iDeCoでは投資信託が注目されているが、元本確保型の定期預金も選べる。掛金のすべてを定期預金に投資すれば、リスクなしで私的年金の形成ができる上に節税も可能だ。しかしiDeCoで定期預金を選択する際は、いくつかのデメリットに注意する必要がある。

1.iDeCo(イデコ)の運用商品の種類…「元本確保型」と「元本変動型」

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(画像=Arthon/stock.adobe.com)

個人型確定拠出年金であるiDeCoでは、銀行や証券会社など口座のある運営管理機関が選定する商品の中から、自身で好きなものを選んで運用する。自身の拠出額や許容できるリスクを考慮しながら、複数の商品を組み合わせたり、途中で別の商品に切り替えたりできる。

iDeCoの商品選びは投資初心者にとっては難しく思えるかもしれないが、iDeCoでは運用管理機関が取り扱える商品数は35以下なので、一般的な投資よりも選びやすいといえるだろう。

iDeCoの商品の種類は、大きく「元本確保型」と「元本変動型」に分けられる。元本確保型は、定期預金や保険商品(年金保険など)が該当する。iDeCoでは現物株式などには投資できないため、元本変動型商品は実質的に投資信託に限られる。

2.iDeCo(イデコ)で定期預金を選ぶ3つのメリット

投資信託がメインと思われがちなiDeCoにおいて、あえて元本確保型である定期預金を選ぶメリットは何だろうか。

メリット1……元本割れのリスクがない

預けた資金が減ることはないのは、何よりも大きいメリットだ。定期預金には価格変動リスクがないため評価額が元本を下回ることはなく、一定期間預けておけば利息も受け取れる。よって、iDeCoでリスクを取りたくない人に向いているといえるだろう。

メリット2……銘柄や資産配分の見直しが必要ない

iDeCoの運用商品は、リスク許容度に応じて定期的に見直す必要がある。許容できるリスクは資産状況やライフステージによって変化するため、リスクと運用商品が合わなくなってきたら、iDeCoの資金の配分を再検討しなければならない。しかし十分な時間やノウハウがなく放置してしまうと、思わぬ損失を被ることがある。一方で定期預金は、基本的に見直しは不要だ。

メリット3……定期預金でも節税効果を期待できる

定期預金は大きなリターンを期待できないが、iDeCoの「掛金の全額所得控除」という恩恵は受けられる。

例えば確定給付年金のない企業に勤める年収1,000万円の40歳会社員がiDeCoの運用を開始したとすると、年間で拠出できる金額は24万円、節税額は年間7万2,000円だ。積立が終了する60歳までの節税効果は合計144万円になる。

iDeCoの節税額は家族構成などによって変わるが、一般的に納めている所得税が多い人ほど節税効果は高くなる。ちなみに、少額投資非課税制度であるNISAには所得税の節税効果はない。

3.iDeCo(イデコ)で定期預金の金利が高い金融機関5社

低金利政策を反映して、銀行の定期預金の金利はお世辞にも高いといえない。主要都市銀行の定期預金の金利は0.002%程度だ。不思議なことに、6ヵ月でも10年でもほぼ同じだ。しかしネット銀行をはじめとする一部の金融機関では、iDeCoで比較的金利が高い定期預金を提供している。

iDeCo(イデコ)における定期預金の適用金利が0.002%以上の金融機関と商品例

金融機関名 商品名 適用金利
イオン銀行 イオンiDeCo定期預金5年 0.050%
岡三証券 三井住友信託DC変動定期5年 0.032%
SBI証券 あおぞらDC定期(1年) 0.020%
大和証券 あおぞらDC定期(1年) 0.020%
野村證券 セブン銀行確定拠出年金専用定期預金5年 0.020%
※筆者作成

