米大統領選の結果を受け、21年1月20日の就任式を経て、アメリカ合衆国の第46代・バイデン大統領が正式に誕生します。新政権の始動により、米国はどのように変わるのでしょうか。米国の政策は、世界にとってはもちろん、日米関係にも多大な影響を与えます。菅首相は2月にも訪米し日米首脳会談に臨む考えです。本稿では、バイデン大統領が押し進める経済政策「バイデノミクス」について、経済、株式市場への影響を徹底的に分析します。

目次

  1. 「バイデノミクス」は大きな政府を志向
    1. 開票後から動き出した新型コロナ対策
    2. 再生可能エネルギーとインフラ投資に4年で2兆ドルの投資
    3. 論争続く「オバマケア」を維持・拡充する考え
  2. “ブルーウェーブ”を逃すも、株式市場にはポジティブな見方が広がる
  3. パリ協定への復帰が象徴する、協調路線の外交
  4. 世界経済が低迷するなか、米国株にはどのような影響があるのか
    1. 株式市場への影響が大きい業界は?
    2. 株式市場の下落要因も残っている
  5. “景気敏感株”で知られる日本株も影響を受ける見込み
  6. 政策を整理し株式投資の戦略として有効活用

「バイデノミクス」は大きな政府を志向

バイデン大統領,日米経済
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

バイデン政権下で押し進められるとされる「バイデノミクス」。その優先事項は、なんと言っても新型コロナウイルスの感染を抑えること、そして米国経済の景気回復です。

開票後から動き出した新型コロナ対策

コロナウイルスに関しては、トランプ陣営がマスクをあまり着用していなかったのに対し、バイデン陣営は選挙活動時からマスク完全装備というスタンスをとっていました。また、大統領選勝利が報じられた11月7日のわずか翌々日、9日には、いち早く新型コロナウイルスの専門家を招集した対策チームを立ち上げました。

また世界的なワクチン開発競争に目を向けると、米国内でファイザーやモデルナなどのバイオ・医薬メーカーがすすめる治験でワクチンの有効性が確認されはじめています。こうした嬉しい報せがありながらも、新型コロナの収束にめどが立つまでは、バイデン政権はコロナ対策と景気刺激策を最優先するでしょう。

再生可能エネルギーとインフラ投資に4年で2兆ドルの投資

経済に関しては、再生可能なクリーンエネルギー社会の実現や公共インフラの整備のため4年で2兆ドルもの巨額投資を行う計画を明らかにしています。2035年までに発電による温室効果ガス排出をゼロに、2050年には米国全体の排出ガスを実質ゼロにする考えです。

こうした巨額投資を積極的に行う背景知識として、米国が採用している「2大政党制」を押さえておくとわかりやすいでしょう。基本的に民主党は財政支出を増やし積極的に市場に介入する“大きな政府”、共和党は政府の介入を極力抑え市場の自由競争を重んじる“小さな政府”を志向しています。共和党のトランプ大統領に民主党のバイデン大統領が勝利したことは、米国民が“大きな政府”を期待していることを意味します。

日本経済新聞によれば、社会保障の積み増しなども含めると、10年で10兆ドルの歳出増加とも試算されています。選挙活動時から、世界大恐慌後の1930年代に行われた積極的な公共投資「ニューディール政策」を引き合いに出してきたバイデン大統領ですが、当時に匹敵する大規模投資を行っていくことになりそうです。

もちろん、歳出を増やすためには財源が必要です。バイデン大統領は大企業への増税、富裕層に対する増税を主な財源と考えています。トランプ大統領が、法人減税、所得税減税に取り組んだのとは反対の流れです。

論争続く「オバマケア」を維持・拡充する考え

米国には国民皆保険制度がありません。トランプ大統領の前のオバマ元大統領は、個人に保険加入を義務付け、低所得者には補助金を出す医療保険制度改革法、通称「オバマケア」を成立させました。当時、バイデン氏は副大統領でした。

ただ、トランプ大統領はオバマケアの撤廃を目指し、米国では無保険者の比率が増えつつあります。共和党は、保険の加入義務は違憲だとしてオバマケアの無効を訴えているほどです。バイデン大統領は、あらためてオバマケアを維持し、さらに拡充させたい考えです。また、薬価引き下げに対しても意欲的です。

“ブルーウェーブ”を逃すも、株式市場にはポジティブな見方が広がる

トランプ政権下の2018年に行われた中間選挙の結果、下院で民主党が議席数の過半数を占める結果となりました。つまり、上院は与党である共和党が過半数、下院は野党である民主党が過半数を占める「ねじれ議会」となりました。通常、ねじれ議会だと議案が通りづらくなります。

今回も11月3日の米大統領選と同日に、米連邦議会選挙が行われていました。前評判では、大統領選では民主党のバイデン氏が勝利し、上下両院においても民主党が圧勝する「ブルーウェーブ」になるとの見方が広がっていました。しかし、トランプ大統領の予想以上の追い上げで、共和党も票を伸ばした結果、上院選に関してはジョージア州で2021年1月に行われる決選投票で勝敗が決まることになっています。

株式市場は、バイデン氏の勝利による歳出増への期待の高まり、そして予想された勝利劇(ブルーウェーブ)は起こらなかったことがむしろ投資家の好感を呼び急騰しました。なぜなら、⺠主党の完全支配下のブルーウェーブでは歳出増が期待される一方で、急進的な増税やIT系企業や銀行などへの規制強化の可能性が懸念されていたからです。共和党が議席数を想像以上に守っていることで、極端な政策は通りづらくなります。

