●9月の人民元レート(対米ドル、スポット・オファー、中国外貨取引センター)は前月末と比べて小幅に下落し1米ドル=6.8692元で取引を終えた。また、日本円に対する人民元レートは、日本円が人民元以上に下落したため前月末比1.8%の元高・円安で取引を終えた。
●18年末に向けての人民元レートは波乱含みである。米中貿易摩擦が中国経済の下押し圧力となり人民元は下落する可能性が高い一方、米国が摩擦解消に向けた道筋を探り始めれば、人民元切り上げが「落としどころ」として浮上してくる可能性もあるからだ。なお、当面はイタリアの財政運営問題でユーロドルが下振れする恐れがあることから、想定レンジの下限を1米ドル=7.2元へ引き下げた(想定レンジは1米ドル=6.3~7.2元、1元=16.0~17.5円)。
9月の人民元の動き
9月の人民元レート(対米ドル、スポット・オファー、中国外貨取引センター)は前月末と比べて小幅に下落し1米ドル=6.8692元で取引を終えた。人民元レートの動きを振り返ると、15年8月の人民元ショックが資金流出を招き下落基調となったが、17年5月に中国が人民元の基準値設定方法を変更したことや、欧州経済の復調を背景にユーロドルが上昇したことなどから、18年春には人民元ショック前の水準(同6.2元)を窺う動きとなった。しかし、その後はユーロドルが再び下落に転じたことや、米国の関税引き上げを緩和するため中国は元安を許容するとの思惑が浮上したことなどから下落に転じた。そして、8月には中国が再び基準値設定方法を厳しくするなど元安阻止に動いたことで下げ止まったが、9月にはイタリアの財政問題に伴うユーロドル下落で再び下値を探る展開となった(図表-1)。なお、日本円に対する人民元レートは、日本円が元以上に下落したため、100日本円=6.05165元(1元=16.52円)と前月末比1.8%の元高・円安で取引を終えた(図表-2)。
今後の展開
さて、18年末に向けての人民元レートは波乱含みである。激しさを増す米中貿易摩擦が中国経済の下押し圧力となり人民元は下落する可能性が高い一方、米国が摩擦解消に向けた道筋を探り始めれば、人民元切り上げが「落としどころ」として浮上してくる可能性もあるからだ。なお、当面はイタリアの財政運営問題でユーロドルが下振れする恐れがあることから、想定レンジの下限を1米ドル=7.2元へ引き下げた(想定レンジは1米ドル=6.3~7.2元、1元=16.0~17.5円)。
ここもとの米中経済環境を概観すると、米国では景気がやや過熱気味で、激しさを増す米中貿易摩擦が景気に水を差しても、それを吸収する勢いがあることから、これまでのところ株価も堅調に推移している。一方、景気が減速しつつあった中国では、激しさを増す米中貿易摩擦が景気減速に追い打ちをかけることとなり、株価は下値を探る展開となっている。そして、中国は今年の成長率目標である「6.5%前後」を確保しようと景気下支えに動き始めた。昨年12月と3月の米利上げに際して中国は、追随してリバースレポ(7日物)を引き上げたが、6月と9月の米利上げでは見送った。また、預金準備率を2回に渡り引き下げるなど金融政策を緩和方向に調整し始めた(図表-3)。
今後の展開を考えると、米中貿易摩擦は激しさを増す気配はあっても納まる兆しは見られない。トランプ米政権としては大きな成果を得ずして振り上げた拳を下ろす訳にはいかない一方、中国としても対外開放や相次ぐ関税引き下げなど譲歩できる面では譲歩しており、国策として打ち出した中国製造2025に関する施策を取り下げることはできない。また、イタリアの財政運営を巡る問題でコンテ政権とEUが妥協点を見いだせないようだと、ユーロドルが下落しそれが人民元の下落に波及してくる恐れもある。従って、当面の人民元レートは軟調地合いとなりそうである。
しかし、米国が貿易摩擦解消に向けた道筋を探り始めると、人民元切り上げが「落としどころ」として浮上してくる可能性がある。米国サイドから見れば中国に人民元切り上げを認めさせることで選挙民にアピールできる。一方、中国サイドから見ると元高は輸出にこそ不利に働くものの、ここもとの中国経済が世界経済の好調と輸出に依存し過ぎたとの負い目がある上、購買力平価との関係で見て大幅に割安な現状を踏まえればある程度のレート調整はやむを得ない面もある(図表-4)。また、人民元高は輸入物価を押し下げるため、製造コストの低減や消費者物価の抑制というメリットもある。従って、人民元は政治的な駆け引きで動く側面もあるため、米中間で「現代版プラザ合意」のようなことが起きて、中国が人民元を切り上げる可能性は十分にあると見ている。
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三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員
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