「医師の給与が高額過ぎる」--。米国でこんな声が上がっているそうです。米国における一人当たりの医療費は9,403ドル(約106万円)で、他の裕福な国の2倍と言われているのですが(JAMA=米国医師会雑誌の調査による)、医師の高給がその一因と指摘されているのです。実際のところ、どれほど他国と差があるのでしょうか。米国の医師の給与が高い理由なども見てみましょう。
医療費、医師の給与が、日本やカナダ、ドイツなどの2倍
JAMAの調査によると、2016年の医療費の対GDP比は、スイスやオーストラリアを含む最も豊かな10ヵ国では9.6~12.4%だったのに対し、米国では17.8%でした。健康保険加入率は90%と他国より低く、民間保険の割合は55.3%と最も高いのが特徴です。
これまで専門家は、「医療サービスの利用者が多いこと」を膨大な医療コストの原因と考えていました。しかし膝や股関節の置換、様々な種類の心臓手術などを受けた患者の退院率を見ると、米国での介護サービスの利用率は他国とそれほど変わりません。それどころか、米国の患者は診察を受ける頻度も入院日数も少ないことが最近の調査で分かっています。
米国保健システムの未来について議論が活発になる中、新たに浮上したのが「医師の給与の高さ」です。米国で高額なのは医療費だけではなく、医師の平均給与も他国の約2倍なのです。
米国の整形外科医の年収は5,000万円超え
世界最大の医療情報サイト「MedScape」が毎年発表している「医療報酬レポート2018年版」によると、プライマリーケアや専門医を含む米国の医師の平均給与は29万9,000ドル(約3,376万円)。2011年から7年連続で上昇傾向にあります。この調査は2万人以上の医師から収集したデータに基づくものです。
診療科目によって給与は大幅に変わり、専門医は32万9,000ドル(約3,715万円)、プライマリーケアは22万3,000ドル(約2,518万円)と、こちらもそれぞれ2017年から1万3,000ドルと6,000ドル増えています。最高所得のトップ3は前年から引き続き、美容整形外科医が50万1,000ドル(約5,655万円)、外科医が49万7,000ドル(約5,610万円)、胃腸病専門医が42万3,000ドル(約4,774万円)です。
日本の医師の平均年収は?
厚生労働省2017年のデータから算出した病院勤務医の平均年収は1,696万円、開業医は2,800万~4,000万円だといいます。
同じく厚生労働省の2006年のデータによると、病院勤務医の平均年収は1,476万円、開業医は2,458 万円だったので、米国同様、日本でも医師の所得は年々増えているようです。
ある調査では、日本の医師の診療科目別平均所得のトップ3は脳神経外科(1,480万3,000円)、産科・婦人科(1,466万3,000円)、外科(1,374万2,000円)となっています。
欧州で最も医師の所得が高いのはベルギー
欧州はどうでしょうか。「MedScape」が2017年10~12月にかけて英国の医師815人の所得データを収集したところ、フルタイム医師の平均所得は11万5,000ポンド(約1,713万円)、中央値は9万5,000ポンド(約1,415万円)でした。
また2011年のOECDのデータからは、欧州で最も一般医(GP)や専門医の所得が高い国はベルギーであることが明らかになっています。しかし、それぞれ開業医で17万3,000ドル(約1,954万円)、27万8,000ドル(約3,140万円)と米国より低めです。英国などはさらに低く、開業一般医で15万6,000ドル(約1,763万円)、勤務医で8万6,000ドル(約972万円)、オランダはそれぞれ14万3,000ドル(約1,616万円)、8万9,000ドル(約1,006万円)となっています。
米国の医師が高所得な理由
米国の医師の給与が飛び抜けて高い理由として、経済学者兼ジャーナリストのヤレク・ワスル氏は、米国では「医師の給与を高くすべき」という考え方が浸透している点を挙げています。
医師になるためには、長年にわたる教育やトレーニングの積み重ねが必須です。それゆえに医師は多大なる尊敬と信頼を受けるわけですが、ワスル氏は「米国人は他国の医師の平均年収を知らない可能性がある」と皮肉めいたコメントをしています。
他国では医療分野によって所得が大きく変わることも珍しくないのですが、米国では医療に携わるあらゆる分野の医師が高給を得ています。そのため他国では専門医ほど給与の高くない一般医でも年間20万ドル以上の収入を得て、国の賃金労働者の上位1%に属しているのです。
ワスル氏はもう一つ、「専門医が多すぎる」点を指摘しています。専門医のほうが給与が高いと述べましたが、他国の医師の3分の2が一般医であるのに対し、米国の医師の3分の2は専門医だというのです。他国では一般医が診察することを、米国では専門家が診察するという仕組みが原因で、医療費が膨れ上がっているということです。
およそ半分の医師が「もっと給与を上げて欲しい」
「給与をもらい過ぎている」と言われる米国の医師ですが、その45%が現在の給与に不満を持っています。そのうち45%は現在より11~25%、32%は26~50%、「給与を上げるべき」と考えています。一人前の医師として所得を得るまでの「投資」と比較すると、世間一般で言う「高給」でも割が合わない、といったところでしょうか。
米国医科大学協会の2013年の調査によると、医学部の4年間の医療費の中央値(費用や書籍を含む)は、私立学校で27万8,455ドル(約3,146万円)、公立学校で20万7,866ドル(約2,348万円)でした。メディカルスクールと大学で合計8年を学業に費やした後、トレーニングに3~7年を費やすのが一般的です。
当然ですが、もらう立場と払う立場ですいぶん見解が異なるようです。(アレン・琴子、英国在住のフリーライター / d.folio)