●2017年の春闘賃上げ率を2.06%と予測する(厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」ベース)。16年の春闘賃上げ率は2.14%と、15年の2.38%から鈍化していたが、17年はさらに鈍化する可能性が高い。また、賃上げ分のうち、定期昇給部分(1.8%程度)を除いたベースアップで見ると0.26%になるとみられる。政府が強く賃上げを要請していることから4年連続でベースアップは実施されるだろうが、その伸びは昨年(0.34%)を下回る可能性が高い。

●春闘賃上げ率には物価動向や企業業績の動向が大きく影響するが、どちらも状況は厳しい。16年度の消費者物価指数は低下することが確実な情勢であり(当研究所の予想では16年度のCPIコアは▲0.3%)、物価面からの賃上げ圧力はみられない。春闘で重視されるのは前年度の物価動向であり、まだ実現していない「物価上昇率+2%」を前提として賃上げに踏み切る企業は存在しないだろう。加えて、企業業績についても、円高等を背景として16年度は減益が見込まれている。収益面からも賃上げが加速する様子は窺えない。

●春闘における交渉当事者である労使双方においても、賃上げムードは醸成されていない。先行き不透明感が強いなか、経営側は固定費の最たるものである所定内給与を引き上げることへの慎重姿勢を崩しておらず、前年を上回る賃上げには消極的だ。また、賃上げを求める側である労働組合サイドからも強気な声は聞かれない。10月20日に連合が発表した2017年春闘での基本構想では、「2%程度を基準」としたベースアップを求める方針が打ち出された。2015年春闘では「2%以上」を要求していたが、2016年春闘では「2%程度」にトーンダウンし、今回は16年と同様の要求に据え置いている。少なくとも、昨年以上の賃上げを求めようという姿勢は見えてこない。政府が度々賃上げの重要性を強調し、賃金引上げを強く求めている割には控えめな要求といえるだろう。組合側も賃金を取り巻く環境が悪化していることを認識しており、賃上げ率の加速が見込めるような経済環境ではないとの判断が働いたのだろう。

●こうした状況を踏まえると、17年春闘では賃上げ率が鈍化する可能性が高い。そうしたなか、17年度に入ると物価が緩やかながら上昇に向かうことで、実質所得は下押しされることになる。16年度は賃金の伸びが鈍いなかで物価の下落が実質購買力を下支えしているが、17年度は賃金の伸びが鈍い上、物価の上昇が重荷になることが予想される。17年度の景気は、経済対策効果や世界経済の回復により持ち直しが見込まれるが、個人消費については引き続き停滞感が残るだろう。17年度の回復は、あくまで企業部門主導であり、家計部門の回復を伴った形での内需主導の自律的回復には至らないと予想している。

2017年・春闘賃上げ率の見通し
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 新家 義貴