アジアが世界に占めるGDPの割合は1980年以降右肩あがりの発展を続けています。BRICsやVISTAなどにも含められる通り、アジアは非常に伸びしろのある地域です。

アジアにはまだ物価が安い国も多いため、現地で法人を設立しビジネスを展開しようと検討している企業も多いのではないでしょうか。しかし、現地企業を購入もしくは現地で法人を設立する海外でのM&Aには、思わぬリスクが潜んでいることもあります。本稿では、人事労務で生じがちな問題について、事例を交えて回避策を考えます。

「人の問題」が発生しやすいクロスボーダーM&A

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(写真=imtmphoto/Shutterstock.com)

海外におけるM&Aのリスクとして、まず情報の収集が難しいということが挙げられます。現地におもむいて詳細な企業調査をするのは並大抵のことではありません。そのため事業の状況を適切に判断できず、買収価格が不釣り合いになってしまうおそれが生じます。

また文化の違いや距離的な問題もあり、意思の疎通が難しく、うまく連携できないこともあります。現地の法律などで思わぬ規制に引っかかることも少なくありません。

とりわけ問題が生じがちなのが人事労務です。内閣府の経済総合研究所が発表した「M&A事情調査研究会報告2011」の「インドの経済動向と成長戦略としてのM&A」では「新興国現地は貧困からの脱却に向けた激しい競争にさらされており、労務問題・ストライキ、排斥運動、不買運動に、現地で成功するほど必ず直面する。」と警鐘を鳴らしています。

「人の問題」は往々にして想定しづらいものです。買収前には想像もしなかった「人の問題」が発生するおそれは、クロスボーダーM&Aでは常に考慮すべきものだと言えるでしょう。

インド最大の自動車メーカーで起きた痛ましい事件

具体的に「人の問題」とはどのようなケースがあるのでしょうか。

例えばインド最大の自動車メーカー、マルチ・スズキ社では2012年7月に暴動が起き、発生した火災で人事部長が死亡。工場は1ヵ月の操業停止を余儀なくされました。この事件に関連して31人が有罪判決を受けています。

この争いは業績評価に対する不満、価値観や文化の違いなどが原因となったと言われています。異なる国同士の「すれ違い」が大きな人事労務の問題に発展することがあるのです。

現地法人化の成功のカギは

では、このような労働問題を未然に防ぎ、M&Aを成功させるにはどうすればいいのでしょうか。

まず、デューデリジェンス(企業評価)の時点で、労働争議や未払い賃金が発生していないかを確認する必要があります。現地の労働法に精通した弁護士などのプロフェッショナルと手を組み、日本の法律との違いやリスクを精査することも重要です。

経済産業省が2018年3月に発表した「我が国企業による海外M&A研究会報告書」では、海外企業を成功させるための3つの要素を挙げています。

①M&A 戦略ストーリーの構想力
②海外M&Aの実行力
③グローバル経営力

この3点に加えて重要なのは、クロスボーダーM&Aにおける事業計画です。M&Aを行う前には、まず自社の状況を正しく分析し、明確な成長戦略を策定しなければなりません。それができず、曖昧なかたちで海外法人に関与すると、成果が得られないだけではなく、デメリットが強調される結果に終始するおそれがあります。

プロの手を借りながらも主体的に動くこと

国をまたいだクロスボーダーM&A では、正しい情報を得ることの難しさや文化や法制の違いなどから、問題が発生することが多々あります。中でも労働争議など人事労務の問題は深刻な事態に発展することも少なくありません。このようなリスクを回避するためには、現地の法律やM&Aに精通したプロの助けを得ることが有用です。そして、同時に経営トップが明確な成長戦略を策定し、主体的に動くこともクロスボーダーM&Aを成功させるカギとなるでしょう。(提供:みらい経営者 ONLINE


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