都道府県別貯蓄額ランキング
(画像=じぶん銀行)

要旨

エンゲル係数とは、消費支出に占める食料品の割合である。その割合が2014年頃から上昇して、最近も過去最高に近いレベルにある。その背景には、物価上昇があるが、よく調べると、それだけではなく、節約志向の強まりが食料品(除く外食)へのシフトを促している。

物価高騰の効果

食費が増えて大変だという声を聞く。これは、物価上昇の痛みが家計を直撃しているから起こっているのだろうか。筆者は、この状況を詳しく調べてみた。

負担増を象徴するのは、エンゲル係数の上昇である。この変化は、コロナ禍だから起こっている訳ではなく、2014年頃から最近にかけてずっと続いている傾向である(図表1)。ひとつの背景は、家計が高齢化して、エンゲル係数が高い高齢者世帯が増えていること。それと、物価上昇がある。食料品は、日本の自給率の低さもあって、輸入依存度が高い(生産額ベースの自給率は2020年67%)。海外の物価は、日本国内がデフレを抱えていても世界経済の成長によって上昇する。その影響が避けがたく、家計を食料品の物価上昇として直撃する。最近の輸入物価は、2021年12月の飲食料品・食料用水産物が前年比26.3%の上昇となった。それを受けて食料品の物価上昇圧力も大きい。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

エンゲル係数の上昇のうち、物価要因とそれ以外の要因がどれくらいかを分解してみた(前掲図表1)。2021年(2020年12月~2021年11月、以下同じ)のエンゲル係数は、2014年に比べて、+2.3%の上昇だったが、そのうち+1.7%は物価要因であった。上昇分の約7割は物価上昇で説明できる。2010年から2014年で調べてみると、エンゲル係数の上昇分+0.7%のうち、物価要因は+0.1%であった。2014年以降に進んだ物価上昇がエンゲル係数を押し上げたことがわかる。

食料品の価格上昇は、2014~2021年の7年間に8.0%の増加率で全体の2.4%を大きく上回っている。品目別にみると、果実24.6%、魚介類17.3%、菓子類13.4%、肉類11.5%と伸び率が大きい(図表2)。生鮮食品は、趨勢的に伸び率が高くなり、そのため果実、魚介類の上昇率は大きくなっている。魚介類と果実は、自給率が低く、輸入割合が高い品目である。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

なお、2019年10月の消費税率の引き上げでは、食料品(除く外食)に軽減税率が適用されている。その効果は本当ならばエンゲル係数を低下させるが、食料品価格は相対的に他品目よりも上昇しているので、逆にエンゲル係数も上昇している。

食料品増加の中身

食料費の中で増加傾向が強い品目とは何であろうか。総務省「家計調査」(2人以上世帯)の品目別支出額の食料費の内訳を調べて、2010年をベンチマークにして、どのくらい増加したかを比較してみた(図表3)。すると、最も増加が著しかったのは、調理食品であった。お弁当、調理パン、冷凍食品などである。これは、中食とも言われていて、家計が調理に時間をかけなくなったことを象徴している。女性の労働力化が進んだことも、中食の支出増の背景だと言える。飲料費が増えているのは、お弁当などとの補完関係が強いからだろう。お弁当が売れると、一緒に飲むペットボトルの飲料も消費が増えるという理屈である。最近は、コロナ禍で外食が減った分、代わりに調理食品、飲料を買って自宅で食べる人が増えたのだろう。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

最も増加している調理食品は、最近、その中の冷凍食品が食材費高騰と包装ラップ・物流費の上昇によって値段を上げている。材料になっているやきとり・唐揚げ・卵製品といった鳥関係の価格高騰も確認できる。二番目に増えている飲料では、コーヒーが国際商品市況の上昇によって上がる傾向が顕著である。紅茶や炭酸飲料も値上がりしているようである。

そのほか、肉類、乳卵類、油脂などの支出も目立って増えている。輸入肉の価格上昇、食用油・マヨネーズなどの値上がりもそこには加わっている。反対に、魚類、穀物(特にコメ)の支出は低調である。

物価上昇以外の要因

エンゲル係数の上昇に対して、多くの人は値上がりするのならば支出は減っていくだろうと考えるだろう。実際は、物価要因を控除しても食料品支出は増えている。実質支出は増加しているのが実情だ。この関係は、食料品から外食を除いたものでみると、さらに鮮明にわかる(図表4)。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

また、「所得が減るとき、選択的支出が減って、食料品などの必需的支出が減りにくいから、エンゲル係数が上昇する」という説明もよく聞く。しかし、食料品は減りにくいのではなく、逆に支出が伸びている時期もある。この現象は単に必需的だから減りにくいということでは説明できない。

少し意外なデータは、食料品支出と消費支出の前年比の間に逆相関の関係が成り立っていることだ。消費支出が減っているとき、食料品支出(除く外食)は増えている(または減少幅が縮小)。だから、エンゲル係数は上昇している。そうした傾向は、まさに2014年以降に強く表れるようになった。

この関係を品目別にみていくと、やはり品目によって大きな違いがあった。外食費は消費支出との相関関係が高い。特に、外食費を除く食料品支出は、外食費と逆相関が極めて強くなる。家計が、家で料理を作ることと、外食をすることは、代替関係にあるからだ。

消費支出と他の消費項目との関係を調べると、食料品(除く外食)とは逆相関の関係が色濃く見える(図表5)。一方で教養娯楽、交通、被服・履物といった選択的支出は順相関の関係である。つまり、景気が良いときは、外食・レジャー関連の選択的支出は増える。このとき、食料品は支出が抑えられる。逆に、景気情勢が厳しくなると、自宅で食事を楽しむ行動が強まる。外食を除いた食料品支出は、節約型消費として、消費全体が減っていくときに増えるのであろう。このように理解すると、分子の食料品が増えて、分母の消費支出が減るから、エンゲル係数が敏感に上昇することがわかる。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

節約的な食料品は何か

株式投資では、食品はディフェンシブな銘柄だとされる。上記のデータはそれを裏付けるものだ。コロナ禍でも、外出が手控えられて、在宅時間が増えた。だから、自宅で家庭料理を楽しむ志向が強まることは違和感がない。食料品支出が増えるのは、なるべくお金をかけないで楽しもうとする志向が消費者に強まったことの表れである。

では、食料品支出のうち、特にその傾向が強いのは、何の品目であろうか。それを調べると、小麦・もち(他の穀物)、乾物・海草、油脂・調味料、酒類、麺類が上位に挙がっている(図表6)。パン、果実、ジュース・炭酸飲料はそうした関係は乏しい。ここからは、節約志向によって逆に増える食料品には、時間をかけて料理を楽しもうとするときに使われる品目が多いことがわかる。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

エンゲル係数が上昇する背景には、節約志向の強まりによって、楽しみを家庭料理に振り向けるという代替効果が働いている側面もある。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生