ネット証券の口座は一人でいくつも開設可能だが、複数の口座を作る前にメリット・デメリットを十分に理解したうえで口座を開設したほうがいい。ネット証券で複数口座を持っていることによって、知らない間に損をする可能性もあるからだ。自分の投資スタイルと照らし合わせて考えてほしい。
1,複数のネット証券口座を作る3つのメリット――IPO当選確率が上がることも
ネット証券の口座を複数開設することには、いくつかのメリットがある。そのメリットは各証券会社の長所を同時に享受できることや、システムトラブルなどの面で主に発揮される。
メリット1,ネット証券各社の強みを最大限に活用できる
ネット証券では各社が独自のサービスを展開しているところが多くそれぞれに強みがある。例えば取引手数料が安いネット証券もあれば、四季報や日経新聞が無料で閲覧できる、ポイントが付与される、取引ツールが優れているなどがある。
そのため複数のネット証券に口座を開設していれば、取引手数料を抑えたい場合はこのネット証券、情報を得たい場合にはこのネット証券、取引ツールが使いやすいところはこのネット証券といった具合に、ネット証券各社の強みによって使い分けられるのだ。
メリット2,システムトラブルに強い
ネット証券に複数口座を所有することでシステムトラブルにも強くなる。まれにネット証券でシステムトラブルが発生してログインや売買ができなくなる場合がある。ネット証券に複数の口座を持っていればシステムトラブルが起きていない他のネット証券で売買ができる。
メリット3,IPOの当選確率が上がる
複数の口座を持っているとIPOの当選確率も上がる。IPOの抽選は複数のネット証券で同時に申し込むことができるからだ。抽選もそれぞれのネット証券毎で実施されるため、より多くのネット証券で抽選に申し込めばそのぶん確率が上がる。運が良ければ複数のネット証券でIPOの当選も可能だ。
2,ネット証券大手5社の特徴を比較――複数口座を検討する前に確認したい各社の特徴
各証券会社の長所を同時に享受できることがメリットの1つだが、具体的にどんな長所があるのだろうか? 詳しく見ていこう。
SBI証券の特徴――個人投資家のIPO当選確率は証券業界No.1
ネット証券最大手のSBIの強みは、IPO取扱銘柄数と国内現物株式や米国株の取引手数料が業界最安水準であることだ。
2019年1~12月のIPO件数87件(REIT除く)のうち、SBI証券が取り扱ったIPOは82件と関与率は94.3%、証券業界全体で第1位だった。
楽天証券の特徴――豊富な情報量が自慢の「マーケットスピード」
ネット証券業界で楽天証券は、口座開設数や預かり資産残高などにおいてSBI証券に次ぐ規模を誇る。
国内現物株式や米国株の取引手数料は、SBI証券と並んで業界最安水準だ。
特徴的なのは、楽天証券のトレーディングツール「マーケットスピード」の機能性の高さと情報量の豊富さである。また、楽天グループの共通ポイントである「楽天ポイント」を使えることも大きなメリットと言えるだろう。取引で貯めたり、投資に使ったりできるので便利だ。
マネックス証券の特徴――米国株のメインストリーム
マネックス証券は1999年の創業以来、ネット証券の中でも夜間取引や貸株サービスなど、独自性と先進性のあるサービスを提供してきた。現在マネックス証券の代名詞となっているサービスは、米国株取引である。米国個別銘柄取扱銘柄数は3,328件(2020年4月1日現在)で、ネット証券の中ではダントツの第1位だ。
米国株国内取引手数料はネット証券最安水準、さらに米国株買付時の為替手数料無料キャンペーンも行っており、米国株取引には欠かせないネット証券と言えるだろう。
松井証券の特徴――トップレベルの「わかりやすさ」
創業100年を超える老舗証券会社でありながら、本格的インターネット取引や定額手数料体系、無期限信用取引などのサービスを証券業界でいち早く取り入れてきた。
松井証券の強みは、従来型のセールスを否定して、顧客中心主義の企業理念のもと、顧客サポートを徹底していることだ。わかりやすく見やすいWEBサイト、シンプルな料金体系などが魅力。50歳以上の顧客が全体の4割を超えているのも特徴である。
SMBC日興証券の特徴――IPOの主幹事数トップクラス
SMBC日興証券は、野村證券、大和証券と並ぶ日本三大証券の1つだ。
IPOの取扱いでは2019年の実績が61件、さらにそのうち主幹事引受数が20件と、IPO投資をするなら必ず口座を持っておきたい証券会社の1つだろう。
またSMBC日興証券では「FROGGY (フロッギー) 」という100円から株が買える少額投資向けのサービスも提供している。dポイントを使って株を買うことができるので、株式取引を試してみたい初心者にはFROGGYもおすすめだ。
DMM.com証券の特徴――国内株も米国株も手数料が安い
DMM.com証券の最大の特徴は、その各種手数料の安さだ。国内株でもトップクラスに安いが、米国株では取引手数料が無料と他の証券会社には無い強みを持っている。 他社と比較すると取扱商品に物足りなさはあるが、他の証券会社と組みあわせて使うならその点も気にならないだろう。
3,おすすめの組み合わせ4パターンを紹介 外国株投資、手数料、IPO目当てで2口座持つなら?
