新刊のテーマに「銀行」を選んだ背景について、責任編集・若林恵氏(黒鳥社コンテンツ・ディレクター)は「自分がやるのは恐れ多いと思った」としながら、北欧では金融を単なるビジネスではなく一種の社会保障としてとらえ、その変革がすなわち社会変革運動になると考えられていたところに感化されたことがあったと明かす。

その若林氏が「人様のメディアブランドを預かる格好ではなく完全なる自社プロダクト、かつ企画も編集もほぼひとり」で作り上げた新刊『NEXT GENERATION BANK 次世代銀行は世界をこう変える』は、変わらない切り口で、銀行やフィンテックサービス、AI、デジタル分散主義や金融包摂のあり方を取り上げて考察した、示唆に富む一冊となっている。後編では銀行や金融のあるべき姿について聞いている。(聞き手:濱田 優ZUU online編集長/写真・森口新太郎)

【関連記事】
銀行を苦しめる「二律背反」を乗り換えるために:辣腕弁護士・佐藤明夫からの提言
次世代銀行は世界をどう変えるのか――黒鳥社・若林恵氏インタビュー【前編】

教育でも納税でも会社には頼れない時代

若林恵氏
若林恵氏(写真=森口新太郎)

――“お金の民主化”という言葉を新刊やエッセーでも使われていますね。

国の管理から法定通貨とか通貨制度を脱却していくという話には、実はあんまり興味がないんですよね。だって現実味ないし。「(リバタリアンや仮想通貨信者が)国がなくなるって言うけど、それいつなくなるんだよ」って思ってしまう(笑)。しかもどういう道筋でなくなるという話もよく分からないし。むしろ今起きていることって、逆に国という枠組みが強くなってきているということでもあって、それはある意味では、テクノロジーによる変化に対する反動でもあるんですけど、そうでない部分もあるように見えるんですね。

僕の意識の先にあるのは、貨幣が民主化されるとかではなくて、金融サービスみたいなものはもっと人が使いやすいものになったほうがよくないか、ということなんですよ。海外の新しい次世代銀行は、個人に対しても法人顧客に対しても、よりきめの細かい財務上のアドバイスとか、そういったものをやっていくものになっていくだろうと。AI使うなり、分散処理で、従来はある特定の人たちしか提供できなかったサービスを全員にできるようになると思う。そういう意味では、サービスをもっと民主化、個別化できるだろうし、すべきじゃないかという気がしています。

このご時世で日本の銀行は9時から3時までしか窓口が開いてないわけです。でも人は24時間、365日動いてるわけで、その中でよりきめの細かいサービスを、どうやって提供していくのかを考えなきゃいけない。

――そうなると組織も働き手も変わっていくことになりますね。

今まで働き手の多くは、会社が納税や保険料払いをやってくれてたわけです。企業側からすると、国が押し付けてるからなのかもしれませんが、いずれにせよ働き手は楽だったはず。

ただ企業が働き手のあらゆる面倒を見るのは無理になってきて非正規の割合を増やしたいと考える中で、極端にいえば働き手はフリーランスのような働き方をせざるを得なくなってきている。そうなると自分の会計は自分で面倒見なきゃいけなくなる。

北欧の会計アプリをやってる人たちが言ってたんですけど、フリーランサーはキャッシュフローの予測がすごく難しくて、8割の人は月に1回は貯金に手を付けるそうです。それが会社員だと2割に過ぎない。そういう中で、会計アプリが「使い過ぎだ」とか、お金の出入りを見てマネージメントのお手伝いをしてくれるというサービスを入れようと思ってると。かつそこにマイクロレンディングサービスも入れようかなという話をしていて……。働き手がどんどん個人化(編注:個人であらゆることをしなくてはいけなくなるという意)していくという中においては、こうしたフィンテックのサービスが一種のセーフティーネットみたいなものじゃないかと僕は思ったんですよね。

納税とか申告の作業を簡単にしてくれるサービスが身近にないと途方に暮れる人が相当出てくるし、非正規になった人たちがみんな確定申告することになったら、税務署は確実にパンクする。ちゃんと納税者をオンライン化して、会計をほぼ自動でできるようにするのはお互いにとっていいはずです。

――たしかに会社はこれまでいろんな機能を肩代わりしてくれていました。

そうなんです。実務的な作業を担ってくれていたという面でもそうだし、会社は、社会の機能としては、教育機関でもあり、情報機関でもあったわけじゃないですか。会社にいればその業界の情報を早く得られたわけです。トヨタに勤めていたら世界で起きてる車にまつわる情報が入ってくるとかね。

ところが今の時代、イーロン・マスク(テスラCEO)が突然ツイートして株価が動くご時世です。情報の得方をはじめ大きく変わる中で、会社の中での情報格差みたいなことが極端な形で起き始めていて、その上、社員教育とか悠長なこと言ってる余裕もなくなってきてるわけです。

今、編集やライターの若い子集めて講座をやってるんですけど、「ライター3年やってるんです」みたいな若者が本当に仕事を教わってなくて原稿の書き方とかを知らない。それでも3年やってきている。本人たちもそれでいいとは思ってなくて、怖いんですよ。3年やって仕事は回ってるけど、これで本当にあってるんだろうかと。

――そういう疑問があるから教えを請いに来るわけですよね。

そう。逆にいうと、もはや社外にその機能というか、装備がないとやばいわけです。今はサロンとかセミナーがはやってるけど、朝活とか勉強会とかが用意されてなかったら、若いやつらは社内で漫然としているうちに、情報も取れない、職業人としての成長もできないということになってしまう。それは、その人たちにとっても危険ですし、会社にとっても危険ですし、社会全体にとっても危険なことだと思います。

でも仕事しながらサロンとかセミナーには定期的に顔出すものだという風潮ができて習慣化されれば、今の若い子たちも一生やり続けるかもしれなくい。そうなったら企業で働くこととそういうものが補完しあって社会の中で機能するのかもしれないですよね。