いずれも平均的な金利である0.002%を大きく上回っており、イオン銀行の商品は25倍、岡三証券は16倍、SBI証券・大和証券・野村證券は10倍だ。iDeCoでの定期預金はそもそも大きなリターンを期待するものではないが、せっかくならできるだけ金利が高いところに預けたい。

iDeCo(イデコ)で定期預金を選択する場合の注意点

ただし、満期前の解約には注意が必要だ。満期前に解約すると、適用される金利が変わる。例えば「イオンiDeCo定期預金5年」の場合、1年以上2年未満の解約で0.01%に、2年以上3年未満の解約で0.015%に低下する。満期が5年と長い商品は、途中解約をしない前提で選択しよう。

iDeCo(イデコ)で定期預金の運用を検討している場合は口座開設前に商品と金利を確認

iDeCoの投資対象として定期預金などの元本確保型商品を考えている場合は、iDeCo口座を開設する際にできるだけ定期預金や保険商品の取扱数が多い金融機関を選ぶとよいだろう。上の表の中では岡三証券が元本確保型商品の品ぞろえが多く、定期預金3本、保険商品4本を取り扱っている。他の金融機関は、定期預金1本程度のところが多い。iDeCoの取り扱い定期預金と金利は、iDeCo口座開設前に必ずチェックするようにしたい。

4.iDeCo(イデコ)で定期預金を選ぶ2つのデメリット

iDeCoで元本確保型商品を選ぶ際は、以下のようなデメリットがあることを覚えておこう。

デメリット1……iDeCoの「運用時の利益が非課税」という大きなメリットを失う

iDeCoの節税メリットは、「掛金が全額所得控除の対象」「利息・運用益が非課税」「受取時にも控除あり」の3つだ。しかしiDeCoで運用益がほぼ得られない定期預金を選ぶと、2番目の「利息・運用益が非課税」というメリットをみすみす手放すことになる。

とはいえ、iDeCoで元本変動型商品を選ぶと損失が発生する可能性がある。iDeCoで運用益が得られなくても掛金の所得控除によって所得税・住民税の節税効果は得られるので、それが目的だと割り切るのも一つだ。iDeCoの所得税・住民税の節税効果は、専業主婦などのように所得がない場合を除けば、どの運用商品でも受けられる。

デメリット2……リターンの有無にかかわらず口座管理手数料がかかる

iDeCoでは、どの金融機関で口座を開設したとしても手数料が発生する。iDeCo加入時には国民年金基金連合会に加入時手数料2,829円(税込)を支払う。またiDeCoの運用期間中は国民年金基金連合会と信託銀行に毎月171円(税込)を支払い、受取時は毎回給付手数料440円(税込)を支払うことになる。

iDeCoで毎月2万円を拠出して定期預金から得られる利息は、金利の高い「イオンiDeCo定期預金5年(0.050%)」でも、20年間でわずか2万4,000万円だ。月にすると120円なので、毎月発生する手数料を補うこともできないのだ。

ただし、前述のとおりiDeCoの掛金の所得控除のメリットは得られる。「定期預金の利息+所得税節税額>支払手数料」となるのであれば、収益を得られず手数料が発生してもiDeCoで定期預金を購入するメリットはある。金融機関やiDeCo特設ページでシミュレーションできるので、自身の節税額を試算してみるとよいだろう。

5. iDeCo(イデコ)で商品を選ばないまま放置するとどうなる

iDeCoの商品選定においてよくある誤解に、「商品を指定しなければ勝手に定期預金に投資してくれる」というものがある。iDeCoの口座に入金した後、どの運用商品に資金を投じるか決めないまま一定期間が経過すると、金融機関が自動的に商品を購入する。これを「指定運用方法」と呼ぶ。

iDeCoの指定運用方法で購入される商品は、定期預金などの元本確保型商品とは限らない。2020年10月1日時点の届出状況によると、多くの運営管理機関で投資信託が指定されている。投資信託はいうまでもなく、元本割れもあり得るリスク商品だ。

iDeCo口座開設後、勝手に商品を購入されてしまうまでのタイムリミットは、初回入金から「3ヵ月」だ。iDeCoで何に投資しようか迷っていると、すぐに経過してしまう期間である。3ヵ月が経過すると「特定期間経過のお知らせ」が通知され、猶予期間中に加入者から指示がないと指定運用方法が実行される。猶予期間は金融機関によって異なり、2週間~1ヵ月くらいだ。

iDeCoで元本確保型商品を運用するつもりだったのに、知らない間にリスク商品を買われて損失が発生していたという事態を避けるために、掛金は商品選定の目途が立ってから入金することをおすすめする。

執筆・篠田わかな(ファイナンシャルプランナー)
外資系経営コンサルティング会社にて製造・物流・小売部門のコンサルタントとして業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。

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