仲間が成長を支え合い、長く働ける組織を目指す
二つ目の経営理念には、「人を大切にする組織にしたい」という北野氏の想いが込められている。
「会社が成長する過程でぶつかる様々な困難を乗り越えるには、一緒に働く人たちの知恵を結集させることが必要です。普段から良好な人間関係を築いていないと、いざというときに、チームとして危機に対応できません。『共に働く仲間がお互いの成長を支え合いながら、生涯働き続けられる環境を作りましょう』というメッセージを、この経営理念に込めました」
経営理念にある言葉は、職場作りや教育制度にもしっかりと反映されている。
「当社には、挫折を経て転職してきたスタイリストが少なくありません。
パーマ液やカラー液が体質に合わず、ひどい手荒れに悩まされた。トークに自信がなかったり、年齢が上がったりしたことで、指名が取れなくなった。修業期間が長すぎて、なかなかカットを担当させてもらえず、モチベーションが低下してしまった。こうした人たちは、高い技術や『お客様を喜ばせたい』という想いがあるにもかかわらず、従来の美容業界では活躍の場が限られ、美容室を辞めざるを得なくなる。これは非常にもったいない。我々は、そんな人たちの再チャレンジの場になりたい。
だから、パーマやカラーなどのメニューを加えたり、指名制を取り入れたりすることは、絶対にありません。長期の修業を積まなくても店に出てお客様のカットができるよう、6カ月間で必要な技術を習得できる独自の研修制度も実施しています。そうすることで、スタイリストたちは、安心して長く働ける。
当社には定年がないので、現在は20歳から80歳まで、幅広い年代の人たちが正社員として働いています」
社員が「体感」すれば、理念は自然と浸透する
このように、経営理念が単なるお題目ではなく、具体的な施策に落とし込まれていることが、同社の大きな成長要因となっている。近年は海外事業も拡大し、香港、シンガポール、台湾、ニューヨークで、すでに110店舗超を展開している。
「海外と日本の社員が交流する場も積極的に設けています。社員たちがカット技術を競い合うイベント『カットコンテスト』もその一つ。日本の社員が優勝して喜ぶ姿を見ると、海外の社員たちも刺激されて一生懸命練習するし、海外の社員が優勝すると、今度は日本の社員たちが触発される。
こうした機会を通じて、『仲間同士で成長を支え合い、お客様から必要とされる組織を目指す』という経営理念を社員自らが体感すれば、そこに込めた想いは組織の中に自然と浸透していきます。
そもそも経営理念とは、社員に上から押しつけるのではなく、経営者が社員以上に強く意識すべきものではないでしょうか。社長の判断や言動が、社員から見て経営理念からズレていたら、すべてが台無しになります。
私も常に経営理念を噛み締め、自分が立ち戻るべきものとしています」
北野泰男(きたの・やすお)キュービーネットホールディングス〔株〕代表取締役社長
1969年、大阪府生まれ。大阪外語大学卒業後、〔株〕日本債券信用金庫(現・〔株〕あおぞら銀行)入行。2005年、キュービーネット〔株〕に入社。09年、代表取締役社長に就任。《取材・構成:塚田有香写真撮影:永井浩》(『THE21オンライン』2018年10月号より)
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