2018年7月に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立し、同年7月13日に公布されました。民法のうち相続法に関する改正が行われたのですが、その改正の中の一つで、自筆証書遺言についての見直しが行われました。今回はこの内容がどのようなものなのか、どのようなメリット・注意点があるのかをお伝えしていきます。
自筆証書遺言は作成が難しかった
「自筆証書遺言」という言葉を聞いた時に、どのようなことをイメージするでしょうか?「費用がかからない」「書くのが面倒くさい」「何を書けば良いのかわからない」‥‥。色々なイメージをお持ちになると思います。公正証書のように作成に費用や証人が不要というメリットがありますが、反面、記載内容に不備等がある場合には、その効力が無効になったり、遺された相続人間でのトラブルのもとになったりしかねません。
自筆証書遺言は日付、署名、捺印があることが有効条件です。例えば、日付を「平成30年12月吉日」と記入した場合には日付が特定できないなので無効となってしまいます。また、全財産について相続の方法を記載しておらず、特定の財産だけ相続人の指定をしている場合には、記載内容によっては「特別受益」に該当し、財産の持ち戻しをした上であらためて相続人間で遺産分割協議をする必要も出てきます。相続財産の種類が多い場合には財産目録の作成に手間と時間もかかってしまいます。
また、自分に不利な内容が記載されている遺言書の存在を知った相続人がいた場合、破棄をしたり改ざんしたりする可能性もあります。遺言書の存在を生前に誰にも伝えていない場合、死後に遺言書を見つけてもらえないケースも考えられます。遺言書が見つかった場合にも家庭裁判所による「検認手続き」が必要となり、手続きが終了するまでは開封ができず、内容を確認することができません。
このように、費用の面ではメリットのある自筆証書遺言も、作成の手間や実際の運用面で問題点があり、作成に二の足を踏むケースも多かったのではないかと想定できます。
どのように作成しやすくなったのか?
では今回の改正で、自筆証書遺言がどのように作成しやすくなったのでしょうか。改正点を順にお伝えしていきます。
・財産目録がパソコン等で作成できるようになる
施行日以降に作成された自筆証書遺言に添付する財産目録は、必ずしも自筆である必要はなく、パソコンで作成されたものでも認められるようになります。また、預金通帳や不動産の登記簿謄本等のコピーを財産目録として添付することも可能となります。このような自筆でない財産目録については、全ページに自署・押印が必要となりますが、自筆で全ての財産について記載する手間が無くなります。特に不動産については地番等の記載事項が細かい場合も多く、間違って記載してしまうミスを無くすこともできます。
・自筆証書遺言の保管制度が新設される
また従来は、作成した自筆証書遺言は自宅や貸金庫等、自身で保管するしかありませんでしたが、改正後は「遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所の遺言書保管官」、つまり作成する人が住んでいる場所か本籍地、あるいは所有している不動産がある場所を管轄している法務局に保管を申請することができるようになります。
これで破棄・改ざんの心配もなくなりますし、改正後は相続発生後に相続人等が法務局に、遺言書が保管されているかどうかを確認する「遺言書保管事実証明書」交付の申請や、遺言書の閲覧請求をすることで、遺言書の存在の有無や内容を確認することができます。また、法務局に保管している場合は、従来必要だった家庭裁判所による検認手続きも不要となります。
改正後の注意点
このように改正後は、自筆証書遺言の作成・保管の面で改善がなされ、現状よりも利用する人が増えることが考えられます。ただし従来からある問題点も残っていますので、その部分には注意が必要です。
法務局に保管を申請する場合には、「法務省令で定める様式」に従って作成をすれば保管をしてくれますが、遺言書の記載内容まで確認はしてくれません。特定の相続人に有利な内容となっていないか、またそれによって他の相続人の遺留分を侵害していないか、等ということは作成者自身が確認・判断をして作成することは従来と変わりありません。
また公正証書遺言の場合、証人2人の立会いの下で作成されますので、遺言の有効性について争われることはほとんどありませんが、自筆証書遺言の場合、遺言の有効性が争われるケースもあります。
これらの点は改正後も問題となるケースが考えられます。せっかく作成した遺言書も、その内容がもとで家族が揉めることになってしまっては本末転倒なので、改正後に自筆証書遺言を作成する場合にも、専門家に相談をした上で、遺産分割の内容を検討したほうが賢明だといえます。(提供:相続MEMO)
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