はじめに
医療は、人の生命・身体に関わる、極めて専門性の高いサービスである。このため、医療に関する広告については、様々な規制が設けられている。2017年に、医療機関のウェブサイトの適正化を含む医療法等の一部を改正する法律が公布された。これを受けて、2018年には、医療広告ガイドライン(1)(以下、「GL」)と、医療広告ガイドラインに関するQ&A(以下、「QA」)が、厚生労働省から都道府県等に通知された(2)。本稿では、これらをもとに医療広告規制の見直しについて、みていくこととしたい。
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(1)正式な名称は、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針」(厚生労働省, 平成30年5月8日医政発第0508第1号医政局長通知)。
(2)なお併せて、従来の「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る事項等及び広告適正化のための指導等に関する指針」(厚生労働省, 平成19年3月30日医政発第0330014号医政局長通知)と、「医療機関のホームページの内容の適切なあり方に関する指針」(厚生労働省, 平成24年9月28日医政発第0928第1号医政局長通知)は、廃止された。
医療広告規制見直しの背景
まず、今回の規制見直しの背景からみていくこととしたい。
1|美容医療サービスに関する消費者トラブルが毎年度2,000 件前後発生している
今回の規制見直しは、美容医療サービス関連の消費者トラブルの増加に起因している。全国の消費生活センター等に寄せられた同サービスの相談件数をみると、毎年度2,000 件前後で推移している。
2|インターネット上の広告に関する相談の割合が上昇している
美容医療サービス関連のトラブル中、インターネット上の広告(電子広告)の割合は上昇している。
医療法改正以前は、医療機関のウェブサイトは医療広告規制の対象外とされてきた。しかし、電子広告に関する美容医療サービスのトラブルの増加を受けて、医療広告規制が見直されることとなった。
医療広告規制の考え方
ここで、今回の見直しで示された医療広告規制の考え方について、概観しておくこととしたい(3)。
1|誘引性と特定性の2要件を満たすものを医療広告規制の対象としている
GLは、医療広告の要件を示している。誘引性と特定性の2つの要件を満たすものが、医療広告規制の対象となる。なお、今回の法令改正前は、この2つとともに、認知性(一般人が認知できる状態にあること)も要件とされていた。医療機関のウェブサイト、メルマガ、患者の求めに応じて送付するパンフレット等は、この認知性がないため、医療広告規制の対象外とされていた。今回、認知性の要件を削除したことにより、これらについても規制の対象とされた。
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(3)医療広告規制の概要やこれまでの経緯については、拙稿である「医療広告規制の変化-医療機関の広告はどこまで可能なのか?」篠原拓也(ニッセイ基礎研究所, 基礎研レター, 2017年7月11日)を参照いただきたい。
2|法令で可能とされた事項以外は、医療広告は原則禁止とされている
医療広告については、患者の保護などの観点から、限定的に認められた事項(広告可能な事項)以外は、原則として禁止されている。GLは、その考え方のベースに医療広告の特殊性があるとしている。
このように、広告可能な事項を示して、それ以外は原則禁止とする方法は、「ポジティブリスト方式」と呼ばれている(4)。現在、法令上、つぎの14の事項が広告可能とされている(5)。
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(4)ポジティブリスト方式は、1948年の医療法制定以来、医療広告規制の一貫した考え方となっている。過去に、規制緩和の一環として、広告不可のものをリストに示す「ネガティブリスト方式」への転換が検討されたこともあるが見送られた。
(5)図表5で示している項目は、医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関するもの。この他に、助産師の業務又は助産所に関するものが9項目ある。その内容は、図表5の項目に類似しており、ほぼ包含されている。
3|虚偽広告は禁止されており、行った場合は罰則の対象となる
医療広告のうち、内容が虚偽にわたる広告は、患者等に著しく事実に相違する情報を与えることになる。これにより、患者が、適切な受診機会を喪失したり、不適切な医療を受ける恐れがある。このため、虚偽報告を行った者は、医療法上、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科される。
4|比較優良広告、誇大広告、公序良俗に反する広告などは禁止されている
法令とGLでは、広告の内容及び方法の基準を規定している。具体的には、つぎの5つの広告を禁止している。これらの広告を行った者は、都道府県知事や、保健所を設置する市の市長または特別区の区長より、報告徴求、立入検査、広告の中止命令、広告内容の是正命令を受けることがある。
今回の法令改正前は、(ⅰ)~(ⅲ)とともに、「客観的事実を証明できない広告」も禁止されていた。今回、それは広告禁止事項から外されたが、(ⅳ)や(ⅴ)のように、治療効果に関する事項のうち客観的事実が証明できず患者の受診を不当にあおるものが広告禁止事項として具体的に示されることとなった。これらについて、少し詳しくみてみよう。
(1) 患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談(ⅳ)
医療機関が、治療の内容や効果に関して、患者自身の体験や家族等からの伝聞に基づく主観的な体験談を、当該医療機関への誘引を目的として紹介することを意味する。こうした体験談は、個々の患者の状態等によりその感想は異なるものであり、読み手に誤認を与える恐れがあることを踏まえ、医療広告としては認められないこととされた。たとえ、体験談の記述内容が広告可能な範囲であったとしても、広告は認められない(6)。
(2) 治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させる恐れがある治療等の前又は後の写真等(ⅴ)
いわゆる、治療等のビフォーアフター写真等を意味する。個々の患者の状態等により治療等の結果は異なるものであり、読み手を誤認させる恐れがある写真等については医療広告としては認められないこととされた。例えば、手術などの処置で、術前又は術後の写真やイラストのみを示しているものは、広告できない。
ただし、術前又は術後の写真に、通常必要とされる治療内容、費用等に関する事項や、治療等の主なリスク、副作用等に関する事項等の詳細な説明を付した場合については、広告が可能とされた(7)。
なお、そもそも治療効果に関する事項は広告可能事項ではない。このため、次章に示す限定解除の対象でない場合については、術前術後の写真等については広告できないものとされている。
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(6)なお、個人が運営するウェブサイト、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の個人ページ、第三者が運営する口コミサイト等への体験談の掲載については、医療機関が広告料の費用負担などの便宜を図って掲載依頼をしているといった誘引性が認められない場合、広告には該当しないものとされている。
(7)当該情報の掲載場所については、患者等にとって分かりやすいよう十分に配慮し、例えば、リンクを張った先のページへ掲載したり、利点や長所に関する情報と比べて極端に小さな文字で掲載したりといった形式を採用しないこととされた。