新型肺炎コロナウイルス「COVID-19」 の感染拡大は、株式市場に打撃を与え、米国債利回りを記録的な低水準に押し下げただけでなく、市場と米国経済の見通しを変化させている。
株式市場の調整は景気後退の可能性を高める
米金融大手ゴールドマン・サックスは2月27日、2020年通期のS&P500種利益見通しをゼロに修正した。「中国の経済活動の深刻な落ち込み」が、米国の輸出需要の低下やサプライチェーンの混乱につながり、さらには米国経済の減速という「事業の不確実性を高める」と見込んでいる。
これは同社にとって最悪のシナリオではない。同社は「新しい利益見通しの基準では、新型肺炎のS&P500種の1株当たり利益(EPS)への影響は最終的に短期的なものと想定している」という。
ゴールドマン・サックスの米国株ストラテジスト、デビッド・コスティン氏は、そうでなければ、米国の国内総生産(GDP)成長率はさらに鈍化し、1株当たり利益は前年比で20%も急落する可能性があると指摘した。
S&P500種は2月27日に4.4%安で引け、前週の最高値から10%以上下げ、調整局面に入った。ダウ工業株30種平均は同日4.4%下落し、約2週間前の最高値から12.8%下落した。
マネーマネジャー兼エコノミストのゲリー・シリング氏は、ThinkAdvisorに対し、株式市場の調整はすでに減速している米国経済を押し下げ、リセッション (景気後退) の可能性を高めると述べた。同氏は、2008年の世界同時不況をもたらした住宅バブルや1973~74年のリセッションに先立つ世界的な過剰在庫を正確に予測していた。
シリング氏は、「今後2、3カ月は、世界的な経済活動のかなりの後退を示唆するだろう。新型肺炎は抑制されるのだろうか。それとも景気後退の引き金となるのだろうか。世界はすでに非常に緩やかに成長しており、不況に陥るのはそれほど難しくない」と語った。
同氏は、昨年の大部分はリセッションを予想していたが、米連邦準備制度理事会 (FRB) が利上げするような景気の行き過ぎなど、通常の誘引が欠けていたため、2019年後半には予想を和らげていた。
現在は米国の消費者を注視しており、「米国と世界の舞台で唯一の強さの源泉である米消費者に決定的な弱さが見られれば、世界経済の終わりだ」と述べた。
シリング氏は、「世界的な混乱の海の中の安全な避難所」として、長い年限の米国債や株式市場では生活必需品や公益事業などディフェンシブ銘柄をを選好している。
米国債利回りは、10年物と30年物がいずれも過去最低を記録した。10年物と3か月物の利回り曲線は逆転しており、エコノミストの間では、リセッションの予兆との見方がある。一方、米国債利回りは、2年物と10年物では逆転していない。
Nuveen社グローバル債券チームのポートフォリオマネージャーであるスティーブ・リベラトーレ氏は、今年は景気が減速するだけでリセッションが起こるかどうか不透明だが、「債券利回りは低下を続けると考えるのが妥当」と言う。
新型肺炎の報道前は、「債券が高過ぎる。利回り格差は小さすぎる」と指摘していたが、「今では新型肺炎の影響が分からないため、乗数効果は不透明だ」と述べた。
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