●イタリアではポピュリストの「5つ星」と「同盟」が連立政権成立へ。一方スペインは汚職問題を抱えるラホイ首相の不信任決議が現地時間6/1の可決に向かっている。
●イタリアは、先週来の市場の極端な混乱は沈静化へ。スペインも、当面は政治混乱が続くものの、経済問題には発展しないと思われるため、株式・債券市場は早晩落ち着くだろう。
●ただ、イタリアは、政府債務のGDP比が突出して高く、不良債権も高止まり、貸出は伸び悩む。これらをもって、ECBが緩和延長へ舵を切る可能性は低いものの、出口への加速も当面なさそう。ユーロの勢いが戻るに は時間が必要。一方、南欧の混乱の邦銀への影響はごく限定的。
南欧の政局:イタリアは一旦落ち着き、スペインはまだ暫く混乱続く
5/31(現地時間)、イタリアではポピュリストの「5つ星」と「同盟」が、法学者のジュゼッペ・コンテ氏を首相に、エコノミストのジョバンニ・トリア氏を財務相に指名することで合意、連立政権樹立に大きく近づいた。一方、スペインは汚職問題を抱えるラホイ首相の不信任決議が、6/1に可決される見通しである。
これを受け、5/31の各国の国債市場は明暗を分けた。イタリアは大幅に金利が落ち着きを見せたが、スペインは、これにつられてやや低下したが限定的な改善に留まった(図表1-1,1-2)。
イタリアの政局安定で、4月中旬以降ダダ下がりだったユーロは、対ドルでも対円でも落ち着きを取り戻した(図表2)。
スペインの政局は経済には波及せず。イタリアの方が問題は深刻
イタリアの政治問題はこれで一旦沈静化へ向かうだろう。しかし、成立する政権はやはりポピュリズムの2党であり、コンテ新首相は政治経験のない法学者である。どのような政策運営になるのか、未知数である。このところ、イタリアの財政は健全化しつつあったが、与党2党は、反EU、かつ、財政拡大をうたっており、これまでの良い流れを反転させかねない(図表3、4-1、4-2)。
一方スペインは、総選挙になれば政治の空白が見込まれるが、イタリアほど大きな経済問題には発展しないだろう。欧州危機時のスペインは、イタリア以上の財政収支赤字を抱えていたが、最近の改善ピッチはイタリアをはるかに上回っている(図表4-1)。しかも、政府債務残高もイタリアほど高くない。仮に、国内の景気や金融システムに問題が発生した場合でも財政出動の余裕が残っている(図表4-2)。
イタリアの動向:金融問題の回復は道半ば
このため、スペインの政治が荒れようとも、やはり欧州問題の本丸はイタリアである。財政収支の改善ピッチは遅く(前掲図表4-1)、政権が交代すれば財政が再び悪化し、格付けが引き下げられる可能性が高い。
さらに、政府債務のGDP比率は欧州主要国中突出して高く、懸念材料となっている (前掲図表4-2)。金融システムリスクが再燃した場合、政府に金融機関を助ける余裕は残されていない。
では、イタリアの金融システムはどこまで復活したのか。確かに昨年来銀行の資本が増強され、不良債権の処理も進んだ。しかし、それでも依然として、EU全体不良債権額の23%を占める1,867億ユーロの不良債権を抱え、 (図表5-1)、不良債権比率も11%と高い水準となっている(図表5-2)。
しかも、今年の3月に、ECBは、域内の銀行の不良債権に対して、資本の積み増しを求める提案をしている。報道によれば、これが実施されれば、銀行の資本比率は平均2ポイント低下する。現在、イタリアの銀行の資本比率は、13%程度まで上昇している (図表6)。しかし、不良債権比率が高いことから、新基準が導入された場合の資本比率の低下度合いは他国比大きいと思われる。
また、足元で、国内最大のウニクレディトの資本について、一部の投資家が現在の資本の3分の2が無効であると指摘するなど、さまざまな問題を抱えている。
これらの資本に対する自信のなさもあり、イタリアの銀行貸出はやや伸び悩んでいる(図表7)。上記の規制影響や、今後財政問題が発生すれば格下げのリスクもあることなども考えると、当面銀行の貸し渋りが続き、国内景気を下押しすると思われる。
日本への影響:為替には注視。邦銀への直接的な影響はごく限定的
日本の金融機関全体からイタリアに対する与信額は310億ドル(3.4兆円程度)と限定的であり、かつ世界金融危機後もさほど増加はしていない(図表8-1、8-2)。これらの点から、邦銀から南欧に対するリスクは限定的とみられ、今後もイタリア問題で邦銀株が下落する時は買い増しの好機となるだろう。
一方、為替についてはまだ慎重にならざるを得ない。今回程度の政治的混乱でECBの方針が修正される可能性は低いものの、6/14のECB理事会で、出口への道筋を加速することも考えにくい。イタリア新政権のEUとの距離感や、スペインの総選挙の可能性など、政治的な不透明感も払しょくされていないことから、ユーロが反転上昇に転じるにはもう少し時間がかかりそうだ。
大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券 チーフ・アナリスト
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