ネット証券のツートップであるSBI証券または楽天証券ですでに口座を開設している投資家が、ネット証券でもう1つ口座を開設するなら、どこがいいだろうか。
投資家それぞれのニーズに合わせて、代表的なパターンを提案しよう。
外国株投資をしてみたい→マネックス証券 or DMM.com証券
主要ネット証券5社で外国株を取り扱っているのは、SBI証券、楽天証券、マネックス証券の3社。SBI証券あるいは楽天証券でも外国株取引はできるが、とりわけ米国株取引に興味があれば、マネックス証券の口座は持っておきたい。
マネックス証券は、米国株と中国株の取扱銘柄数で他社を圧倒している。
また、米国株投資ならDMM.com証券もおすすめだ。DMM.com証券は取扱銘柄数はマネックス証券やSBI証券に劣るものの、米国株の取引手数料が無料という強みを持つ。
SBI証券やマネックス証券と組み合わせるにはうってつけの証券会社と言えるだろう。
とにかく手数料を安くしたい→松井証券 or auカブコム証券
取引手数料が業界最安水準のSBI証券と楽天証券に次いで、手数料の安さが際立つのが松井証券。手数料体系は1日定額料金だけだが、国内現物株式の1日の約定代金合計額が50万円以下なら手数料は0円だ。少額取引が多いなら、松井証券は外せない。
auカブコム証券は、手数料無料のETFが豊富だ。さらに「シニア割」や「NISA割」、「auで株式割」などの手数料割引サービスも充実しているので、手数料を抑えたい人には役立つネット証券と言えるだろう。
IPOに挑戦したい→マネックス証券 or SMBC日興証券
IPOに挑戦するなら、SBI証券の口座は必ず持っておきたい。楽天証券の口座を持っている人でも、IPOに挑戦したければ、IPO取扱銘柄数証券業界第1位のSBI証券にも口座を開設しておこう。
さらにIPO当選確率を上げたい場合は、SMBC日興証券とマネックス証券の口座もあるといい。SMBC日興証券とマネックス証券は、IPO取扱実績数がネット証券ではSBI証券に次いで多い。さらにマネックス証券に配分されたIPO株は、すべてが一般投資家向けの抽選に充てられるため、当選確率が高い。
またauカブコム証券では、同じ金融グループの三菱UFJモルガン・スタンレー証券が引き受けるIPO株が優先的に販売される。IPOの抽選回数を増やしたい人は、auカブコム証券も加えるといいだろう。
1株単位で少額投資をしたい→SBIネオモバイル証券 or LINE証券
通常日本の株式は100株単位での売買しかできないが、一部の証券会社ではミニ株(単元未満株)と呼ばれる、1株単位での取引ができるサービスも提供している。
有名企業の株でも数千円程度から投資でき、分散投資をしやすいのがミニ株の魅力だ。
SBI証券でも「S株」というミニ株サービスを提供しているが、取引手数料が55円からと割高なのがネックだ。 そこで、ミニ株投資をしたい人向けにミニ株の手数料が格安なSBIネオモバイル証券とLINE証券を紹介しよう。
SBIネオモバイル証券は、単元未満株を月に50万円までなら取引手数料無料で取引できるのが魅力だ。 月額料金が200円(税抜)かかるが、株式の売買に使えるTポイントが毎月200ポイントもらえるため、実質無料で取引し放題だ。
LINE証券は2019年にできた新しいネット証券だが、ミニ株の取引手数料が日中なら約定金額の0.05%と格安になっている。 今なら新規口座開設でもれなく現金1,000円もらえるキャンペーンや、簡単なクイズに正解するだけで3株分の購入代金をプレゼントするキャンペーンも実施しているので、この機会にLINE証券での口座開設を検討してもいいだろう。
4,複数のネット証券口座を作る6つのデメリット――税金、確定進行、アカウント管理など
ここまで複数のネット口座を開設するメリットを紹介してきたが、複数口座開設にはデメリットも存在する。
デメリット1,税金を払いすぎる可能性がある
ネット証券で複数の口座を作った場合には税金を払いすぎる可能性がある。証券会社では税金の計算の手間を省くことが可能な特定口座というものがある。特定口座では証券会社によって自動的に損益が計算される制度だ。特定口座の源泉徴収ありにすれば納税も自動的に行われる便利な口座だ。
