働き方改革関連法が2018年6月29日に国会で成立しました。働き方改革の狙いは「誰もが活躍できる社会の実現」と「企業の生産性を向上させること」です。これらは従来の日本型の雇用形態を抜本的に変化させるものとなり得ます。本稿では、働き方改革が企業の経営面にどう影響するのか、また、どのようなメリットがあるのかについて考えます。

働き方改革の背景には労働人口の減少が

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(写真=StudioByTheSea/Shutterstock.com)

近年、少子高齢化が急激に進み、労働人口が減少しています。政府の統計によると、日本の労働人口は1995年以降年々減り続けていて、2013年には8,000万人を切りました。将来の推計値では、2060年には約半分の4,418万人にまで落ち込むと試算されています。また、中小企業を中心に人材不足の問題はすでに深刻化しています。

働き方改革の柱は、長時間労働を改善する「残業時間の上限規制」や、正社員と非正規社員の不合理な待遇差を解消する「同一労働同一賃金」です。これらを通して労働人口の低下を補うべく無駄な残業を減らし、生産性を向上させることが働き方改革の一つの狙いなのです。

働き方改革は「一億総活躍社会」の根幹

2017年11月の所信表明演説で安倍首相は「女性が輝く社会、お年寄りも若者も、障害や難病のある方も、誰もが生きがいを感じられる『一億総活躍社会』を創り上げます」と述べました。そして働き方改革はこの一億総活躍社会に向けた最大の取り組みです。

働き方改革が求めるものは、噛み砕いていえば、従来型の終身雇用制や年功賃金をなくすことにあります。その代わり、雇用形態に柔軟性を持たせることで、たとえば子育て中の女性や、病気や障害のある人、また高齢者に至るまで、すべての人に働く場を提供し、労働人口を増やすことにあります。

しかし、従来における日本型の労働形態に構造的な変化を及ぼそうとしたところで、非効率であっても現状で利潤を生み出している企業が多ければ、それらの企業が自社の業務形態を変える可能性は決して高くはないでしょう。

このため、政府は働き方改革に一定の強制性をもたせています。その内容は、現状維持のみを望む企業にはデメリットとなりますが、逆に真剣に利潤を追求する企業にとっては大きな好機ともいえるものかもしれません。

今後企業経営で大きく変わること

大手広告代理店の女性社員が過労で自殺したことがメディアで大きく取り上げられ、社会問題になったことは記憶に新しいでしょう。これらをきっかけに、長時間労働を改善することが働き方改革においては大きなテーマとなり、残業時間の上限規制が大企業では2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用されることになりました。

・ 残業時間の制限を守らない企業には罰則

労働基準法で、法定の労働時間は「1日8時間、週40時間」と決められています。これ以上働かせたら実は違法なのですが、これでは仕事にならない場合もあるため、例外的に、会社と労働者側が時間外労働に関する労使協定(36協定)を結べば労働時間の延長、つまり時間外労働が可能となります。

時間外労働の規制については、これまで「月45時間、年360時間」の基準はありながら、強制力はありませんでした。また36協定には「特別条項」があり、これが事実上無制限に時間外労働を容認してしまうという指摘も受けていました。そのため、今回初めて法的な拘束力がある罰則付きの上限規制が設けられます。

正式な時間外労働の上限は「月45時間、年360時間」が原則ですが実情に合わせて忙しい年末年始などの繁忙期には例外的に超えることは可能です。しかし、月45時間を超えて社員を働かせることができるのは年に6ヵ月まで、年間の上限は720時間以内となります。ただし、これらのルールは休日労働を含めない場合の話です。

休日労働を含めると、「月100時間未満」が時間外労働の上限規制です。企業は複数月の平均で「月80時間」を守る義務があります。この「月80時間」というのは、労災認定される過労死ラインの基準と同じです。この上限に違反した企業は6ヵ月以下の懲役、または30万円以下の罰金に課されます。

・ 年次有給休暇は最低5日が義務化

年次有給休暇の消化義務についても、働き方改革関連法で2019年4月からすべての企業に義務化されます。例えば、年10日以上ある年次有給休暇を従業員が自主的に5日以上消化しないと、企業は社員の希望を踏まえて最低5日は消化させる義務があります。違反すると、企業は社員1人につき最大30万円の罰金を支払うことになります。

企業側への具体的なメリットは?

このように働き方改革は、長時間労働や年功賃金を掲げる従来型の企業にとってはなかなか頭の痛い内容になっています。しかし同時に変化を求めることで大きなメリットも生じるのです。

・能力開発と効率化による生産性の向上

厚生労働省による平成30年版「労働経済の分析」によると、日本では業務の遂行にあたって労働者の能力不足に直面している企業の割合が高く、スキルや学歴に関するミスマッチも大きいと述べています。

これらの課題に対して、長時間労働による罰則が生じることで企業側は労働形態をより適切なものへと変化させねばならず、また労働者側も自己の能力開発と時間内での業務の遂行という効率化に腐心しなければならなくなります。これらは、いわゆる外資系企業のように「時間内に業務を遂行できなければ評価が下がる」というかたちを掲げているともいえるでしょう。

・解雇規制の緩和の可能性

いくらフレキシブルな就業形態を掲げようとも、企業側の雇用保護が従来通りであれば、企業としては人を雇いにくくなります。ましてや「同一労働同一賃金」を訴えるのであれば、正社員と非正規社員との賃金的な格差は大きく縮みます。一方で、就業形態の自由化は、雇用のかたちや契約内容の自由化と表裏一体だともいえます。このため、解雇に関する規制が緩和される可能性は十分にあり得ます。

2013年4月、政府の「産業競争力会議」においてすでに、三菱ケミカルホールディングスや三井物産、丸紅、帝人、三井住友銀行などの役員たちが理事となっている「経済同友会」が、再就職支援金と併せるかたちで解雇におけるルールの合理化や明確化を求めています。

これらの実現は、離職者を増加させるおそれはあるものの、同時に企業側からすると、能力の高い人を採用したり、また短時間労働などの自由な雇用形態を生み出したりすることで、さらなる事業価値の向上にもつながるものといえるのです。

企業に求められる働き方改革への対応

企業が働き方改革に適切に対応するには、まず現状の勤務状況を的確に把握し、その上で長時間労働や残業が日常的な部署があれば、一つひとつ見直しすることが求められます。年次有給休暇の取得でも、企業として就業規則や制度のマニュアル、柔軟な人材配置や管理をする必要があります。

これまで長時間労働が日常的だった企業や職場では、いきなり残業時間の削減や環境を整備することは難しいことですが、企業が具体的に取り組みを進め、業務内容を改善すれば、社員のやる気はアップして離職率は下がると考えられます。企業としての評価も高まり、新たな人材確保や育成にも繋がり、経営面の大きなメリットになることでしょう。 (提供:みらい経営者 ONLINE


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