中国広東省の深セン市に注目が集まっています。大手通信機器メーカーのファーウェイやドローン最大手のDJI(ディー・ジェイ・アイ)はもとより、アップル、マイクロソフト、クアルコムなどの錚々(そうそう)たる企業を誘致しており、現在では「アジアのシリコンバレー」と呼ばれるまでの大きな発展を遂げています。

深センは、中国のIT特区として始まり、スマート交通やキャッシュレス決済、顔認証による無人店舗から、インキュベーション、VC(ベンチャーキャピタル)によるサポートまで、今や世界の最先端技術とイノベーションを提供し続けるスマートシティへと成長しています。本稿では、技術革新の分野で世界から熱い視線を集める深センについてご紹介します。

IT特区として飛躍を遂げた深セン

Shenzhen
(写真=HelloRF Zcool/Shutterstock.com)

深セン市は中国南東部、香港の真上に位置します。面積、人口ともに東京都とほぼ同じで、中国のIT特区として興隆する以前は、小さな漁村に過ぎませんでした。1980年に外資誘致のための経済特区として指定された深センは、多くの海外企業を集め、やがて中国国内でも最大規模の製造業の集積地となったのです。

そして2015年、中国政府は「大衆創業・万衆刷新」の政策を打ち出しました。これは端的にいえば「スタートアップを支援することで、世界の下請け工場ではなく、より価値の高い製品を作り出していく」というものです。深センはこの指定地の一つに選ばれたことで躍進の機会を得ました。たとえば、深セン市福田区に位置する華強北は、もともとは日本の秋葉原を模して作られたものですが、今では秋葉原の30倍の規模まで拡大して1万を超える店舗がさまざまな電子機器やパーツを販売するようになっています。

さらに中国政府は深センにおけるベンチャー企業の支援にも注力しました。するとそれに呼応するように民間のエクイティファンドも次々と投資を開始し、現在では5万を超えるファンドが、新たなる技術開発に48兆円を超える資金を注ぐまでに至ったのです。

熱気溢れる「深センスピード」

わずか30年で30万人の人口から1400万人を超えるほどに発展した深セン市。人類史上例を見ない速度で発展を遂げた深センは、産業面でも同様に発展を続けています。日本の製造業であれば数週間、長ければ数ヶ月かかる商品開発も、深センであれば、わずか数日で試作品を作り上げることが可能です。ときに「深センスピード」とも呼ばれるこの圧倒的な製造速度の裏には、中国各地からやってきた若き技術者や創業者たちの存在があります。

都心はもとより、地方の貧しい農村からも夢を抱いてやってくる彼らは、ほんの少しのチャンスでもなんとか成功へと結びつけようとする熱意に溢れています。実際、投資会社の中には起業家候補を集め、短期間の間に成果が出せなければその場で契約終了、期間内に契約を取ってきたのであれば、さらなる投資を行うというところもあるほどです。深センは、一歩裏に回れば生き馬の目を抜くような激しいビジネス競争の世界でもあるのです。

また、深センには「作坊」と呼ばれる小規模・零細の工場が多数存在しています。彼らは大規模な生産には向きませんが、短期間で求められた製品を作り上げる力には長けています。顧客からの要望に応じて技術者が試作品をすぐに作り上げ、販売ができそうならば、起業家はさらなるブラッシュアップを繰り返して世界に提供できる商品を生み出す。革新と製造が一体化したこの熱量こそが、深センの魅力であり、「深センスピード」の由来なのです。

最先端のスマートシティを実際に体験

深センは中国のIT特区として、あらゆるハイテク製品を世界中に届ける場であると同時に、IoTと生活インフラを結びつけることで、現代における最先端技術を実際に体験できるスマートシティとしても機能しています。では、実際にどのような技術を体験できるのでしょうか。以下に主だったものを紹介します。

・取引のキャッシュレス化

深センでは「Well Go」をはじめとする、店員のいない無人店舗、無人コンビニがいくつも導入されています。これらの店舗はキャッシュレスでの取引が可能となっています。スマートフォンと連動させることで、QRコードによる入店が可能になり、RFIDによって選んだ商品をまとめて決済できます。

・顔認証の活用

深センのケンタッキーフライドチキンでは顔認証による決済も導入されています。顔認証は商品の購入に際してAIが購入者の顔を判断し、自動で決済してくれます。ただし、顔認証での決済を行うには、事前に中国アリババグループの第三者認証である「Alipay(アリペイ)」の登録と、QRコードによるアクティベートが必要になります。

・スマート交通

深センでは無人運転システムを用いた「アルファバス」が運行しています。アルファバスは運転手がいなくても車線変更し、障害物を避けることができます。さらにスマートフォンによるキャッシュレス乗車や、顔認証による乗車に関しても研究を進めています。またAIを活用することで、走行路線に映されるさまざまな人の顔が自動で認識されるため、都市への防犯機能にもつながっている面もあるのです。

世界市場を牽引する成長戦略

深センは驚くべき速度で成長を進めています。2017年の深センの成長率は前年比8.8%であり、香港を一兆円も上回る生産額となっているのです。中国政府は深センを重視しており、テクノロジーと科学技術の分野で若く優秀な人材が集まる都市を目指して、さらなるスマートシティ構想と都市開発を進める予定です。日本としてもこの発展に乗り遅れないため、2018年5月、ジェトロによる日中関係機関との提携を行い、深セン市でスタートアップ起業を支援するプロジェクトを開始しました。世界の最先端を行くスマートシティとして、圧倒的な速度でグローバル市場を牽引し続けている深センに、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。(提供:みらい経営者 ONLINE


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