず、支払っていた保険料が無駄にならないように、慎重に未来を見据えて選択することが重要だ。