ただ特定口座を複数の証券会社で保有していた場合には問題が起こる。例えば源泉徴収ありの特定口座をA証券とB証券で開設していたとする。A証券で年間の損失が100万円、B証券で年間の利益が100万円の場合、A、B証券での損益を通算すると利益は0円だ。しかし特定口座は一つの口座の利益のみで損益の計算が行われるため、A証券とB証券での損益は通算されず、B証券の100万円の利益に対して課税されてしまう。
デメリット2,確定申告が必要な場合がある
複数の口座を持っている場合には、税金を払いすぎないために特定口座の源泉徴収なしや、一般口座で売買する必要がある。しかしその場合には確定申告が必要となる場合がある。確定申告をすること自体に手間がかかるうえ、確定申告によっては税金や健康保険などの金額が上がる場合もあるので注意が必要だ。
デメリット3,アカウント管理が大変
ネット証券の口座の数が多くなればなるほどアカウントの数やパスワードの数も多くなる。定期的にIDやパスワードを変更することが推奨されていることもあり、アカウント数が多すぎると管理が困難となる。また引っ越しや結婚などで住所や名字が変わった場合も、口座を開設したすべてのネット証券でアカウント情報の変更手続きをする必要がある。
デメリット4,資産管理が面倒
保有している株や投資信託の時価評価は毎日目まぐるしく変わる。資産を複数の口座に分散して所有している場合では、時価評価のチェックはそれぞれの口座をチェックする必要があり面倒。
デメリット5,売買に時間がかかる場合がある
複数の口座で売買を行なう場合、それぞれのネット証券ごとにログインする必要がある。口座数が多い場合はログインの作業や売買画面への移動だけでも時間がかかり、売買のタイミングを逃してしまう可能性がある。
デメリット6,メールやお知らせなどの確認が手間
ネット証券から送られてくるメールやお知らせの確認も手間だ。複数のネット証券で口座を開設している場合には数多くのメールやお知らせが送られてくる。確認作業だけでも時間が取られ、メールやお知らせが多すぎて大切なお知らせを見落としてしまう可能性もある。
5.複数の証券口座を持つユーザーの口コミ・評判は?
実際に証券口座を複数持っているユーザーは、どんなメリットやデメリットを感じているのか。実際に開設している口座と口コミを見ていこう。
証券口座を複数持つメリット・良い所
メリットとして一番あげられたのは、「手数料と情報取得」「ポイント投資」「IPOと単元未満株」など証券会社各社の特徴をうまく使い分けることができ
A.Aさん|30代男性
営業職の会社員
開設口座:SBI+楽天
投資は短期か長期か、しっかりと分けて考えることが大切だと思います。長期積み立て投資と短期投資を同じ証券会社で運用していると、どちらにどれだけ投資するためにお金を入れているのか分からなくなります。本来だったら積み立て投資用に入れているお金を、思わず短期投資で使ってしまい、いざ積み立てしようとしたときに資金が不足しがち。証券会社を分けておくと、明確に二つの資金を分割することができるため、そのような初歩的なミスがなくなります。
M.Sさん|40代男性
会社役員
開設口座:楽天+野村
ネット証券会社と窓口のある証券会社と使い分けております。窓口のある証券会社は、具体的におすすめの株式銘柄や、投資信託の案内をしてくれますので参考になりますね。また、ネット証券は売買手数料がかなり安く済みますのと売買の手間が少なくて済むのが魅力ですね。また、投資信託購入の際の説明を聞かずに済むのが楽ちんです。
M.Mさん|40代男性
サービス業の会社役員
開設口座:楽天+SBI+日興フロッギー
楽天ポイント、dポイント、Tポイントを貯めているのですが、それぞれの有効活用を考えた時に、ポイント投資が良いのではないかと思いました。楽天ポイントをポイント投資に使える楽天証券、dポイントをポイント投資に使える日興フロッギー証券、Tポイントをポイント投資に使えるSBI証券をそれぞれ開設しました。それぞれポイントを有効に投資に使えて楽しく投資ができていると思います。
M.Hさん|50代男性
技術系事務職の会社員
開設口座:マネックス+大和+楽天
国内株式取引については、出来るだけ手数料の安いネット証券などを使っています。かなり安いので、大手証券会社は勝てません。これに対して、海外の株式を売買する際には、大手の証券会社を使っています。大手だとネット証券などではなかなか情報がでない欧州株などの取引も可能で、幅広い投資先から自分にあったものを選択できるメリットがあります。
Y.Oさん|30代男性
製造業の会社員
開設口座:SBI+野村+ライン
