「東大読書」の5つのステップ
1.仮説作り
読み始める前に準備をするかしないかで、読み方の精度は大きく変わってくる。ここで必要な準備は2つ。本の装丁から内容を推測する「装丁読み」と、その本から何を学ぶのか目的を明確にする「仮説作り」だ。
まず「装丁読み」では、本のタイトルや、カバー・帯に書かれた文言から、本の内容を示唆する情報を抜き出し、付箋に1枚ずつ書き出していく。それを本の見返しに貼っておき、読書中も頻繁に見直すことで、本の内容を理解するためのヒントとして活用することができる。
「仮説作り」には4つのステップがある。①「その本を読んで何を得たいのか」という目標を設定する。②目次を見ながら、どの章を読めば目標を達成できそうか、目標までの道筋をイメージする。③読む前の自分の状況(その分野やテーマに関する理解度など)を認識する。①~③については、一つずつ付箋に書いて本の見返しに貼る。④実際に読み進めながら、仮説とのズレが生じたら、その都度修正する。このように「ゴール地点」「目標までの道筋」「スタート地点」を設定することで、読書の効果を高めることができる。
2.取材読み
文字面を漠然と追うだけの読み方ではなく、記者になったつもりで質問を投げかけたり、「なるほど」と心の中で納得したり、不明点は取材でとことん解明するくらいの気持ちで読むのが「取材読み」だ。
まずは「記者の姿勢」を意識しよう。記者が取材対象に前のめりで話を聞くように、本に対して前のめり気味で読むのが記者の姿勢だ。「寝そべりながら読むのをやめて、姿勢を正すだけでも読書の効果は倍増する」と西岡氏。
そして、本を読むときには、書かれた情報を鵜呑みにせず、「なぜそう言えるの?」「その根拠は何?」と質問を投げかけながら読み進めていく。質問への回答を自分で探すというプロセスを経ることで、理解が深まっていくという。最も簡単な質問の見つけ方は、著者からの問いかけを探すことだ。「たとえば、『なぜこのような傾向があるのでしょうか?』と書かれていれば、それが質問です。素通りせず、しっかりと意識に引っ掛ければ、そのあとに続く回答から能動的な学びが得られるはずです」(西岡氏)。
3.整理読み
本の内容を正しく理解できているかどうかは、「要するにこの本は何が言いたいのか」をひと言で表現できるかどうかで判別できる。「もし、ひと言で言い表せなければ、わかった気になっているだけで、わかっていないのと同じです」と西岡氏。ひと言で言い表すためには、本の内容を整理して理解する必要がある。そのための読み方が、「整理読み」だ。
整理読みの最初のステップは、「著者が最も伝えたいこと」が表現された「要約的な1文」を探しながら読むことだ。「要約的な1文は、文章の『最初』と『最後』に置かれていることが多いので、この2箇所に注意して読んでみてください」と西岡氏はアドバイスする。
要約を意識しながら読むことに慣れてくると、次の展開を推測できるようになるという。実際に自分の推測がどれくらい正しかったのか、確認しながら読み進めてみるとよいだろう。このように要約と推測を繰り返し、情報を整理しながら読み進めていけば、「著者が伝えたいこと」を外さず理解できるようになるというわけだ。
4.検証読み
本は1冊ずつ読むよりも、同じ分野で複数の本を同時並行で読むほうが「主体的に読む」ことができるという。なぜなら、1冊の読書では、そこに書かれた内容を素直に受け入れてしまいがちだが、複数の本から多角的な視点を手に入れることで、自分なりに考えながら読み進めていくことができるからだ。
複数の本を同時並行に読む「検証読み」は、「実は私たちが普段から実践している読み方です」と西岡氏。たとえば、難解な言葉を辞書で調べながら読む、あるいは入門書を片手に専門書を読む。これらも検証読みだという。こう考えると、検証読みを難しく考える必要はなさそうだ。
ここでのキーワードは、「パラレル読み」と「クロス読み」だ。「パラレル読み」は、同じ分野について異なる切り口で書かれた2冊の本を選び、共通点と相違点を探しながら読んでいく。それぞれの解釈の違いの原因を探ることで、多面的な思考が身につくという。その応用編が「クロス読み」で、複数の本を読みながら「同じ事柄を論じていて、議論が分かれる論点」を探す読み方だ。「この本ではこう論じていたけれど、別の本ではこう論じていた」と検証しながら読み進めることで、読解力が上がり、思考の幅も広がるという。
5.議論読み
最後に、読書でインプットした情報を「アウトプット」してこそ、読んだ内容が自分のものになり、知識として活用される。読み終わった後のアウトプットを意識した読み方が、「議論読み」だ。「議論といっても、難しく考える必要はありません。読後に感想を言い合うのも、立派なアウトプットです」と西岡氏。「良かった」「悪かった」という感想だけでなく、読んだ内容をかみ砕いて理解し、それに対して自分はどう考えるかを表現してみよう。そうすることで、より理解が深まり、本の内容が記憶に残るという。
もう一つ、西岡氏が勧めるのは、本を読む前に立てた「仮説」の答え合わせだ。「その本を読んで何を得たいのか」の目標は達成できたのか、目標までの道筋は正しかったか、を確認するのだ。目標が達成されなかったのなら、目標達成のために次に読むべき本を考える。目標が達成されたのなら、次の新しい目標を設定する。これらのアウトプットを行なうことで、読みっぱなしにしないことが大切だ。
西岡壱誠(にしおか・いっせい)現役東大生/ビジネス書作家
1996年、北海道生まれ。元偏差値35だったが、「『読む力』と『地頭力』を身につける読み方」を実践した結果、みるみる成績が向上し東大に合格。現在、東京大学3年生。1973年創刊の学内書評誌「ひろば」編集長。人気漫画『ドラゴン桜2』(講談社)に情報提供を行なう。「ドラゴン桜2 東大生チーム『東龍門』」のプロジェクトリーダーを務める。著書に、ベストセラー『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく東大読書』(東洋経済新報社)などがある。(『THE21オンライン』2018年10月号より)
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