「業界いじめ」のようでもあったクールビズキャンペーン

クールビズ,ネクタイ
(画像=The 21 online)

今やすっかり当たり前になっている「クールビズ」。この5月からスタート、という会社も多いことだろう。

その一方で、4月末、ネクタイや鞄等の企画販売を主体とする&・BLUE社の破産のニュースが流れた。業績不振の大きな要因とされたのもまた「クールビズ」。小泉内閣時代にスタートしたクールビズに加え、2011年の東日本大震災による電力不足も、軽装化の流れを加速させた。

たしかに当時のクールビズキャンペーンは凄まじいものがあった。国を挙げてのイジメだと業界団体は言っていたらしいが、さもありなん。心中察して余りある。

ただ、あえて言わせてもらえば、「ネクタイって邪魔だなあ」と思うことがあったのも事実。ネクタイのせいで電車に乗り遅れたことも何度もある。もう少し早く起きろ、という話ではあるけれど。

では、なぜネクタイをしていたかといえば、それが社会人にとって当たり前だったから。「ルールだから」「だらしないと思われるから」していた。もちろん、ネクタイがばっちり決まった自分の姿をいいなと感じたこともあったかもしれないが、やはり基本は「やらねばならないからやるもの」だった。

「重要書類は紙で」もすでに過去の話に

そう考えた時、「ルールだから使っているもの」「ルールだからやっていること」は、ある日突然、同じことになりかねないことに気づく。たとえば、会社に行く際にスーツを着なくてはいけないという常識は、すでに崩れつつある。それでも就活の時期になるとリクルートスーツを着た学生が街に溢れるが、もし国を挙げてリクルートスーツ撲滅キャンペーンを行なったら、リクルートスーツ市場はまるまる消え失せる。

同じような状態にあるのが「紙」かもしれない。いまだに重要な書類は紙で出すのがルール、と考える人もいるが、世の中全体ではそれは「時代遅れ」とされる傾向にある。国を挙げてのキャンペーンまでには至っていないが、「ペーパーレス化」は今や、絶対的な正義とされている。

時事通信の記事(「事務機大手、リストラ断行=ペーパーレス化で市場縮小」2018年5月2日)によれば、ペーパーレス化の進展により、リコーや富士ゼロックスなどの事務機大手が相次いでリストラを迫られているという。

もし、自分の業界や商品が「しなければならないこと」に少しでも支えられているとしたら、いずれ痛い目を見ることになるのかもしれない。

「ルール」から解き放たれれば、新たな魅力も

ただ一方で、より便利なものが現われたのに、衰退していない業界もある。たとえば携帯がこれだけ発達し、スケジュール管理に便利なアプリが出回っているのに、紙の手帳のニーズは堅調らしい。毎年のように工夫のこらされた新しい手帳も出ている。

「社会人にとって紙の手帳を持ち歩くのはルール」という意識はまだ根強いこともあるだろう。だが、それだけではなさそうだ。手で書いたほうが記憶に残りやすい、俯瞰性に優れているといった機能面はもちろん、さまざまな種類の手帳の中から自分好みのものを選び出すことで個性が発揮できるなど、デジタルにはない価値があるからこそ、紙の手帳は生き残っているのではないだろうか。

「脱ルール」からの復活のヒントはそのあたりにあるのかもしれない。たとえばネクタイなら、「しなくてはならないもの」から、「するといいことがあるもの」に持っていくことができれば、ネクタイのニーズは急拡大するかもしれない(もちろん、業界の人はとっくに考えていることだと思うが)。

最後に、クールビズが導入されてから、筆者はむしろネクタイが好きになった。義務ではなくなると、それは自分が選択すべきものになる。ちょっと変わった柄を買ってみたり、気分に合わせて付け替えたりもし始めた。暑い時はせず、寒い時期に改めて巻くことで、本来の意図である防寒具としての役割も再確認できた。

「しなくてはならないもの」から解放されたことで、新たなイメージ戦略も可能ではないか。あっと驚くような業界の巻き返しに期待したい。

THE21編集部(『The 21 online』2018年05月03日 公開)

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