新型コロナウイルスの感染拡大で、私たちの暮らしは大きく変容しました。筆者の周りでも在宅勤務をする人が増えており、いまやWeb会議システムで打ち合わせをするのが普通になりつつあります。店頭ではマスクや消毒用エタノールの欠品が続き、トイレットペーパー、カップラーメンなど様々な日用品が「一時的に」消える場面も見られました。それまで当たり前と思われていたことが、当たり前ではなくなりつつあります。

これまでの出来事を冷静に振り返ってみましょう。前述の通り、ドラッグストアやスーパーマーケット等では様々な日用品が消える場面が見られました。マスクや消毒用エタノールは未だに欠品が続いていますが、トイレットペーパーのようにSNS等で拡散したデマに踊らされて「一時的に」品薄となった商品もあります。また、東京都の「週末の外出自粛要請」を受けてカップラーメンやパスタなど保存の効きそうな食品が飛ぶように売れる場面も見られました。その日、筆者はいつものようにスーパーマーケットに出かけたのですが、入場制限がかかるほどの長蛇の列となっていました。

人間はパニックになると同じような行動をとるものなのでしょうか? アメリカやフランス、イタリア、イギリスなど世界各国でも似たような行動が観測されているのですが、実はこの現象は行動経済学の『ゲーム理論』で解き明かすことが可能です。そして、それは私たち一人ひとりが「日本の未来」のためにどう行動すべきかを示唆しているように思います。

今回は、新型コロナ危機の「1億2000万人のジレンマ」と題してお届けしましょう。

囚人のジレンマ…あなたならどうする?

(画像= VectorMine / shutterstock, ZUU online)

まず、下記の問題をみてください。もし、あなたなら以下の三択からどれを選ぶでしょうか?

【問題】あなたと友人の2人は、ある事件の容疑者として別々の部屋で取り調べを受けています。「お前がやったんだな!」そう怒鳴りながら取調官が机を叩きます。そして数時間後、取調官はおもむろに以下の司法取引を提案しました。

(1)「自白をして罪を先に認めれば、お前は執行猶予付きの1年の刑になるが、友人は懲役10年になる」
(2)「自白をしない場合、お前ら2人は別の罪で懲役2年になる」
(3)「お前も友人も自白した場合は、2人とも懲役5年になる」

上記は1950年に数学者のアルバート・タッカー氏が考案した「囚人のジレンマ」と呼ばれる、『ゲーム理論』のモデルの一つです。

友人にも同じ条件が提示されています。あなたと友人は強い絆で結ばれており(2人とも)黙秘を貫き通せば懲役2年ですみます。でも、ここで少しでも友人のことを「不安」に思ってしまうとどうでしょうか? もし、友人が (1) を選択すれば、あなたは懲役10年になってしまいます。

あなたが自白すれば執行猶予が付きます。少しでも刑を軽くしたいとの思いから、あなたは自白してしまうかも知れません。でも、友人も自白すると懲役5年になってしまいます。一覧表にすると以下のようになります。

上記は「(あなたも友人も)自分にとって一番魅力的な選択をする」とかえって悪い結果となることを意味しています。

では、同じように、もしも1億2000万人余りの日本人がそれぞれ「自分にとって一番魅力的な選択する」とどうなるでしょうか?

日本社会が直面する「1億2000万人のジレンマ」