恒常的に残業があります。上から「残業を減らせ」と指示が来ましたが、業務に支障をきたしそうです。成果を維持する残業をどうお考えでしょうか?

あなたの抱える悩みは、今、ありとあらゆる現場で起こっていることです。上と下との板挟みになっている状況、お察しします。

本題に入る前に、残業と成果の関係についてお話しします。

成果には「短期的成果」と「長期的成果」があり、残業は「短期的成果」を得るための緊急手段です。

つまり「恒常的な残業」は決して「長期的成果を得るためのもの」ではなく「切羽詰まった短期的成果を出すためのイレギュラーなもの」にすぎないのです。そのような働き方・働かせ方を続けていると、確実にチームは潰れます。メンバーの疲労感が増して効率が落ちるか、過労やメンタルを病んで倒れるメンバーが出るかのいずれかでしょう。

「無駄な仕事」を減らす

私がコンサルティングに入っている金融機関も、かつては恒常的な残業によって業績を維持し続けていました。これはいけない。現場を見た私は改革するために、次の3つの目標を達成しながら、かつ業績を維持しようと呼びかけました。

①メンタル不調者の低減
②離職率の低減
③残業の低減

業績を堅持しながら①~③を達成する。「そんなことは無理だ」と思われるかもしれませんが、決して不可能なことではありません。

現にこの金融機関は今、見事に両立しています。「業績を維持するためには、少々無理な働き方でも我慢しなければならない」「業績を維持するためには、残業が増えるのも仕方ない」という固定観念は捨てましょう。

「業績を維持しつつ、負担を減らす」働き方をこの金融機関が実現できたのは、「無駄な仕事」を徹底して減らしたからです。

「職場には4割の無駄がある」といわれます。

無駄な報告、意味のない会議、必要以上の文書作成、非効率な働き方……。重要事項の実行を妨げる最大の原因は、日々、竜巻のように吹き荒れる無駄な日常業務にあります。これらの無駄をすべて省くことができれば、「これまでの6割の力」で「これまでどおりの業績」を維持することができます。

「誰も読んでいない資料」があった

例をひとつ挙げましょう。

この金融機関の営業サポートチームは、毎日夜遅くまで、営業マンが営業活動を円滑に進められるよう綿密な資料をつくっていました。

チームリーダーは「削減できる無駄」がないかを探るため、メンバーに問いかけました。

「何のためにその資料をつくっているの?」

メンバーは答えます。

「営業マンたちが効果的に営業できるようにするためです」

チームリーダーはさらに問いかけます。

「本当に営業マンの役に立っているのかな?」 「立っている……と思います。たぶん」 「役に立っている確証がないのは不安だね。営業マンに直接、確認してみようよ

いざ確認してみると、結果は散々なものでした。

毎月配られる、営業サポートチームによる50ページの資料。配られた後は、営業マンの机の書類の山の中に埋もれていたり、読まれることのないまま引き出しの底にしまわれたりしていることがほとんどだったのです。

もちろん、資料を読んでいる営業マンもいました。

しかしそんな彼も、「50ページ全部は毎日読んでいないけど、この3ページだけはとても役に立っている」と答えます。

50ページの資料が8ページに!

毎日の努力は何だったのか……と悲しくなりますが、「無駄を発見できてよかった」ととらえることもできます。

その後、営業サポートチームは「営業マンが本当に役立てている3ページ」をもとに、よりわかりやすい資料をつくることにしました。

完成した資料は8ページ。50ページの資料作成が、たったの8ページまで減ったのです。負担は50分の8に減り、営業サポートチームの残業はなくなりました。

仕事で結果を出すために必要な「プロセス」。「プロセス」に紐づかない仕事はすべて、無駄です。

あなたの職場に、結果を出すためのどんなプロセスにも紐づかず、ただ昔からの慣例や思いつきでなんとなく行われている仕事はないでしょうか。ルーティーンで行われている業務は、すべて「プロセス」に紐づいたものでしょうか。

そうした仕事をあぶり出すことが、成果を維持したまま残業を減らすための第一歩です。

1万人のリーダーが悩んでいること
浅井 浩一
1958年生まれ。大学卒業後、JT(日本たばこ産業)に就職。「勤務地域限定」の地方採用として入社。日本一小さな工場勤務での、きめ細かなコミュニケーションを通じた働きぶりを買われ、本社勤務に。職場再建のプロと称され、次々と任された組織を活性化させ、歴代最年少の支店長に大抜擢。2001年より自らも現場でマネジメントを行いながら、公益財団法人日本生産性本部・経営アカデミーなどのビジネススクールで多くの企業幹部、管理職、リーダーを指導。これまで指導してきたリーダーの数は1万人を超え、お互いを信頼し助け合える組織作りを信条とし、「意識と行動を変える超実践派」の第一人者として高い評価を得ている。著書に『はじめてリーダーになる君へ』(ダイヤモンド社)、『目標を「達成するリーダー」と「達成しないリーダー」の習慣』(明日香出版社)がある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます