iDeCoは、口座を開設する金融機関によってかかるコストや運用できる商品が変わるため、金融機関の選択は慎重に行いたい。すでにiDeCo口座を開設している人は、移換という手続きによって金融機関を変更できるが、移換にはデメリットもある。iDeCo口座を移管すべきケースを考えてみよう。
1. iDeCo(イデコ)口座の移換を検討すべきケース1:口座管理手数料のかかる金融機関を利用している
口座管理手数料のかかる金融機関を利用している人は、iDeCo口座の移換を検討すべきだ。
iDeCo(イデコ)口座は保有しているだけで手数料がかかる
iDeCoの運用期間中は、国民年金基金連合会、事務委託先金融機関(信託銀行)、運営管理機関(iDeCo口座を開設する金融機関)のそれぞれに対して手数料がかかる。国民年金基金連合会手数料と事務委託先金融機関手数料は、どの金融機関でiDeCo口座を開設しても変わらない。変わるのは、金融機関ごとに設定される口座管理手数料(運営管理機関手数料)だ。
国民年金基金連合会手数料 | 掛金を拠出する月のみ、 拠出1回あたり一律105円(税込) |
事務委託先金融機関手数料 | 掛金の拠出の有無に関わらず、 毎月一律66円(税込) |
口座管理手数料 (運営管理機関手数料) |
掛金の拠出の有無に関わらず、毎月0〜数百円 (口座を開設する金融機関によって変わる) |
iDeCo(イデコ)の口座管理手数料(運営管理機関手数料)は金融機関ごとに異なる
iDeCoの口座管理手数料(運営管理機関手数料)は金融機関ごとに定められており、手数料が無料の金融機関や、残高(年金資産評価額)や掛金が一定額以上などの条件を満たす場合に手数料が無料になる金融機関もある。
iDeCoの運営管理機関手数料がかかる金融機関では、毎月200〜400円程度を負担することになる。 iDeCoの口座管理手数料は掛金額や運用成果に関わらず差し引かれるコストであり、掛金額や運用資産額が少ない場合や、あまり利益の見込めない元本確保型の商品を中心に運用する場合などは、運用成果の目減りが大きくなりやすい。
現在の金融機関を利用したい理由があるなら無理に変える必要はないが、特に理由もなく口座管理手数料のかかる金融機関を利用しているのであれば、口座管理手数料のかからない金融機関へのiDeCoの移換を検討すべきだ。
iDeCo(イデコ)の口座管理手数料(運営管理機関手数料)がかからない金融機関一覧
iDeCoを取り扱う金融機関のうち、口座管理手数料(運営管理機関手数料)がかからない金融機関は以下のとおりだ(2021年1月時点)。移換先の金融機関を選ぶ際の参考にしてほしい。
● SBI証券
● 楽天証券
● 松井証券
● マネックス証券
● auカブコム証券
● auアセットマネジメント(auのiDeCo)
● 大和証券
● イオン銀行
● 三井住友銀行(みらいプロジェクトコース)
● りそな銀行(事業主払込の「iDeCo+」)
条件を満たす場合にiDeCoの口座管理手数料(運営管理機関手数料)が無料になる金融機関は以下だ。(2021年1月時点)
● りそな銀行(個人払込)……当初2年間無料。3年目以降は月額267円(掛金引落口座がりそな銀行以外の場合は月額322円、いずれも税込)
● 野村證券……①iDeCo残高(年金資産評価額)が100万円以上、または②月額掛金が1万円であれば無料。条件を満たさない場合は月額288円(税込)
● ソニー銀行……①iDeCo残高または掛金累計額が50万円以上、または②月額掛金1万円以上かつ掛金引落口座がソニー銀行口座であれば無料。条件を満たさない場合は月額319円(税込)
● みずほ銀行……①iDeCo残高または掛金累計額が50万円以上、または②月額掛金1万円以上・iDeCo専用ウェブサイトにメールアドレス登録・「SMART FOLIO<DC>」に目標金額登録の3つすべてを満たせば無料。条件を満たさない場合は月額260円(税込)
● 第一生命保険……iDeCo残高が150万円以上であれば無料。条件を満たさない場合は月額321円(税込)。
● SOMPOアセットマネジメント……①iDeCo残高が200万円以上、②iDeCo残高が100万円以上かつ月額掛金1万円以上、③月額掛金2万円以上のいずれかを満たせば無料。条件を満たさない場合、iDeCo残高100万円未満かつ月額掛金1万円未満であれば月額330円(税込)、それ以外の場合は月額143円(税込)
2. iDeCo(イデコ)口座の移換を検討すべきケース2:投資したい商品がない・運用コスト(信託報酬)が高い
iDeCoを利用している金融機関に投資したい商品がない、あるいは運用コストである信託報酬が高い場合なども、iDeCo口座の移換を検討すべきだろう。
投資したいiDeCo(イデコ)の運用商品を取り扱っているか
iDeCoの運用商品数は1金融機関あたり3〜35商品と決められており、金融機関によって選べる運用商品は変わる。iDeCoは運用商品や運用方針を自分で決められる点もメリットであり、自分が納得できる運用を行えるかどうかも重要なポイントだ。利用している金融機関では投資したい運用商品の取り扱いがなく、思うような運用ができないならば、投資したい運用商品を扱う金融機関へのiDeCo口座移換を検討すべきだ。
iDeCo(イデコ)の運用コスト(信託報酬)の水準
投資信託で運用を行う場合、運用コストとして信託報酬が運用資産(信託財産)から差し引かれる。信託報酬率は商品によって異なるが、指数に連動した運用成果を目指すインデックスファンド(インデックス投信)の場合、投資対象の指数や資産が同じであれば運用成果の差はほとんどないため、信託報酬率は低いほうがよい。利用している金融機関の取り扱う商品の信託報酬率が他社に比べて高い場合は、移換を検討する理由になる。
