ドル円予想レンジ108.30-111.20

武部力也,週間為替相場見通し
(画像=PIXTA)

「Mountingtradefearssendwavesthroughglobalmarkets(通商摩擦懸念の恐れが世界市場に押し寄せる)」―。これは6/20英経済紙一面だ。筆者が警戒を覚える理由は1点。不測の衝突が世界経済の失速に繋がり、為替水準が円高領域に踏み込みかねない点である。

米中通商摩擦の最悪シナリオと円の行き先

米中通商摩擦の深刻化に至る構図は簡単だ。トランプ大統領にしてみれば、選挙時に「巨額の貿易赤字削減」を公約に掲げた経緯から秋の中間選挙に向けた実動となる。2017年の米貿易赤字は7962億ドルで、内訳は対中国赤字が3752億ドル。過去最大であり、それを踏まえ2020年迄に2000億ドル(約22兆円)の削減を中国側に要求したのだ。

通商法301条に基づく対中制裁を7/6から順次発動とし、加えてライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は「次の段階は、米国の技術を買おうとする中国投資を規制すること」と発言。一部報道によると、2016年の中国企業による対米投資は456億ドル(約5兆円)。中国の米企業に対する知的財産権を抑制する動きも強まっている。

対して、2015年の全人代で「製造強国」策を2025年に向けて掲げ、経済発展を以て政権維持を図る習近平国家主席の対応が注視されている。米財務省は6/15に4月の対米証券投資統計で、中国の米債保有額を1兆1820億ドル(約130兆円)と発表。しかし、これは中国側が持つ外交カードでもあり、朝鮮半島・台湾情勢も睨んだ安全保障の駆け引きにまで発展すると、円は極めて高度な外交戦略の渦中に巻き込まれることとなりそうだ。

筆者が描く最悪のシナリオは、不作為な米中対立が世界経済を収縮させ、キャリー解消により円が通貨高領域に押し込まれる可能性だ。中立的シナリオは“米中緊張もトランプディ―ル・外交手段の一環で中国側も一定の譲歩。6/29東京都区部消費物価指数も不調で、日銀の金融政策正常化は程遠く、対して利上げ志向のFOMC金融政策との差異が緩やかにドル高円安を支援”である。

しかし、米国による対中制裁発動日前後は、茂木経済再生相が訪米し、新たな通商交渉をライトハイザー代表と行う予定もある。6月最終週は同盟国とはいえ貿易黒字国である日本をも威嚇し、円が圧迫されるシナリオも備えておくべきではないだろうか。

6/25週ドル円焦点

継続して200日線(110.20近傍)は上下分水嶺。上値焦点は6/18高値110.675、6/15・5/23高値110.915-925。越えれば5/22高値111.20、5/21高値111.405、1/18高値111.495を期待。下値焦点は6/21安値109.83、日足雲上限(109.66-78)、6/19安値109.54。6/11安値109.35、6/8安値109.185、109円台維持。割れると6/1安値108.72、5/30-31安値圏108.37-34、5/29安値108.10。

武部力也,週間為替相場見通し
(画像=岡三オンライン証券)

武部力也
岡三オンライン証券 投資情報部長兼シニアストラテジスト