庶民の感覚とは大きく乖離した賃上げ報道の真実
(画像=「セブツー」より引用)

岸田文雄総理がじきじきに経済界に賃上げを要求した結果ということになるのだろうか?なかなか景気のイイ話が聞こえてくる。毎年春に行われるいわゆる「春闘」では、労働組合の中央組織である連合が初回集計結果が平均3.8%増になったと4月上旬に発表している。最近の賃上げ率は2%程度で推移していたので、これは岸田総理の働きかけで主に大手企業が「異例」の賃上げに踏み切ったのが原因と見られる。しかし、考えてみれば今年1月の消費者物価指数(CPI、生鮮食品は除く)は、前年同月比4.2%の上昇でなんと41年4カ月ぶりの高い伸びだった。これでは平均3.8%の賃上げも「相殺」されてしまう。要するに実質賃金上昇はマイナスなのである。

またここで、この「春闘」参加企業というのは、いわゆる上場企業を始めとした大手企業であって日本の400万社あるといわれる企業の20〜30%を占めるに過ぎないのである。残りの70%〜80%の中小企業には、この平均3.8%という数字は全く「他人事」なのである。

経済統計というのは、業績や社員待遇数字を明らかにしている上場企業をベースにしている場合が多く、実態とはあまりにも乖離していて「庶民感覚ではピン来ない」ということになってしまうのだ。

今回、高市早苗経済安全保障担当大臣と小西洋之参議院議員(立憲民主党)による総務省行政文書の捏造問題についても、争点である「放送法」解釈変更の発端になっているのは、「ニュース23」(TBS)」に故安倍晋三元総理が出演した際(2014年11月18日)に、街頭インタビューでアベノミクスの成果に関して「実感がないですね」という消極的反応しかなかったことに、安倍元総理が番組中逆ギレしたことだった。たしかにアベノミクスによる異次元金融緩和で円安が進み、輸出企業の業績は上向き日経平均株価は大きく上昇した。しかし、それは日本の70%〜80%を占める一般庶民にはなんの影響もなかった。街頭インタビューでの庶民たちの反応はまさに「本音」だ。ことほど左様に、政府の施策や行政関連の統計には実態とは乖離したものが多いのだ。今回の賃上げと賃上げ報道もそうしたムード作りのひとつなのではないか。

ましてや、構造不況業種である繊維&アパレル業界では、今回の「賃上げ」報道などというのは、別世界の話だろう。

もちろん、とんでもない賃上げをぶち上げて話題をかっさらっている企業がアパレル業界にないわけではない。

まずファーストリテイリングは3月から最大約40%の賃上げを実施。基本的には現在25万5000円の新入社員初任給を30万円(年収で約18%アップ)に、入社1月〜2年目で就任する新人店長月収29万円を同39万円(年収では36%アップ)へそれぞれ引き上げるという「先手必勝」の宣言をすでに1月にぶち上げている。その他の社員も年収で数%〜約4%アップしているという。この「数%」というところが、成果主義のファストリらしいところだ。問題は入社3年の離職率50%、入社5年の離職率80%の人材「排出」を、高額年収で食い止められるかである。

また2023年2月期で過去最高の業績(売上高前年比5.6%増の6161億2500万円、営業利益同7.9%増の533億200万円)をマークしたしまむらは4月、正社員(約3,000人)の賃上げ6.5%(昨年5.6%)及びパート社員(約1万5,000人)の賃上げ、5.2%(昨年4.6%)を発表している。大卒正社員の初任給は昨年よりも1万7600円高い27万3000円になっている。

やはり業績好調のアダストリアは、2024年2月期(今期)から正社員約4000人を対象とした平均6%の賃上げを行うと4月2日に発表した。今年は目標の200人の新入社員が採用できたが、今後の採用については厳しさが増すだろうと同社はしており、「アダストリアは面白い企業だと言われる仕組みをつくりたい」と福田三千男代表取締役会長。

構造不況業種の繊維&アパレル業界でも、業績好調の企業は世の中の大企業並み程度の賃上げはできるのだろうが、物価の急上昇を考えると、それでも十分とは言えないのが現状だ。ましてや賃上げもままならない大部分の中小企業の従業員にとっては、「賃金は上がらなくとも物価は上がらない」デフレ時代の方がマシだったという声も聞こえ始めている。こうした声は岸田内閣には届いているのだろうか。