11月の雇用統計でNFP(非農業部門雇用者数)は前月比15.5万人増にとどまったが12月については11月実績をやや上回り前月比18万人増というのが市場の予想である。失業率が3.7%と非常に低く、完全雇用の水準にあると見なされる状況では、単月の雇用者数の伸びはあまり重要ではない。それよりも賃金の伸びのほうが重要である。時間当たり平均賃金は、ここ2ヶ月続けて前年同月比で3%を超えてきた。CPIやPCEなど物価指標が伸び悩むなか賃金だけが上昇しており、この傾向が基調として定着すればやがて物価にも波及してくると思われるだけに注目が集まる。
時間当たり平均賃金は、ここ2ヶ月続けて3%を超えてきたというものの、10月は3.10%で、11月は3.05%と低下している。10月は前月比0.15%と非常に低い伸びでも前年同月比では3.10%と高い伸びになった。これは前年の賃金の伸びが鈍かったからである。2017年10月の平均時給はこの年唯一の前月比で低下、前年比でも2%台と年間最低水準。つまり比較対象である発射台が低かったから前年同月比では高い伸びとなった面が否めない。2017年の賃金はその後持ち直し12月は$26.64と高水準で終えた。今回発表される時間当たり賃金が前年同月比で3%に乗せるには、前月比で0.33%の高い伸びが必要である。過去3ヶ月の前月比上昇率の平均は0.22%。おそらく12月の賃金は前年同月比で3%に届かないだろう。FRBの利上げ打ち止めを催促する市場の声がますます高まる結果となろう。
12月のNFPはコンセンサスを上回ると予測
DeepMacroは独自のビッグデータに基づき、12月のNFP(非農業部門雇用者数)を19.6万人増と予測。これは市場コンセンサスの18.5万人増を上回る。DeepMacroの予測がコンセンサスを上回っている場合、短期のリスクヘッジ戦略として、米金利(債券)の売り、米ドルの買い、S&P500の売り、を推奨する。この戦略により、既存の中期ポートフォリオに対する短期のイベントリスク(雇用統計)をヘッジすることができるとわれわれは考えている。今月、DeepMacroの予測はコンセンサス予想を若干上回っているが、短期のヘッジモデルと既存のポートフォリオの推奨内容が一致しているため、今回は雇用統計を前に既存のポジションを維持する戦略としたい。
DeepMarcoの予測が正しければ、12月の民間雇用は、予想を下回った11月の結果と比較して増加したことを意味する。今月の予測は年初来平均の値に近く、過去3ヶ月から6ヶ月平均のペースからは若干上昇したことになる。市場コンセンサスを上回る予測となったDeepMacroモデルの根拠は以下の通り。
・米国の成長は12月も堅調なペースを継続。通年で、トレンドを1標準偏差程度上回る水準で推移。12月は0.95(10年平均からの標準偏差)となり、11月の0.77から上昇。
・新規求人も引き続き強かった。11月の水準からは4.4%減と若干低下したが、前年比では7.8%増。月末のホリデーシーズンを向かって徐々に弱くはなったが、これ以外の期間は堅調だった。
・新規採用はさらに強く、11月の堅調な水準から1.1%増、前年比では18.8%増となった。月中のデータも、月を通じて採用が強かったことを示している。
強い雇用統計が期待される一方で、労働市場における需要と供給の動向は、短期的に賃金上昇圧力が上昇することを示唆していない。これは、実際の雇用(新規採用)が継続して新規求人(企業の雇用意欲)を上回ってきているからだ。上述の通り、12月は特に採用が強かった。しかし、企業の労働需要は満たされており、企業は雇用したほどのペースで新規求人を新たに増やし続けてはいないようである。これは賃金上昇圧力にはマイナスの材料だ。
Figure 1. 米国:新規求人数と新規採用数の推移(サンプルの米企業) 2016年1月1日から2018年12月29日(20日移動平均の前年比変化率)
雇用に関するわれわれの主要なデータソースは、3万社に及ぶ米国企業の人事ウェブサイトに掲載される求人情報である。企業が求人広告をウェブサイトに掲載した時点でわれわれはそれを新規の「求人」とカウントし、掲載が取り下げされた時点で求人が「埋まった」=「採用」された、と判断している。新たな求人は企業側の労働需要の増加を意味し、雇用の伸びの先行指標となる。また、これら新規求人データの総数は、DeepMacro「成長ファクター」によって計測される景気サイクルの全般的な強さなどの他の変数と合わせて分析することで、毎月のNFPに対する説明力を持つことがわかってきている。
短期のリスクヘッジ戦略:ドル高、金利上昇へバイアス
先月、DeepMacroのコンセンサスを上回るとしたNFPの予測は当たらなかったが、短期モデルは市場の動きを正しく予測した。雇用統計から5日後、金利とドルは上昇し、S&P500は下落した。今月もDeepMacro予測はコンセンサスを上回っており、短期モデルが推奨する取引内容は、金利の売り、米ドルの買い、S&P500の売りとなる。
ここ数ヶ月のこの戦略の結果は、米国経済が景気サイクルの後期にある、というわれわれのこれまでの見方が正しいことを示している。景気サイクルの後期では、経済にとっての良いニュースはリスク資産にとって悪いニュースとなる。DeepMacroのNFP予測はこれまでコンセンサスを上回ることが多かったが、われわれの戦略が予測した通り、株式は雇用統計発表後に軒並み下落してきた。年の半ばまでに、米国経済は、強い成長がもたらす(金利上昇による)マイナスの影響が、強い成長がもたらす(利益上昇による)プラスの影響を上回る段階に達していたのだ。
今月、われわれの既存の中期のポジションは、短期のリスクヘッジ戦略が提案するのと同じ方向性であり、これを維持することとする。FXに関してはすでにかなりドルロングのポジションとなっており、短期金利モデルも12月は売りのポジションを継続している。最後に株式に関しても、株式はアンダーウェイトとなっている。DeepMacroのグローバルリスクインデックス(グローバルなリスクの度合いを表す指標)は上昇しており、成長はかなり強いものの減速しつつあることから、株式の比重は減らしておきたい。
広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト
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