社員に対して評価の基準を明確にしようと人事評価制度を導入しても、それが必ずしも成功するわけではありません。人事評価制度の本質を取り違えて、間違った形で導入してしまえば、「導入前後で大した変化がない」「わざわざ新しいやり方を始める必要なんてあったのか」と言われかねません。その結果、企業によっては今まで通りの年功序列の評価に逆戻りというところさえあります。
では人事評価制度の導入に成功する企業と失敗する企業にはどのような違いがあるのでしょうか。今回は経営全体における人事評価制度のポジションにフォーカスを当てて、両者の違いを解説します。
人事評価制度が経営戦略と紐づいているか・いないか
企業を経営するうえで、もっとも上流にある概念は経営理念や経営者のビジョンです。経営戦略はこの経営理念や経営者のビジョンを実現するためのより具体的な戦略を指します。人事評価制度がこの経営戦略と紐づいていれば、制度の導入が成功する可能性は高くなります。
なぜならば、経営戦略を実行するのは「人」だからです。どんな人材を求めていて、今いる社員や将来入社してくる社員に、どんなふうに育っていって欲しいかを示す人事評価制度が、企業が向かうべき方向である経営戦略と紐づいていなければどうなるでしょうか。
例えば企業としての柔軟性が高く、市場の変化に素早く対応した事業展開ができる組織を目指しているのであれば、ノーレイティングやパフォーマンス・マネジメントといった社員を個別に見る人事評価制度が適しています。にもかかわらず古い価値観を尊重する側面を持つ年功序列型の人事評価制度を採用してしまうと、いつまでたっても経営戦略に合った人材が育つことはありません。そのため経営戦略自体が失敗に終わるか、人事評価制度が失敗に終わるか、いずれかの結果になるのです。
処遇制度が人事評価制度に基づいているか?
中小企業に多いのは、賃金や賞与、昇給といった処遇に関する制度に基づいて人事評価制度を作ってしまうケースです。確かに処遇制度は人事評価制度に比べて手っ取り早く導入できるため、先に手をつけられがちです。
ところが処遇制度を先に決めてから人事評価制度の順番に作ってしまうと、「君の処遇はこのように決まった。なぜなら君の評価は人事評価制度に基づいて、このようになっているからだ」といった具合に、人事評価制度は処遇を納得させるための道具としての役割でしかないのです。
この場合は、人事評価制度は経営戦略に基づいて評価を下すためのものではなくなっているため、後付けの人事評価制度を通じて人材が育つのは難しいのです。その結果「人事評価制度に意味はない」「導入しても経営改善にはつながらない」と認識されてしまい、導入は失敗に終わる可能性が大きくなってしまいます。
本来の人事評価制度は経営戦略と結びついて、企業に必要な人材を評価・育成するためのものです。そのため人事評価制度が先にあって、評価に基づいて処遇が決定されなければいけません。経営戦略→人事評価制度→処遇制度の順番で作られるからこそ、人事評価制度が経営全体の中の一つの歯車として機能するのです。
この前提をおさえている企業の人事評価制度の導入は成功する可能性が高くなり、無視している企業は失敗する可能性が高くなります。
自社の経営戦略をスタート地点にする
人事評価制度はあくまで経営のための一つの部品にすぎません。そのため人事評価制度の導入を成功させるためには、企業全体がどこへ向かうのかを念頭に置いたうえで制度を設計し、経営という大きな文脈の中に当てはめる必要があるのです。自社の経営戦略をスタート地点としてしっかり設定して、人事評価制度を考え直してみましょう。(提供:あしたの人事online)
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