今、事故物件を取り扱った映画が人気を博しています。恐怖を楽しむ分には歓迎される事故物件ですが、「あなたの投資物件で殺人がありましたよ」などと言われるとオーナーとしてはたまったものではありません。特に気が重いのは相続税です。投資対象がワケあり物件になったとき、相続税評価はどうなるのでしょうか。
映画「事故物件恐い間取り」は少子高齢化時代のテーマ
2020年8月末から全国の映画館で上映されている映画「事故物件恐い間取り」が注目を集めています。公開から3週間で累計観客動員が100万人を突破した模様です。鳴かず飛ばずの芸人が事故物件に住んで体験したことをネタにすることで徐々に売れていく…という内容ですが、観客の多くは「気になるけど住みたくない事故物件の怖さを体験したい」一心で観に行っているようです。エンターテイメントとしてなら歓迎される事故物件ですが、これが投資の対象となると話は変わります。
事故物件とは
そもそも事故物件とはどういったものでしょうか。一般的に、事件や事故が原因による死(殺人など)や自殺、孤独死などにより以前の入居者がその部屋で亡くなったものを指します。
例えば、ニュースにもなるほどの殺人事件が起きた物件は当面事故物件として扱われざるを得ませんが、その部屋で孤独死があっても同居の家族がいて早々に発見され、無事葬儀も行われたようなものは事故物件とは言えません。
入居者に対しては重要事項の一つとして心理的瑕疵物件であることを事前に告知すべきことが宅地建物取引業法で定められています。ただし、その説明を事件が生じてからいつまで説明すべきかについて明確な決まりはありません。
なお、本稿でお伝えするのは人間の死が絡むものをテーマとしていますが、暴力団の事務所のある物件や葬祭場や火葬場がすぐ近くにある物件も心理的瑕疵のある物件だと言われています。
今後「孤独死」は確実に増える
「殺人事件や自殺はそうそう起きないから、うちの投資物件が事故物件になるとは限らない」と思う方もいるかもしれません。確かに殺人や自殺、火災による事故死といったことが起きるのはごく稀です。しかし、孤独死は違います。少子高齢化が進み、おひとりさまの老人が増えるだろう今後、賃貸物件での孤独死は徐々に増えていく可能性は極めて高いのです。
入居者の孤独死で投資物件が事故物件になると、賃貸収入が著しく減るのは必至です。それだけではありません。相続にも影響する恐れがあるのです。
事故物件で相続税が下がることも
不労所得の得られる賃貸物件を相続できるとしても、それが事故物件なら誰も嬉しくはならないでしょう。借り手がなかなかつかず家賃収入がなかなか得られないにも関わらず、相続税は通常の評価で計算し、高い税額を納めなくてはならないのです。相続人は負の遺産を負わされた気持ちになるかもしれません。
しかし、事故物件の相続税評価額を下げられることもあります。国税庁はタックスアンサーで、おおよそ次のように回答しています。
「臭気や忌みといった取引金額に影響するような事情により、その利用価値が周辺の宅地の利用状況からみて著しく低下していると認められるのであれば、その宅地の原則的な評価額から『利用価値が下がっている面積部分の評価額×10%』を差し引くことができる」
【参考】No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価(国税庁)
つまり孤独死の発見が遅れ、死体の臭気が建物にしみついてしまった、あるいは変死や殺人、自殺が事件として有名になってしまったがためになかなか借り手や買い手がつかない物件の敷地は評価を下げることができるのです。なお、この評価減は殺人・自殺・変死が起きた物件の宅地の他、火葬場や墓地の近くの宅地も対象になります。
事故物件の評価減のポイント
ただし、事故物件だからといって何でもかんでも評価額を下げられるわけではありません。次のような判断基準があります。
利用価値が周辺に比べて著しく低下しているか
先ほどご紹介したタックスアンサーにあるように、利用価値が周辺に比べて著しく低下していることが条件です。「周辺のアパートは満室なのに、変死があった物件だけ空室が目立つ」「周辺は買い手がつくのに、この物件は事故物件であるがゆえになかなか売れない」といった事情が必要です。
路線価や倍率に織り込まれていないか
宅地は路線価方式か倍率方式で評価します。臭気や忌みによる10%減の評価を行うには、もとから路線価や倍率に利用価値の低さが織り込まれていないことが前提です。「周囲と比べてそこだけ利用価値が低い」と言えれば評価減の対象になります。仮に墓地の近くの隣の土地を相続しても、周辺が寺院や墓地ばかりならこの評価減は適用できません。
影響の継続性や事実証拠も重要
この他、変死や不審死による評価への影響に継続性があるかどうかも重要なポイントになります。例えば、人が孤独死をした、あるいは自殺をしたとしても、「発見が早かったので物件に影響はなかった」「大きなニュースにならず、時間経過とともに忘れ去られた」というのであれば、評価減は認められにくいでしょう。しかし、大きなニュースになったり発見が遅れ物件が傷んだりしたために借り手・買い手がつかないといった状態が長く続いているのであれば、評価減が認められる可能性があります。また、このような事実を証明するには賃貸借の状況や過去の判例といった客観的な証拠も重要になります。
国交省でも事故物件を今後重視する模様
現時点では、「人が孤独死・変死した物件だから必ず評価減が認められる」とは言えません。事故物件とすべき心理的瑕疵は「土地の形がいびつ」「一部ががけになっていて使いにくい」といった土地と違って主観的な要素が強いからです。
しかし今後高齢者の孤独死が急増するのは必至です。この状況を受けてか、2020年2月5日、国土交通省が心理的瑕疵のある物件に関するガイドラインを策定すべく検討会を行いました。この検討会の実施は、国としても心理的瑕疵物件を看過するわけにはいかないと考えている証左です。そう遠くない将来、事故物件の評価に関する制度が設けられる可能性があります。(提供:YANUSY)
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