ただ店頭に商品を並べておけば黙っていてもお客さまが次々やってきてくれる……。そのような時代は終わりを告げました。インターネットの普及で、お気に入りのECサイトを繰り返し利用したり、同じ商品をリピート購入することはもはや日常的なことといえます。では、商品を定期購入する「お得意さま」になってもらうためには、どのような企業努力が必要なのでしょうか。

本稿ではLTV(ライフタイムバリュー)という考え方がなぜ流行しているかについて説明するとともに、LTVの考え方を活用することで、お得意さまとの関わり強め、企業価値を向上させる方法についてお伝えします。

LTVってなんだろう?

LTV
(写真=Imagentle/Shutterstock.com)

LTV(ライフタイムバリュー)とは「顧客生涯価値」のことを指します。これはダイレクトマーケティングの考え方の一つです。お客さまに掛けられる費用(マーケティングコスト等)を単発の売上金額から割り出すのではなく、その方がもし「お得意さま」となって継続的に商品を購入してくれるようになった場合の総売上をベースに考えましょう、ということです。そうすることにより新規顧客開拓に莫大な費用を掛けずに、「お得意さま」に長期的かつ安定した収益を生み出してもらうのです。

たとえばあるお得意さまが1,000円の商品を買いに100回お店に来てくださるとしましょう。そう考えると売上は10万円です。マーケティング担当者がこのお得意さまに仮に合計で1万円のコストをかけたとして、商品1個の金額からすれば割高ですが、LTVの観点から見ればけしてそうではないことが分かります。これはとても現実的な考え方です。実際、私たちの日々の生活でも、マヨネーズはあの商品、牛乳はこの商品など、同じものを買うことが多いのではないでしょうか。

一度接点をもったお客さまとの関係性を高めていく方法をCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)と呼びますが、このCRMを通じてお客さまを「お得意さま」に変え、それによって長期的な関わりをもってゆくことはこれからの経営においてキモであるともいえます。LTVはこの関わり方を最大化するための理論なのです。

LTV流行の背景

LTV流行の背景には、国内市場の飽和と人口の問題が密接に関わっているといわれています。たとえば外食をしたいと思ったとき、イタリアン・フレンチ・中華・和食と、私たちは今や、世界のほとんどの食事をチョイスすることができます。一方で目をみはるような新しい料理というものはそうそう生まれるものではありません。食品に限らず今や国内では、外食産業と同様、サービスや家電・自動車など生産市場のほとんどが飽和状態になっています。

今後40年程度で、国民の約4割が65歳以上の高齢者となると予想されている(2016年度版「厚生労働白書」より)現代。多額のコストをかけて新規の顧客を開拓するよりは、より低いコストで一つの商品を繰り返し使ってもらえる方に、企業側の意識がシフトするのはごく自然なことだといえるでしょう。そして、以下に述べるような環境の変化によってもLTVは生き残り対策として、今後より重視なファクターになってきています。

●通販市場のシェア拡大

健康食品やサプリメントなど、いわゆる「リピート通販」と呼ばれる業界では、LTVを活用したマーケティングが重視されています。通販業界では一般的にリスティング広告など、広告宣伝費が多額にかかります。比較的低い価格設定の商品でこのコストを回収するためには毎月継続して、そして長期にわたって商品を購入してもらう必要があります。

●ソーシャルメディアやオウンドメディアの流行

今や企業がソーシャルメディアや自社発信のメディア(オウンドメディア)を活用するのはごく一般的なものとなっています。その目的の一つに、見込み客が自社の商品やサービスに対して愛着を持ってくれるように育成していくことが挙げられます。また見込み客が顕在顧客となった後も、長期にわたってコミュニケーションを取り続けることで、LTVを高めていくという効果も期待されています。

●成熟市場への変化

少子高齢化によって日本の人口は減少に転じ、消費者数という観点からはもはや成長市場とは呼べなくなっています。また、商品やサービスの多様化が進み、かつ必要なものは消費者に行き渡っています。このような市場では、新規顧客の開拓は難しいため、より既存顧客のニースを敏感にキャッチし、リピート購入につなげる工夫が不可欠となっているのです。

いざLTVを使ってみよう!

このように大いに活用されているLTV。実際に使ってみる価値は十分にあります。厳密な計算式もありますが、本稿ではもう少し簡便な方法をお伝えします。

LTVの求め方は、

  1. 「年間利益」
  2. 「継続年数」
  3. 「顧客維持のコスト」

だけがわかれば十分です。仮に顧客の1人当たり年間利益が3万円、継続年数が5年、顧客維持のコストが年間1万円とすると、

LTVは10万円=(3万円-1万円)×5年 

ということになります。この場合、回収期間が5年かかることは念頭に置かなければなりませんが、お客さまに掛けられる費用が最大10万円まで捻出できるということになります。その上で、LTVをより向上させるための施策を講じていきます。

たとえば、アフターサポートを充実させることにより継続利用価値を増大させたり、関連商品の販売により収益性を向上させたりといった施策が考えられます。またリピーター獲得を目的としたマーケティング担当者が、トライ・アンド・エラーを繰り返して効果検証を計測してゆくため、最近ではMAツールの活用なども頻繁に行われています。

このようにLTVという視点にもとづいて自社のマーケティング諸施策を見直してみることは、将来的な安定経営に有用な取り組みといえるでしょう。(提供:みらい経営者 ONLINE


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