パリ協定への復帰が象徴する、協調路線の外交

バイデン大統領は、「アメリカ・ファースト」で一国主義に傾斜したトランプ氏とは一線を画し、外交では協調路線をとる考えを示しています。日本、韓国、オーストラリアなどの同盟国の関係は強化される見込みです。また、トランプ大統領下で関係が悪化した北大西洋条約機構(NATO)や欧州諸国との関係修復も行われるでしょう。2020年11月に離脱した地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」への復帰も固まっています。

ただし、中国に関しては、トランプ大統領が米中覇権争いでハイテク分野を中心に米中摩擦を激化させましたが、バイデン大統領も中国に対して厳しい姿勢を取る見込みです。しかしながら、トランプ大統領のように突然関税を課すといった過激な措置は行わないでしょう。圧力をかけるところは掛けながら、協調すべき分野は協調していくと考えられます。

日本に関しては、安倍政権下で進めてきた安全保障関連法などの強化は維持されると見られます。東シナ海や南シナ海での中国の軍事活動の抑止、北朝鮮問題、安全保障での日本の防衛費負担や在日米軍駐留経費の日本側負担などの問題への方向性が注目されます。

環境問題で日本にも積極的な対応を求めてくるでしょう。菅総理がいち早く、2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする新たな目標をたてたのはそのあたりを見込んでのことだと思われます。

世界経済が低迷するなか、米国株にはどのような影響があるのか

コロナ禍という未曾有の危機に直面している世界経済と向き合うのがバイデン政権の当面の主要課題となります。国際通貨基金(IMF)が2020年10月に発表した世界経済見通し(WEO)では、2020年の世界GDP成長率は-4.4%と、6月時点から0.5ポイント上方修正されました。

主要先進国における第2四半期のGDP成長率が想定を上回ったこと、中国の経済回復が予想以上に力強いこと、世界的にも第3四半期に景気回復が加速していることなどを上方修正の理由としています。

一方で、2021年のGDP成長率については、今後もソーシャルディスタンスの確保が求められることなどを加味し、+5.2%と6月時点から0.2ポイントの下方修正がなされています。

しかし、コロナ禍が収束すれば、21年の世界経済見通しは上方修正される可能性が高いでしょう。景気回復は株高要因となります。

株式市場への影響が大きい業界は?

では、実際の株式市場において、バイデン政権が大きな影響を及ぼすと考えられる業界を見ていきましょう。

・再生エネルギー、インフラ関連
巨額投資が見込まれる再生可能エネルギーなどの環境関連やインフラへの投資は、連邦準備制度理事会 (FRB)の金融緩和、低金利継続とともに世界景気を刺激し、世界株高を牽引する可能性が高いでしょう。米国株式市場では、バイデノミクスによってインフラ関連とともに低炭素経済へのシフトに弾みがつくことが見込まれるため、クリーンエネルギーに関連した太陽光発電、ソーラーパネル、EV(電気自動車)自動車企業などの銘柄が注目されています。

・大手IT企業関連
GAFAや大手IT系企業に対する規制強化もバイデン下で懸念される政策のひとつです。これらの銘柄は大統領選前に利益確定売りが広がっていましたが、ふたを開けてみると民主党の圧勝が実現しなかったため、課税強化や分割論などの過激な政策は出しづらくなったと考えた投資家らによる買いが見られました。

・ヘルスケア関連
バイデン大統領は医薬品価格引き下げやオバマケアの拡充を政策に掲げています。このため、大統領選挙前のヘルスケア業界は上値の重い展開でしたが、ブルーウェーブが成立しなかったことで一方的な政策は通しにくくなったとして、選挙後にヘルスケア業界株にも買いが広がりました。

株式市場の下落要因も残っている

いくつかの業界で買いが広がっている一方で、バイデン大統領の大きな政府は、財源確保のための債券増発、長期金利の上昇、ドル安の懸念もあります。こうした要因から、短期金利と長期金利の差は広がり、利回り曲線がいわゆる“スティープ(傾斜)化”すると見られています。急激な金利の上昇、急激なドル安は、株式市場の下落要因にもなり得るだけに注意が必要でしょう。

“景気敏感株”で知られる日本株も影響を受ける見込み

日本株は世界的に見ても景気敏感株として知られています。バイデン大統領がコロナを収束させ、積極的なインフラと再生可能エネルギーへの投資で世界景気回復の道筋をつければ、日本株にも好影響が見込めるでしょう。米国と同様に、クリーンエネルギー、環境関連、EV自動車関連銘柄などのほか、無炭素化、低消費電力化などに欠かせない日本の電子部品メーカーなどの注目度も高まりそうです。

また、長期金利が上昇するなら、銀行や保険会社にとっては運用面でプラスの効果になるため、割り安に放置された金融株にも関心が向けられるかもしれません。

ヘルスケア業界は、薬価引き下げ、優遇税制撤廃、オバマケアを推し進めるなら、基本的にネガティブです。

政策を整理し株式投資の戦略として有効活用

米国は大統領によって政策が大きく変わるだけでなく、その政策により世界景気、世界の株式市場に大きな影響を与えます。バイデン大統領の政策の要点を整理し、米国株投資だけでなく、日本株にはどのような影響があるのかを知ることで、株式投資の戦略として活用出来るようにしていきましょう。(提供:JPRIME

執筆:平田和生
慶應義塾大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。日本株トップセールストレーダーとして、鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、ヘッジファンドから高評価を得た。現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。


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