信託報酬率が高いかどうかを判断するには、つみたてNISAの対象となっている投資信託の信託報酬率を目安にするとよいだろう。
<つみたてNISA対象公募投信の信託報酬率>
分類 | つみたてNISA 対象公募投信信託 の平均信託報酬率 (税抜) |
告示で定める 信託報酬率の上限 (税抜) |
|
【インデックス投信】 | |||
株式型 | 0.27% | ||
投資対象 | 国内資産 | 0.28% | 0.50% |
海外資産 | 0.30% | 0.75% | |
内外資産 | 0.22% | 0.75% | |
資産複合型(バランス型) | 0.34% | ||
投資対象 | 国内資産 | 0.27% | 0.50% |
海外資産 | 0.49% | 0.75% | |
内外資産 | 0.34% | 0.75% | |
【アクティブ投信等】 | |||
株式型 | 0.96% | ||
投資対象 | 国内資産 | 0.95% | 1.00% |
海外資産 | 1.20% | 1.50% | |
内外資産 | 0.31% | 1.50% | |
資産複合型(バランス型) | 1.09% | ||
投資対象 | 国内資産 | 1.00% | 1.00% |
海外資産 | - | 1.50% | |
内外資産 | 1.10% | 1.50% |
インデックスファンドについては、信託報酬率がつみたてNISA対象商品の平均以下であることを目安に、投資対象が類似する他の商品と比較して判断するとよいだろう。
アクティブファンドは、商品によって運用方針やリスク・リターンのばらつきが大きいため、信託報酬率が高いか低いかを一概に判断するのは難しい。つみたてNISAの信託報酬率の上限を目安にして、投資対象が類似する商品との比較や運用方針・運用実績から予想されるリスク・リターンなどから、個別に判断する必要がある。
3. iDeCo(イデコ)口座を移換するデメリット
iDeCo口座の移換(金融機関変更)には、以下のようなデメリットがある。
iDeCo(イデコ)の運用商品を一度現金化しなければならない
iDeCo口座を移換するとき、運用商品をそのまま移換することはできず、移換元の商品はすべて売却して現金化し、移換先の金融機関に資金を移す形で行われる。移換後は、その資金を使って再度運用商品の買付を行う。
運用商品の売却自体に手数料はかからないが、一部の商品では信託財産留保額が売却代金(解約代金)から差し引かれる。信託財産留保額は投資信託を途中解約するペナルティのようなものであり、一般的に売却する商品の基準価格の0.3%だ。その率は商品によって異なり、信託財産留保額の支払いが必要になるかどうかは、各商品の投資信託説明書(交付目論見書)などで確認できる。
iDeCo(イデコ)の運用が一時的に中断される
iDeCo口座の移換には、国民年金連合会の審査などがあるため少なくとも1ヵ月、不備などがありスムーズに手続きが進まなければ、数ヵ月かかることもある。移換前の商品を売却し、移換が完了して新たに商品を買い付けるまでの間、運用は中断される。その間に投資しようとしていた商品が値上がりしてしまうと、その後の運用成果において大きなマイナスとなるおそれがある。
金融機関によってはiDeCo(イデコ)の移換手数料がかかる
iDeCo口座を他の金融機関へ移換する際、4,400円(税込)程度の移換手数料(運営機関変更手数料)がかかる場合がある。移換手数料は、現在iDeCo口座を開設している金融機関に支払う。移換手数料の有無や金額は、各金融機関のサイトやiDeCoの規約、コールセンターなどで確認できる。
4. iDeCo(イデコ)口座を移換するための手続き
iDeCo口座の移換手続きは、移換先となる金融機関に「加入者等運営管理機関変更届」を提出して行う。移換元の金融機関での手続きは不要だ。
<iDeCo口座移換(金融機関変更)手続きの流れ>
- 新たに口座を開設する金融機関を選び、「加入者等運営管理機関変更届」を請求
- 移換先の金融機関に「加入者等運営管理機関変更届」を提出
- 口座開設(移換完了)
- 移換した資産、掛金の配分を設定
- 運用開始
不備などがなければ、書類の提出後1〜2ヵ月程度で移換と口座開設が完了する。口座開設完了後は、iDeCo専用サイトで移換した資産とこれから拠出する掛金で購入する商品を選び、資産・掛金の配分設定を行う。商品選択や配分設定を行わないと運用が行われなかったり、移換先の金融機関が指定する投資信託を自動的に買い付けられたりする。口座開設完了後は、できるだけ早く商品選択と配分設定を済ませよう。
5. iDeCo(イデコ)口座の移換はよく考えて行うことが大切
iDeCoの利用はすべて自己責任であり、メリットが期待できるのであればiDeCo口座の移換も検討すべきだ。とはいえ、iDeCoは長期運用が基本であり、口座の移換にはデメリットもある。口座の移換はよく検討してから行うようにし、またすぐに移換することがないようにしたい。
執筆・竹国弘城(ファイナンシャルプランナー)
証券会社、保険代理店での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。より多くの方がお金について自ら考え行動できるよう、お金に関するコンサルティング業務や執筆業務などを行う。RAPPORT Consulting Office 代表。1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP®︎
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