現在、訪日外国人旅行者の増加や2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を受けて、公衆無線LANのスポット数を拡充させようする動きが活発化している。
しかし公衆無線LANの利用は、データ容量節約などのメリットがある一方で、悪意のある第三者から情報を盗み取られる可能性があり、セキュリティ面が問題視されている。そんな中、昨年総務省が公衆無線LANの課題や今後の在り方について話し合う会合を開催したのが記憶に新しい。
MMD研究所とセキュリティソフト大手マカフィーは公衆無線LANの課題そして今後の在り方を知るヒントを探るべく、スマートフォンユーザーを対象として「公衆無線LAN利用者実態調査」を実施した。
このコラムでは、下記の結果から公衆無線LANの今後の在り方について考察したい。
● 公衆無線LANの利用理由
● 公衆無線LANへの不満
● ユーザーの公衆無線LANのセキュリティ意識
● 公衆無線LANの利用のされ方
公衆無線LANの利用理由
スマートフォンユーザーの公衆無線LANの利用経験率は69.4%であった。公衆無線LANの利用理由の上位は「パケット量節約」「無料または安く利用できるサービスだから」というものであった。リッチコンテンツを消費するモバイルライフを送る人が多い中、通信制限にかからないように注意している人がいることは頷ける。
公衆無線LANへの不満
しかし、公衆無線LANを利用していて思うことを聞くと、「接続できる場所が少ない」「セキュリティが不安だ」「速度が遅い」などネガティブな意見が上位にきている。利用理由に挙がっていた「パケットの節約」を実感している人は2割に留まり、公衆無線LANの利用メリットを実感できていない人が多いことが明らかとなった。
公衆無線LANの設置数は増えているものの、設置場所や使い心地に課題があることが浮き彫りになった。ユーザー視点に立って設置されているアクセスポイントは少ないのが現状のようだ。
必要とされるものでありながら、不満が続出している。無料だから「遅い」「少ない」と文句を言うのは筋違いなのでは、という意見も今回の調査結果に対するコメントで散見した。しかし、利用してもらうことを前提として設置されているのであれば、この不満は解消していくべきである。
ユーザビリティを考えず、接続数を増やしていくだけでは不満が増えていくばかりだ。訪日外国人利用も前提に設置されているアクセスポイントも多いため、日本の通信環境の評価を落とさないためにも品質は担保されるべきである。
ユーザーの公衆無線LANのセキュリティ意識
公衆無線LAN提供側のみが課題を持っているわけではない。今回の調査で、ユーザーのセキュリティ意識の低さが浮き彫りになった。「セキュリティが不安だ」という意見が多い中で、「パスワード/登録が不要な公衆無線LAN」や「提供先が不明な公衆無線LAN」へ接続しているユーザーが多くいることが明らかになった。先ほどご紹介した調査結果では、53.0%の人が「セキュリティが不安」と回答していた。しかし、公衆無線LAN接続時に気を付けていることを聞いた設問では、31.5%の人は「セキュリティ対策をしていない/意識していない」と答えており、矛盾が生じている
公衆無線LAN利用後、「迷惑メールが送られてくるようになった」「ログインが必要なサイトへの不正ログインが確認された」というような実被害も起こっている。
公衆無線LANを利用する際に自分の情報を守る手段はいくつかあるので、ユーザーは具体的にどのような自衛手段があるかを知るべきだし、通信業者は自衛手段を提示していく必要がある。
よくわからないアクセスポイントを利用しないという最低限の注意をすることはもちろんだが、個人情報など見られたくない情報のやり取りを行う可能性があるときは、インターネット接続を暗号化するサービス(VPN)や通信の傍受を検知・警告してくれるアプリなどのセキュリティーツールの利用も考えるべきである。
設置する側がユーザー視点に立って、ユーザビリティの改善に努めることはもちろん大切だが、ユーザー自身が自分の身を守るための手段を知る必要がある。
公衆無線LANの利用のされ方
公衆無線LANの利用理由での最多回答は「パケット量を節約する」だったため、スマートフォンユーザーにとって必要なサービス、と仮定してきたが、それは事実であろうか?
先ほどご覧いただいた公衆無線LAN利用に対する意識への回答は、「公衆無線LANに繋がないと通信制限にかかるから困る」が8.5%であることから、本当に切羽詰まっている人は少ないことがわかる。しかし、「公衆無線LANがなくても大した問題ではない」と答えた割合も5.8%と低い。 これらの結果から現在の公衆無線LANの立ち位置は、「便利なものだと思うので、あったら使う」というポジションであることが考えられる。あったら使うものなので、不満はなかなか表層化しない。しかし、もっと早くて快適に使えるものになればもっと良いと考えているユーザーも多いことがわかる。
最後に
いくつかの切り口でユーザーの公衆無線LANの利用方法や意識を見てきた。ここから言えることは、いま公衆無線LANは微妙な立ち位置にいるのではないか、ということだ。もともと公衆無線LANはキャリアが自らのネットワークの負荷を下げるために設置されたと言われているが、現在はほぼその役割を終えていると言える。利用されている公衆無線LANはお店やホテルが提供しているものが約9割で、キャリア/プロバイダが提供する公衆無線LANは24.0%程度に留まる。現在はお店への集客目的のために設置されることが多いようだ。
あったら使うというポジションのサービスなので、不満も表層化しない。国が公衆無線LANの拡大を推進しているためスポット数は増えていくものの、提供元も力をいれてユーザビリティ改善の努力をしない。ユーザーも毎日使うサービスではなく、ちょっと困ったときに使うサービスであるからこそ「ちょっとだけなら大丈夫」という気持ちでセキュリティへの意識が低いまま使ってしまう。そんな悪循環がこの微妙な立ち位置の公衆無線LANの周りに渦巻いている。
この悪循環を断ち切るためには、この微妙なポジションからの脱出が必要である。そのためには、2020年に向けて安心・安全、そして快適に使えるサービスを目指すのか、もしくは公衆無線LANを縮小する動きを取るかである。しかし、現在の動きから見て後者の動きはありえまい。
安心・安全・快適に使える公衆無線LANを目指すには、提供側とユーザー両者が意識を変える必要がある。
国や通信事業者、提供元はユーザーの意識をより汲み取り、ユーザビリティの向上を目指す動きを今後加速させていかなければならない。そして公衆無線LANを利用する個人は自分の情報を守る動きを取ることで、より快適なモバイルライフを送ることができるだろう。
執筆者:三崎夏子
(提供:MMD研究所)