そもそも丸井の伊勢丹新宿店包囲網破りから始まった日本の「バーニーズ」の赤字だらけの24年間
(画像=「セブツー」より引用)

YouTubeには「あのアイドルの信じられない現在の姿」というキラーコンテンツがある。アイドルの瑞々しいかつての容貌を現在の醜悪な姿と対比して見せる企画だ。ファッション業界を40年間以上見てきた私にとって、この「バーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEWYORK)」という存在は、かつては日本のファッション業界ではアイドルだった。

バーニーズジャパンの所有は、伊勢丹(1989年)→住友商事&東京海上グループ(2006年)→セブン&アイ・ホールディングス(2014年)、そして今回のラオックスと推移してきた。

そもそも伊勢丹が「バーニーズ ニューヨーク」を日本で手がけるようになった本当の理由は、「バーニーズ ニューヨーク」が持っている「バーニーズ・エアー」と呼ばれるスノッブで独特なファッションセンスを習得するためという表向きの理由ではなかったのだ。バーニーズジャパン設立(1989年)当時、伊勢丹新宿店は、丸井の伊勢丹新宿店包囲戦略に必要以上の脅威を感じていた。そこで日本第1号店になった「バーニーズ ニューヨーク」新宿店(2001年閉店)の場所をめぐっては、伊勢丹と丸井の熾烈な争いがあった。丸井にとっては伊勢丹新宿店包囲網を完成させる最後の場所であったのだ。しかし伊勢丹が勝利を勝ち取ったのだが、さてどう使えば良いのか。新宿店のサテライト店にするには近すぎる。そこで持ち上がったのがバーニーズジャパンの第1号店オープンだったのである。そのあたりから「ファッションの伊勢丹」の標榜が始まったのだが、それにハクをつける格好の戦略であり、「バーニーズ ニューヨーク」新宿店オープンは、まさに一石二鳥に思われた。しかし、バブル経済の崩壊がその後襲ってきて、バーニーズジャパンを持ち切ることができずに伊勢丹は売却。バーニーズ自体も米国破産法第11条(チャプターイレブン)を申請し、再建の道を歩み始めた。またアメリカ店舗の家賃をめぐる伊勢丹との訴訟も起こった。

これを買ったのが、コーチジャパンの株売却で大金を手にしていた住友商事と東京海上の連合チームだ。クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン出身と必ず名前の前に冠がつく上田谷真一氏が社長に就任(後にTSIホールディングス社長に就任したが成果が出ない前に退任)して、新宿店の全館リニューアルなどを手掛けたが業績回復はできずに、セブン&アイ・ホールディングスに60億円で売却。しかしコンビニエンスビジネスへの経営資源の集中を図るために、今回のラオックスへの売却となった。取得価格は非開示だという。

バーニーズジャパンは現在、国内に旗艦店6店舗(西武渋谷店、横浜店、銀座店、六本木店、神戸店、福岡店)、アウトレット店(御殿場、軽井沢、神戸、滋賀竜王、木更津)を運営、2023年2月期では売上高127億1100万円(前年141億1600万円)で、営業損益、経損益、純損益は直近3年ですべて赤字。2022年2月期のそれぞれの損益はー18億5400万円、ー18億6300万円、ー30億3100万円だった。2022年2月末の段階では純資産はー12億4600万円、総資産は10億8000万円。従業員296名。

今回買収したラオックスには勝算があるのだろうか。「国内富裕層の消費ニーズに応えるべく、新しいスタイルのリテール事業を展開」とか「バーニーズジャパンの高いブランド力」という言葉が今回の買収に関するラオックスのコメントにみられるが、これは大いに疑問だ。真の目的は現在のバーニーズジャパンの合計10店の店舗を信じられない安値で買うことだったのではないだろうか。少なくとも「バーニーズ ニューヨーク」に行ったら、「かっこいいオシャレなファッションが買える」と思っているファッション好きはほとんどいないだろうし、「バーニーズ ニューヨーク」というブランドに引きつけられる一般人も現在まずいないと思う。

そもそも1923年にジーン・プレスマンが創業した「バーニーズ ニューヨーク」は1996年連邦破産法第11条の適用を受けて事実上倒産した後は、2004年ジョーンズ・アパレルグループが4億ドルで買収し、その後2007年ドバイ政府所有の投資会社イスティアールに9億4230万ドルで売却され、2019年には2度目の連邦破産法第11条申請。2020年には、全ての店舗が閉店して、97年間の歴史に幕を下ろしている(以上Wikipedia参照)。その後は「ブランドの廃品回収屋」と仇名されるオーセンティックブランズグループに買収され、現在ブランドビジネスの再展開が考えられているという。要するに終わってしまった有名セレクトショップなのである。発祥の地アメリカでこうなのだから、その日本版であるバーニーズジャパンに何か特別な「威光」などあるはずがない。「バーニーズ ニューヨーク」の「威光」を知るのはせいぜい現在60歳以上のファッション好き、ファッション関係者だけだろう。

「バーニーズ ニューヨーク」が日本に残したものとして挙げなくてはならないのは、伊勢丹がバーニーズジャパンを始める時に社内から集めた精鋭たちが、有賀昌男・エルメスジャポン現社長、吉野哲・福助元社長、藤巻幸大・「藤巻百貨店」創業者、小田切賢太郎・バーバリージャパン前社長など日本のファッション&ラグジュアリービジネスのキーパーソンに育ったことぐらいだろう。