2019年のノーベル経済学賞は、貧しい人を助けるために必要な政策を研究した米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)の教授夫妻とハーバード大学の教授の計3人が受賞。証拠に基づく政策提言の有効性を示しました。女性の受賞という点にも注目が集まっています。

2019年の経済学賞、何が評価された?

夫婦,ノーベル賞
(画像=superjoseph/Shutterstock.com)

スウェーデン王立科学アカデミーはMIT教授のアビジット・バナジー氏とエスター・デュフロ氏、ハーバード大学教授のマイケル・クレマー氏の3人に2019年ノーベル経済学賞を贈りました。授賞理由は「受賞者による研究が、世界の貧困問題と戦う我々の能力を大幅に高めた」ことです。途上国の貧困や経済発展を扱う「開発経済学」が3氏の実験ベースのアプローチでこの20年間で大きく変化したことが評価されました。開発経済学ではフィールドワークが盛んに行われるようになっています。

低所得者は7億人超、子どもの半数は満足な教育を受けられず

現代社会において人々の暮らしは大きく改善されてきましたが、それでも世界の貧困削減が最も喫緊の課題の一つです。アカデミーによれば極めて低水準の所得者は世界で7億人以上に上ります。毎年5歳未満の子ども約500万人が比較的安価に予防や治療が可能な病気であるにもかかわらず死んでしまっているのです。

また世界の子どもの半数は基礎的な読み書きや計算能力を習得できないまま学校教育を終えていることが分かりました。

受賞者が変えた開発経済学のアプローチ

2019年のノーベル経済学賞受賞者は、こうした問題に立ち向かうのに新たなアプローチを採用しました。大きな問題をより小さく管理可能な問題へと分解して確かな答えを得ようとしたのです。例えば貧困の解決に向けて「教育の成果や子どもの健康状態を改善する最も効果的な介入方法は何か」といった個別具体的な課題の設定をしていく方法です。

こうした課題への答えを見出そうと実際に苦しんでいる人々の間に入り注意深く計画を練って多くの実験を行ったのです。マイケル・クレマー氏は1990年代中ごろにケニア西部で学校の成績向上に向けたフィールドワークを行いました。アビジット・バナジー氏とエスター・デュフロ氏は、他の課題で同じような実験をし、また他国でも実験を進めました。両氏の研究方法は現在、開発経済学の主流となっています。

このような成果が実り例えばインドの子ども500万人以上が学校での補習指導で効果的なプログラムを受けられるようになりました。また疾病予防への手厚い補助金政策が多くの国々で導入されるようになっています。こうした取り組みがさらに広がり貧困にあえぐ人々の生活がさらに改善されていくことが期待されるでしょう。

生い立ち、結婚も

バナジー氏は1961年にインド、ムンバイで生まれ1988年に米ハーバード大学で博士号を取得しました。一方、デュフロ氏は1972年にフランス・パリで生まれ1999年にMITで博士号を取得。両氏とも現在、MITで経済学の教授を務めています。英BBCによれば両氏は世界で最も貧しい人々のために市場や機構はどのように機能するのかを研究するため、2003年にMITに研究所を一緒に立ち上げました。

また長年共に仕事をする中で2015年に結婚。デュフロ氏はノーベル経済学賞を受賞した2人目の女性となり、また46歳での受賞は同賞最年少受賞者ともなり注目を集めました。マイケル・クレマー氏は1964年にニューヨークで生まれ1992年にハーバード大学で博士号を取得。現在も同大学で教授として教鞭をとります。

賞金1億円の分配は?

ノーベル賞受賞者には賞金900万スウェーデンクローナ(約1億円)が送られます。今回は3人の受賞者で等分されるのでバナジー・デュフロ夫妻は計600万スウェーデンクローナを受け取ることになります。世界の貧困削減に向けた多大な貢献をした3氏は、こうした賞金を受け取るにふさわしい活躍をしてきたことは誰もが認めるところでしょう。

日本人の開発経済学者

日本人でも開発途上国のフィールドワークを実践してきている経済学者は存在します。例えば2012年に亡くなった速水佑次郎氏は、長期にわたりフィリピンなどアジア諸国の農村調査へ行ってきたアジアを代表する経済学者の一人でした。また現在アジア開発銀行のチーフエコノミストを務める東京大学大学院経済学研究科教授の澤田康幸氏も数多くのフィールドスタディーに携わっています。

今後も途上国の発展に向けこのようなアプローチが進み人々の暮らし向きが改善されていくことが期待されます。将来、自然科学分野と同様に経済学の分野でも日本からノーベル経済学賞受賞者が登場する日が来るかもしれません。(提供:JPRIME


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