金融政策の概要:政策金利を0.25%引き上げ、緩和的な金融政策スタンスの表現を削除
米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が9月25-26日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、政策金利の0.25%引き上げを決定した。バランスシート政策に変更はない。
今回発表された声明文では、景気の現状認識、見通しに関する表現が前回会合から維持された一方、金融政策に関して「金融政策スタンスは依然として緩和的である」との表現が削除された。今回の金融政策変更は、全会一致で決定された。
なお、今回発表されたFOMC参加者の見通しから、21年分が追加された。前回(6月)見通しからは、成長率や失業率で一部上方修正(失業率は低下)されたものの、基本的に前回見通しを維持した。また、政策金利の見通し(中央値)では、長期見通しが小幅上方修正されたものの、18年(4回利上げ)、19年(3回利上げ)、20年(1回利上げ)は前回から変更がなかった。一方、21年は利上げを想定していないことが示された。
金融政策の評価:20年以降は不透明も、今後も緩やかな利上げが継続
政策金利の0.25%引き上げは当研究所の予想通り。また、ガイダンス部分の変更についても、今般の利上げ局面で政策金利引き上げ幅が200bpに上ったことや、前回会合後の記者会見でパウエル議長が、政策金利が中立金利水準に近づいてきたことを指摘していたため、緩和的との表現が削除されたことに違和感はない。
FOMC会合後の記者会見でパウエル議長は、足元の経済が非常に好調であることを示したほか、金融政策の正常化により強い米経済を維持することが、全ての米国民の利益に繋がるとし、今後も政策金利の引き上げを継続する方針を明確に示した。また、同議長は保護主義的な通商政策による米経済への影響について、多くのビジネス関係者から懸念が示されているとしたものの、現状提示されている追加関税が実施されたとしても、経済規模に比べて軽微なため、実体経済への影響は限定的と評価した。
一方、今回の会合から21年の政策金利見通しまで公表されたものの、どこまで政策金利を引き上げるかについては正確な理解がないことに言及したほか、2年~3年先の政策金利見通しの確信度は強くないことを示しており、今後の利上げペースや利上げ幅についてFRB内にコンセンサスがある訳ではないことを示唆した。
声明の概要
●フォワードガイダンス、今後の金融政策見通し
- 既に実現した労働市場環境や物価、およびこれらの今後の見通しを考慮して、委員会はFF金利の目標レンジを2.0-2.25%に引き上げた(政策金利の引き上げを反映)
- 金融政策スタンスは依然として緩和的であるため、強い労働市場の状況や、物価の2%への持続的な上昇を下支えする(今回削除)
- FF金利の目標レンジに対する将来の調整時期や水準の決定に際して、委員会は経済の現状と見通しを雇用の最大化目標と対称的な2%物価目標に照らして判断する(変更なし)
- これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
●景気判断
- 労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は力強いペースで拡大した(変更なし)
- 最近数ヵ月を均せば雇用増加は強く、失業率は低位に留まった(変更なし)
- 家計消費と民間設備投資は力強く成長した(変更なし)
- 前年比でみた総合および食料品とエネルギーを除いたインフレ指標は、2%近辺に留まっている(変更なし)
- 長期物価見通しを示す指標は、全般的には変化に乏しい(変更なし)
●景気見通し
- 委員会は、FF金利の目標レンジの更なる漸進的な引き上げが、経済活動の持続的な拡大、力強い労働市場環境、中期的に委員会の2%で対称的な目標に近いインフレ率、と整合すると予測している(変更なし)
- 前年比でみたインフレ率は、中期的に委員会の2%で対称的な目標近辺で推移すると予想する(変更なし)
- 経済見通しに対する短期的なリスクは概ねバランスしている(変更なし)
会見の主なポイント(要旨)
記者会見の主な内容は以下の通り。
●金融政策変更、政策金利見通し
- 政策金利の引き上げは経済の強さを反映しており、3年前に開始した金融政策の正常化に向けてさらに一歩前進させた。
- 金利水準は依然として低い。着実な金融政策の正常化が、強い経済を維持することを通じて全ての米国民の利益に繋がると信じている。
- 緩和的な金融政策スタンスに関する文章の削除は、金融政策見通しの変更を示唆しない。金融政策はこれまでの想定通りの展開となっている。
- 足元の政策金利は、ドットチャートで示されるFOMC参加者の長期見通しを全て下回っており、金融政策は依然として緩和的である。このため、今こそ緩和的な文言を削除するのに完璧なタイミングであると判断している。
- 20年までの政策金利見通しは前回会合(6月)から変更なし。ただし、経済には予期しないことが定期的に起こるため、最も注意深く分析的な見通しであっても極めて不確実である。政策金利見通しは、あくまで成長率、失業率、インフレがFOMC参加者の見通しとおりに進展することを前提にしている。
- 20年と21年の政策金利見通しが長期見通しを上回っているが、幾人かの参加者が中立金利からのオーバーシュートを予想しているため。ただし、政策金利見通しは個人の見通しであり、機関決定したものではない。また、2~3年先の見通しは不透明であり、確信度は高くない。
●通商政策
- 通商政策はFRBの管轄外。通商政策の内容についてはコメントしない。
- 全米のビジネス関係者からは、サプライチェーンの分断、原材料コストの上昇、市場の喪失などについて多くの懸念が寄せられていることを認識。
- ただし、全米レベルでは実体経済への影響は限定的。今回提示された関税対象額は経済全体に比べて軽微。
- 一方、ビジネスにおける信頼度の低下が設備投資に影響することや、金融市場の反応については注視している。
- 一般的には関税は低い方が良い。貿易は生産性の向上や高賃金に貢献する。
●財政政策
- 足元の経済状況は当初想定したよりも強くなっているが、この要因の一つは、減税や、歳出拡大などの財政政策の効果である。
- また、設備投資に対する税優遇策などによって設備投資が増加することは、生産性の向上に寄与する。
●その他
- (トランプ大統領の利上げ牽制発言の影響について)FRBは米国民を代表して重要な仕事をしている。FRBは雇用と物価の政策目標の達成に注力。金融政策の意思決定において政治的な要因を考慮しない。
FOMC参加者の見通し
FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の16名 )の経済見通しは(図表1)の通り。前述の通り、今回から21年の見通しが追加された。なお、前回(6月13日)公表されたものと比較すると、成長率について18年と19年が上方修正されたほか、失業率について18年が上方修正(失業率は低下)された。また、今回提示された21年の見通しは、物価が20年から横這いとなる一方、成長率や失業率は20年から小幅ながら悪化することが示された。
政策金利の見通し(中央値)は、18年から20年が前回から維持された(図表2)。このため、FRBは18年が年4回、19年が年3回、20年が年1回の利上げを見込んでいることが示された。
また、今回提示された21年見通しは3.375%と20年と同水準に据え置かれており、21年に利上げを見込んでいないことが示された。
一方、長期見通しは前回の2.875%から3.0%に10bp程度と小幅ながら引き上げられた。
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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