要旨

●本日、2016年度第一次補正予算案が閣議決定された。4月に発生した熊本地震の復興予算である。追加歳出規模は7,780億円。その殆どが予備費として使途を限定しない形を取っている。

●今回補正に当たっての追加の国債発行は無し。財源は利払費の不用で賄った。しかし、夏から秋の編成が見込まれている第二次補正予算で追加国債発行ゼロを堅持できるかどうかは微妙な情勢。追加国債や何らかの形での税外収入確保が求められることになる可能性がある。

2016年度第一次補正予算は7,800億円規模

 本日、2016年度第一次補正予算案が閣議決定された。熊本地震の復興対応のための補正予算案である。追加歳出の規模は7,780億円であり、2016年度当初予算の予備費3,500億円と合わせて、1.1兆円が熊本地震対応に充てられる。報道によれば、来週17日にも成立見込みだ。

2016年度第一次補正予算、国会成立へ
(画像=第一生命経済研究所)

 補正予算7,780億円のうち、7,000億円が使途を定めない「熊本地震復旧等予備費」として計上される。その他、応急仮設住宅の設置や飲食料品、被服等の供与に充てられる「災害救助負担金」に573億円、住宅被害のあった被災者の支援に用いられる「生活支援金」に201億円が計上されている。

 今回の補正予算案の特徴は、国会成立を急ぐために殆どを予備費として計上し、使途を限定していないことだ。現時点で歳出の中身は定まっていないが、損壊した道路等のインフラのほか、とりわけ被害の大きいことが明らかになっている農地の修復などに充てられるものとみられる。GDPへの影響という観点では、これらが政府の公共投資として計上される形で+0.1%pt前後の押し上げ効果が見込まれよう。

秋の補正では追加の国債発行?

 今回の補正予算はそのすべてを国債費の不用額発生で賄っており、追加の国債発行を行わなかった。2016年度分の利払費のうち、不用の発生が現時点で確定した分を財源としている。予算編成の際の利払費の算定にあたっての前提となる10年債利回りは1.6%と実勢に比べて高めに設定されており、その乖離が不用額発生の原資である。日銀のマイナス金利導入によって金利の低下が進んだことで乖離が広がったこともあり、追加の国債発行ゼロにつながった模様だ。

 ただ、夏から秋にかけて編成が見込まれている第二次補正予算においては、追加国債ゼロを堅持することが難しくなる可能性がある。

 想定金利と実勢金利との乖離を背景とした利払費の不用発生は、例年補正予算編成の際の財源となっている。仮に、2016年度の長期金利が▲0.1%で推移し続けた場合、粗い試算にはなるが年間で2.4兆円程度の不用額発生が見込まれる(016年度当初予算編成の際、実勢金利の低下を踏まえて2015年度時の1.8%から1.6%に前提金利の引き下げが行われた。これによる利払費の減少額が▲2,800億円と示されており、長期金利10bp当たりで1,400億円程度の利払費発生要因になっていたと推定される)。このうち7,800億円が、今回の第一次補正で利用されたことになり、残りの一部が第二次補正予算の財源として予想される額になる。

 加えて、近年は堅調な企業業績と株価上昇に支えられる形で、税収は当初予算時点からの上振れ発生が常態化しており、これが補正予算の財源となってきた。しかし、年初来の円高・株安は税収上振れの持続に疑問を投げかける。税収好調の背景には、個人所得税の配当所得や株式等の譲渡所得などが堅調を保ってきたことがあった。2016年度もこれまでのように補正予算の編成時点で税収上振れが生じるかどうかは、微妙な情勢にあるといえよう。その他の財源として、例年7月ごろに明らかになる2015年度の純剰余金が加わるが、これらの枠内で編成できるのは3兆円前後の比較的小規模な補正予算にとどまるのではないか。これ以上の規模の予算編成を行うには、追加の国債発行や何らかの形での税外収入確保が必要になる可能性が高い。第二次補正予算の財源確保は難航するとみている。(提供:第一生命経済研究所

2016年度第一次補正予算、国会成立へ
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 副主任エコノミスト 星野 卓也