結果の概要:雇用者数は予想を下回る一方、失業率は予想以上に低下
10月5日、米国労働省(BLS)は9月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+13.4万人の増加(1)(前月改定値:+27.0万人)となり、+20.1万人から大幅に上方修正された前月改定値、市場予想の+18.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を下回った(後掲図表2参照)。
失業率は3.7%(前月:3.9%、市場予想:3.8%)と、こちらは前月から▲0.2%ポイント低下し、▲0.1%ポイントの低下を見込んでいた市場予想を下回り、1969年12月(3.5%)以来49年ぶりの水準となった(後掲図表6参照)。
労働参加率(2)は62.7%(前月:62.7%)と、こちらは前月から横這いとなった(後掲図表5参照)。
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(1)季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
(2)労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
結果の評価:雇用の伸びは鈍化も、ハリケーンが影響した可能性。労働市場の回復は持続
9月の非農業部門雇用者数は、10万人台前半に伸びが鈍化したが、後述するように過去2ヵ月分が合計+8.7万人上方修正された結果、過去3ヵ月の月間平均雇用増加ペースは19.0万人増と依然として20万人に近いペースを維持しているため、雇用は堅調な増加が続いていると判断できる。
また、9月は雇用統計の調査週(9月12日を含む週)後半に米南東部を襲ったハリケーン「フローレンス」が影響した可能性がある。実際、昨年のハリケーンで減少がみられた飲食業の雇用者数が前月比▲1.8万人(前月:+1.8万人)と減少したほか、「天候要因で就業不能となった」人数が29.9万人と統計開始以来の9月平均(8.5万人)に比べて顕著な増加となったことはハリケーンの影響を示唆している。
一方、家計調査は失業率が49年ぶりの水準に低下したものの、労働参加率が前月から横這いとなったほか、後述するようにプライムエイジの労働参加率が低下していることや広義の失業率が上昇したことを考慮すると、労働需給の改善は持続しているものの、失業率が示すほど改善しているとは言えない。
時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.3%(前月改定値:+0.3%、市場予想:+0.3%)と、+0.4%から下方修正された前月改定値、市場予想に一致した。
また、前年同月比は+2.8%(前月:+2.9%、市場予想:+2.8%)と、こちらは09年6月以来の水準となった前月からは伸びが鈍化したものの、市場予想に一致した(図表1)。前年同月比でみた賃金上昇率の回復は足踏みとなったものの、労働需給の逼迫が持続していることから、今後も賃金上昇率の回復基調は持続しよう。
このようにみると、ハリケーンの影響によって一部統計が歪められている可能性はあるものの、9月の雇用統計は概ね労働市場の回復が持続していることを示す結果と言える。
事業所調査の詳細:小売、娯楽・宿泊サービスの減少で民間サービスの伸びが大幅に鈍化
事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+7.5万人(前月:+21.7万人)と前月から伸びが大幅に鈍化した(図表2)。
民間サービス部門の中では、専門・ビジネスサービスが前月比+5.4万人(前月:+6.5万人)、医療サービスが+2.6万人(前月:+3.2万人)と前月から伸びが鈍化したほか、小売業が▲2.0万人(前月:+1.2万人)、娯楽・宿泊が▲1.7万人(前月:+2.1万人)と前月から減少に転じた。とくに、娯楽・宿泊業では前述のように飲食業の下落が大きくなっている。
一方、財生産部門は前月比+4.6万人(前月:+3.7万人)と、こちらはサービス業とは対照的に前月から伸びが加速した。建設業が+2.3万人(前月:+2.6万人)と前月並みの伸びを維持したほか、製造業が+1.8万人(前月:+0.5万人)と前月から伸びが加速した。
政府部門は、前月比+1.3万人(前月:+1.6万人)と前月から伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府が▲0.1万人(前月:▲0.1万人)と前月に続き減少したほか、州・地方政府が+1.4万人(前月:+1.7万人)と前月から伸びが鈍化した。
前月(8月)と前々月(7月)の雇用増(改定値)は、前月が+27.0万人(改定前:+20.1万人)と+6.9万人上方修正されたほか、前々月も+16.5万人(改定前:+14.7万人)と+1.8万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+8.7万人の上方修正となった(図表3)。
なお、BLSの公表に先立って10月3日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+23.0万人(前月改定値:+16.8万人、市場予想:+18.4万人)と、+16.3万人から上方修正された前月改定値、市場予想ともに上回った。この結果、ADP統計の雇用増加数は過去3ヵ月平均では20.3万人増と20万人超のペースを維持している。
9月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が27.24ドル(前月:27.16ドル)となり、前月から+8セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.5時間)と、こちらは前月から横這いとなった。その結果、週当たり賃金は939.78ドル(前月:937.02ドル)と前月から増加した(図表4)。
家計調査の詳細:就業者数は増加に転ずるも、労働参加率は横這い
家計調査のうち、9月の労働力人口は前月対比で+15.0万人(前月:▲46.9万人)と前月から増加に転じた。内訳を見ると、失業者数が▲27.0万人(前月:▲4.6万人)と3ヵ月連続の減少となったものの、就業者数が+42.0万人(前月:▲42.3万人)と、前月から大幅な増加に転じたことが大きい。一方、非労働力人口は+7.4万人(前月:+69.2万人)と、前月から伸びは鈍化したものの3ヵ月連続の増加となった。
この結果、労働力人口は増加したものの、労働参加率を改善させるには不十分であった(図表5)。一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は9月が81.8%(前月:82.0%)と、こちらは2ヵ月連続で低下した。男女別では、男性が88.6%(前月:88.8%)、女性が75.2%(前月:75.3%)といずれも前月から低下した。
このため、失業率は3.7%と49年ぶりの水準に低下したものの、労働参加率と併せて考えると労働需給は改善が続いているものの、失業率が示すほどの改善は示していないとみられる(図表6)。
次に、9月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、138.4万人(前月:133.2万人)と3ヵ月ぶりに増加に転じた。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも22.9%(前月:21.5%)と、前月から+1.4%ポイントの上昇となった。さらに、平均失業期間も24.0週(前月:22.6週)と、前月から長期化した(図表7)。
最後に、周辺労働力人口(157.7万人)(3)や、経済的理由によるパートタイマー(464.2万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(4)をみると、9月は7.5%(前月:7.4%)と前月から+0.1%ポイントの上昇となった(図表8)。U-6の上昇は3ヵ月ぶりである。
また、通常の失業率(U-3)が低下した一方、広義の失業率(U-6)が上昇したことから、両者の差は3.8%ポイント(前月:3.5%ポイント)と、前月から+0.3%ポイント拡大した。
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(3)周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
(4)U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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