SBI証券と野村證券はIPOの主幹事、幹事になることが多いです。それぞれからIPOの抽選が出来るので、当選の確立が上がります。とくにSBI証券はIPOの抽選に外れてもポイントがもらえるのもうれしいです。大きく勝つIPOとは逆に、1株での売買がしやすいLINE証券では、手の届かなかった値がさ株を主に購入しています。口座ごとの特徴を活かすと、より便利になります。
M.Mさん|50代男性
営業職の会社員
開設口座:岡三にいがた+SBI
1つは地元密着型の証券会社に口座を持っていますが、その時々に流行っている投資対象や(証券会社にとっての)オススメ商品を聞かなくても進めてくれるので今何が流行っているかが肌感覚でわかり易いです。一方ネット証券は自ら情報を取りに行かなければなりませんが情報量が豊富で様々なキャンペーンも利用できます。特徴の違う証券口座を複数持つと各々の特色があり便利です。
証券口座を複数持つデメリット・気をつけたいころ
パスワードなどの管理、資金が分散してしまうことがデメリットと感じているユーザーが多いようだ。
M.Mさん|40代男性
サービス業の会社役員
開設口座:楽天+SBI+日興フロッギー
複数口座を持つことのデメリットは、それぞれの口座の管理が挙げられると思います。それぞれログインに際し、IDとパスワードが必要。わかりやすく、ということで同じID、パスワードにすることはセキュリティ上極めて危険かと思いますし、別々のものにした場合、忘れないようにしっかり管理することが必要です。それが煩わしく感じることもあるかもしれません。
M.Hさん|50代男性
技術系事務職の会社員
開設口座:マネックス+大和+楽天
管理するのが大変です。まず使っているシステムが違うので、どこに何があり、どう操作すれば何が出来るのか、慣れるのに時間がかかります。加えて、毎日の作業として行っている株価チェックをする際にも、システムを並行して起動させたうえで、それぞれの証券会社での売買利益などを見ていく必要があります。
Y.Oさん|30代男性
製造業の会社員
開設口座:SBI+野村+ライン
IPO目的でSBI証券と野村證券の口座を所有しているのですが、IPO時の資金移動の大変さです。申し込みに際して無料で申し込みができる会社と出来ない会社があるので、資金移動は不憫に感じます。
A.Aさん|30代男性
営業職の会社員
開設口座:SBI+楽天
資金が分散してしまうことだと思います。一般的な会社員は投資に使うお金を捻出することはなかなか大変だと思いますが、証券会社を分けてしまうと、まとまった資金を持ちにくくなります。例えば短期投資で一気にお金を注ぎ込みたい時、「こっちの証券会社の口座にお金がない!」とチャンスを逃してしまうこともあります。短期投資に過剰な資金を注ぎ込まないために口座を分けているのでそれで良いのですが、時々損した気分になります。
M.Mさん|50代男性
営業職の会社員
開設口座:岡三にいがた+SBI
資金が分散されることで複数の口座状況を管理しなければならないのが少し面倒です。時に限られた資金で機動的に売買したい時に一方の口座から別の口座への資金移動時に直接移動できず金融機関を経由しなければならないのもその度に手間と手数料がかかってしまい不利となります。
M.Sさん|40代男性
会社役員
開設口座:楽天+野村
取扱銘柄は、野村証券の方が多く感じますが、楽天証券もかなりの数の投資信託を扱っておりますので、取扱銘柄の差はあまり気にならないかなと思います。ただ新規公開株などの扱いは楽天証券は少し弱く感じております。まだまだ投資初心者なのですがこれからは、証券会社をもう少し増やし、いろいろな視点で株式の購入検討の幅を広げたいと思います。
6,ネット証券のメリット・デメリットを理解するのが大事
今回はネット証券で複数の口座を作る際のメリット・デメリットを紹介したが、それぞれのネット証券の強みを最大限に活用できるというメリットは大きいだろう。どのようなメリット・デメリットがあるかを理解し、複数のネット証券で口座を開設しても失敗しないよう対策をしていただきたい。
執筆・近藤真理
証券会社の引受業務やビジネス系翻訳携わったのち、個人投資家として活動。現在は総合証券、ネット証券の両方を使いこなし、経済、金融、HR領域で多数の媒体で執筆中。2019年にフィナンシャルプランナーの資格取得。
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